134.那由他の国反逆者処罰
「おお、さすがは軍の最新車。吾輩の愛車よりも断然に早いのであるよ!」
「だぁっとれ、青猫!! こっちは、フートを説得するための最終打ち合わせ中なんだからよ」
「打ち合わせもなにも。ここまで来た以上、出たとこ勝負が一番であるのになぁ」
吾輩たちが都を出発して丸2日。
そろそろフート殿がいる場所にゃ。
高台になっているここからならば、そろそろ視認できそうなのであるが……。
ああ、あったにゃ
「後ろで会議をしている諸君、そろそろタイムリミットであるよ」
「ってことはつまり……」
「ほれ、あそこに国軍旗がまとめて立てられているである」
「……私の目が悪いのでなければ、150を優に超えた数が立てられているように思えますが……」
「残りのバカ貴族も返り討ちに遭ったんだろうよ。問題はそいつらも生け捕りにしてくれているかだが……」
「ともかく、急ぐのであるよ。フート殿がキレて魔法を打ち込む前にな」
「……キレて魔法ですか?」
「今更、議論する余裕はないのである……さ、ついたであるよ」
レベル7魔法で遊ぶようにフェンリルたちとじゃれ合っているフート殿から少し離れたところに車を止める。
フート殿は不思議そうな顔を見せるが……ああ、あれはおそらく今日が期日だということを忘れていた顔であるな。
ミキ殿もアヤネ殿もあまり積極的ではないだろうし、放っておいてもあと1日くらいの猶予はあったやも知れないにゃ。
さて問題の内務卿と軍務卿だが……レベル7魔法で遊んでいたという事実で固まっているであるなぁ。
ブルクハルトもさすがにここまでとは思っていなかったであろうが、フェンリルならありえると気持ちを切り替えた様子。
レベル7魔法、発動するとすぐにかみ砕かれて食事になるとは言え、一瞬は見えてしまうからなぁ。
まあ、内務卿たちへの威嚇にはなったか。
不興を買えばあれが自分たちに向けられることは確定なのであるからにゃ。
「フート殿。都での話まとまったのである」
「ああ、そっか。夜になっても連絡が来なかったら、一発威力を落としたマキナ・トリガーを撃ち込もうかと思ってたんだけど」
この人、まったく忘れてなかったであるよ!
殺伐とした考えを持ちながら、フェンリルとあんなに楽しそうに遊ぶとはどういう思考回路なのであるか!
「それで、そっちの豪華な服を着た人たちは? すごい場違い感があるけど」
「この国の内務卿ルッツ = ヤスパース殿と、軍務卿クリストフェル = ヨハンション殿である」
「それって結構お偉いさんじゃ?」
「……内務卿は国のナンバー2、軍務卿は国軍の総督であるよ」
「そんな偉い人がなぜここに?」
「そこからは私めがお話いたしましょう」
「内務卿殿?」
「はい、内務卿を預かるヤスパースと申します。今回の一件についての幕引きを伝えに参りました」
「幕引きねぇ……リオンが言っていたけど、あの旗って国軍旗じゃないの? あれに逆らったら、国軍に刃向かう逆賊だってほざいていたけど、3名ほど?」
「……その3名は生きてますかな?」
「死んでない、が正しいかな。栄養を与える水だけを飲ませているから死んではいないだろう。刃物の類いは持たせてないし。水を飲まないでいて衰弱死していたら、責任は持てないけど」
「……いえ、殺さずに生け捕りにしていてくれただけで十分です。その3名と会うことはかないますかな?」
「できますよ。目印は付いてますし。今案内するのでどうぞ」
フート殿に従い我々は歩き出す。そこには至るところに、空気穴と思われる穴の開いた地面が広がっていた。
……アンスランはこんな化け物相手に戦争を起こすつもりだったのかにゃ?
