159.ストーンランナー戦 5
「次は左脇腹ですにゃ!」
「はい!」
「いやー、あのふたりの連携もよくなってきたわね」
「一週間も戦い通しなんだ。よくなってもらわないと困る」
「まあ、ね」
今日は初めてストーンランナーと戦闘を行ってからちょうど一週間にあたる日だ。
この間に俺たちの連携もよくなり、さまざまな攻撃パターンが生まれている。
実際、いまは俺とアヤネは少しではあるが休憩を取れているわけで。
「こう、ひりつく戦闘中でも休憩がもらえるのはありがたいわ」
「集中がきれないならな」
「そこまでじゃないわよ。さ、そろそろ休憩終わりよ」
「了解、始めようか」
休憩が終わるとすぐに戦っていたふたりへと合図を出し、イフリート・アームでストーンランナーを拘束する。
その間に戦っていたミキとリオンは距離をとり、少し休憩というわけだ。
ストーンランナーがふたりを追おうにも、縛鎖の檻で簡単には注意を向けられないようにしてある。
実際、この戦法を取り始めた最初の日、縛鎖の檻を無視してリオンを追いかけようとしたストーンランナーは縛鎖の檻による破壊効果で第三層に大きな罅を入れられていた。
それ以降、縛鎖の檻による強制力が外れるまではアヤネから注意を外すことはなくなったわけだ。
「突撃やジャンププレスを封じてあるなら対して怖いものでもないわね!」
「そう言って大怪我するなよ。回復だって一歩遅れることがあるんだからな」
「はいはい! よっと!」
かん高い音を立ててストーンランナーの爪がアヤネの盾にはじかれる。
最初は受け止めるだけで精一杯だったアヤネも、いまでは受け流すことができるようになったのだ。
かくいう俺も……。
「【灯火の幻影】」
灯火の幻影をノータイムで発動できるようになり、集中が必要であるが各種レベル6魔法も使えるようになっていた。
もっとも、ストーンランナーにはレベル6よりレベル5を連射したほうがダメージが入るみたいなので出番は滅多にないのだが。
「縛鎖の檻、そろそろ切れるわよ!」
「わかったにゃ! フート殿、第三層の破壊お願いしにゃす!」
「了解! 行くぞ!」
水のレベル5と火のレベル5を連発してストーンランナーの全身にダメージを積み重ねる。
そして、脆くなったそれらの場所をミキとリオンが破壊していくわけだ。
ちなみに、リオンは剣から棍棒のようなものに持ち替えていた。
いわく、こちらの方が破壊力が出るらしい。
「第三層、破壊できました!」
「よくやったにゃ! それでは一時撤退ですにゃ!」
「おう!」
撤退するときはありったけの氷魔法をぶつけて動きを鈍らせる。
そのとき、俺はミキに担がれて行くわけだが……素早さが違いすぎてついていけないんだよな。
ある程度離れたら車を出し、後ろの道をアイスコフィンで塞いで完全に離脱、これが1サイクルだ。
ちなみに、今日はこれが2回目だな。
「皆さん、戦闘慣れしてきましたにゃ」
「まあね。一週間も戦ってれば慣れるでしょ」
「一週間であの強さの個体に慣れるのはすごい事にゃ。普通のハンターじゃ無理にゃ」
「リオンはできているだろう?」
「吾輩にとってはまだ格下ですからにゃぁ。倒すのは容易ではなくとも、逃げ出すのはなんとかなりますにゃ」
「なるほどです。でも、この調子であと一週間以内に倒せるでしょうか?」
「大丈夫だと思いますにゃ。……まあ、四層目が非常に硬いのは大問題ですけどにゃー」
そう、第三層を乗り越えたあと、第四層を俺たちはまだ破壊できていない。
多少砕くことはでき、それをリオンが持ち帰って調べた結果、オリハルコンに複数の金属を混ぜた合金だということがわかったそうだ。
ただ、それだけだとあの強度は考えにくいとも言っていた。
おそらくは魔力によって強度を上げているんだろう。
「さて、あと30分くらい休憩したらまたストーンランナー捜しにゃ。気を抜かないようにするにゃ」
「わかってるって」
というわけで、本日3回目のストーンランナー戦に向けて捜索を開始したのだが……。
「完全に空振りましたにゃ……」
「残念です……」
「ついてないわね」
「まあ、こういうこともあるさ。キャンプに戻ってゆっくり休もう」
不完全燃焼気味ではあるが出会えなかったものは仕方がない。
それに、もうすぐ夕暮れの時間帯、これから戦うのは無理だ。
比較的安全とされているルートをたどり、俺たちはキャンプ地へと引き上げることに。
……引き上げたのだが、キャンプ地には先客が待っていた。
なぜかギルドマスターがここに来ていた。
「おう、お前ら。頑張っているようだな」
「なんでギルドマスターがここに?」
「例のサジウス領の冒険者崩れを狩り出すことになったんだよ。それで陣頭指揮を俺がとることになった」
「わざわざマスターがですかにゃ?」
「おう。ハンター側の指揮は俺じゃないと示しがつかないってことでな」
「ハンター側?」
「国軍も来てるぜ。そっちは黒旗隊が中心だ」
「黒旗隊が出てくるとは……国も本気ですにゃぁ」
「目の上のたんこぶがようやく取れそうだからな。お前たちがここのキャンプにいると聞いて挨拶しに来たわけよ」
「わざわざありがとうございます、ギルドマスター」
「なーに。それから黒旗隊の隊長からもお礼を伝えてほしいと言われててな」
「黒旗隊の隊長? 私たち、その黒旗隊とやらも詳しく知らないんだけど」
「ああ、そういえばそうかもな。黒旗隊ってのは軍務卿直下のエリート騎士団だ。心身ともにガチで強い連中の集まりさ」
「そうにゃ。黒旗隊のメンバーは平均レベルが100を超えているとも聞くにゃ。まともにぶつかったらどんな軍隊よりも強いにゃ」
「そうだな。で、お礼ってのはな、例の後天性魔法を覚える施設と情報提供についてなんだわ」
「うん? あれがどうかしたのか」
「……やっぱりわかってねぇよな。詳しいことは街に帰ってきてから説明するが、あれのおかげで国軍に大量の回復魔法士が生まれたわけだよ」
「それは素晴らしいですにゃぁ。でも、すぐにはレベルが上がらない気がするのにゃ?」
「軍の訓練なんて生傷との戦いだろ。実践経験には事欠かなかったって訳よ」
「……それじゃあ、かなりの数が実戦レベルの魔法を使えるように?」
「黒旗隊はハイヒールの使い手がかなりいるって言ってたぜ。おかげで部隊編成や救護もしやすくなったってな」
「それならいいんだけど……あまり無理はしてほしくないな」
「そんなことはあっちだってわかってるだろうよ。ま、それを伝えにきただけだ。あの連中は俺たちに任せて、お前たちはお前たちの目的に向かってがんばれよ」
それだけ告げるとギルドマスターは文字通り風のように去って行った。
リオンに聞いたが、どうやらスキルの効果らしい。
なにはともあれ、気がかりだった一件が片付きそうでなによりだ。
ギルドマスターの言葉通り、俺たちは俺たちの戦いに備えよう。
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