「着きましたよ。ここです」
「我々には他と見分けが付きませんが……」
「土の精霊に頼んで目印になってもらってましたからね。3人一気に引き上げて大丈夫ですか?」
「ええ、構いません。よろしくお願いします。」
「それでは、てりゃ」
フート殿の間の抜けた声とともに大地に穴が開く。
そしてそこから、3人の男どもがはじき出され、情けなくも尻餅をついた。
「……ふむ。クラルテ伯爵、オーティス侯爵、インス侯爵に間違いありませんな」
「おお、ヤスバース内務卿にヨハンション軍務卿! あなた様方も国賊の討伐に来てくださいましたか!」
「これで国賊どもの命運も決まったというもの!! 覚悟するがいい、赤の明星ども!」
「……ふむ、貴公らは何か勘違いしているようだな?」
「な、何をおっしゃいます、軍務卿! この者たちは国軍旗をもつ我々に逆らったのですぞ!!」
「その国軍旗だがな。アンスラン公爵……いや、反逆者アンスランによって不正に持ち出されたものが発覚しているのだよ」
「……は? なにをおっしゃっているのですか?」
「わからなかったならば直接言おう。汝らは偽の国軍ということになるのだよ」
「な……何を一体? 我々は国軍旗を受け取り逆賊を討たんがため立ち上がったのですぞ!?」
「それが間違いだというのだ。貴公らの裁きは都にて厳正に行われる。大人しく捕らえられよ」
「バカな……我々はアンスランに従っただけですぞ!」
「だとしても偽の国軍を名乗ったのは事実だ。その罪は裁かれよ。以上だ」
「そ、そんな……」
アンスランとやらにだまされていたバカ貴族どもは、その場に崩れ落ちたのである。
フート殿が死なない程度にしか栄養を与えていなかったが故、刃向かう気力もないのであろう。
バカ貴族どもは吾輩たちを連れてきてくれた兵士たちによって、しっかりと縛り付けられて動けなくされたのである。
これで、バカ貴族の件は一件落着であるな。
さて、問題は残りの案件を決める事であるな。
「……さて、フート殿。あの貴族3名についての処置は我々に任せてもらってよいでしょうか?」
「ああ、構わないさ。……ところで、こういう国って連座制があると思うのだけど」
来た!!
内務卿たちがもっとも対応を間違ってはいけない問題!
さて、内務卿はどう答える?
「確かに、連座制はありますな。今回の国軍の偽装であれば一族郎党全員死罪が決まりでございます」
「うーん、やっぱりそうなるか」
「フート殿はお気に召さないと?」
「……まあ、内政干渉になるんだけどね」
「意見は伺いましょう。それが通るかどうかは国王陛下との話し合いになりますが」
「意見を聞いてくれるだけで助かるよ。できることなら、今回の件に関わっていない人は減刑して欲しいんだ」
「減刑、でございますか」
「無罪って言うのは難しいんだろ。なら、減刑でとどめて欲しい」
「減刑ですか……私財没収の上、平民落ちとかでしょうか?」
「それはそれでスラムの住人が増えそうで困る。慎ましやかに暮らせば一年程度は暮らせる程度の金額は持たせて欲しいかな」
「ふむ……ですが、私どもとしても、復讐などに走られては困ります。そのものたちに監視の目をつけなければなりません。ですが、一族が離散するとなれば、監視をかいくぐるものも生まれましょう」
「うーん……それじゃあ、そっちの腹案は? 何も考えずに来たわけではないだろう?」
「我々としては降格処分として、家は存続させます。代わりに監視すれば負担も少なくてすむというもの」
「わかった。それでいいよ」
フート殿があっさり自分たちの案にうなずいたことに驚きの表情を浮かべる内務卿。
まあ、驚くであろうなぁ。
「……よろしいのですか?」
「政治は政治の本職に任せるよ。その代わり、罪人のあぶり出しはしっかり頼むよ」
「はい。それは確実に」
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