135.戦後処理

 さて、これで無事めんどくさい連中も引き渡せた。

 急いで邦奈良の都に帰ろうと思ったのだが……。


「内務卿たちをおいて邦奈良の都に帰るのはダメであるよ」


「なんでよ、ネコ」


 先ほどの敵軍埋没地からそれなりに離れて、死角になっている場所にハウスを出しておいた。

 その中で、今後の話し合いをしていたのだが、いきなりリオンからダメ出しされた。


「考えてもみるのである。お三方は都……といっても都の貴族以上の連中のみですが、それらにとっては恐怖の象徴なのですにゃ。そんな人間兵器がいきなり帰ってきたら、都の上層部がどういう行動をとるかわかったものじゃないですにゃ」


「人間兵器って……私はまだその域には達してないわよ、ネコ」


「では聞きますがアヤネ殿、その気になればフレイムドラゴンのブレスに耐えられますかにゃ?」


「そりゃスキルもあるしね。無傷ですむわよ?」


「では数千人が同時に攻めてきて、どの程度の怪我を負うと?」


「うーん、この間みた一般兵程度だったら、かすり傷ひとつ負わないわね。堅牢と私の防御力の守りを突破できないわ」


「……人はそれを化け物と呼ぶにゃ」


「……否定できなくなってきた」


「ミキ殿も自覚はありますかにゃ?」


「あんな動きが遅い相手だと、気がつかれる前に頭なり胴体なりを吹き飛ばして一撃ですね」


「そういうことにゃ。フート殿のような派手さこそないとはいえ、お三方全員、人間離れしているにゃ」


「……俺たちよりレベルの高いリオンも人間離れしてるよな?」


「否定しませんにゃ。高ランクハンターやAランク以上の冒険者は人間をやめていると言われてますにゃ」


「……ちなみに、俺が攻め込んでいた場合ってどうなってたんだ?」


「ハンターギルドと冒険者ギルドに応援要請が来ますにゃ。ただし、相手は勝手知ったるフート殿。勝つ方法は一瞬で発射されるレベル7魔法の隙を突いての精密射撃になりますにゃ。おそらくどちらのギルドも、割に合わないって事で拒否したにゃ」


「割に合わないって……」


「じゃあ、聞きますが、戦場で敵の見分けをつけますかにゃ?」


「そんなんするわけ……ああ、確かに割に合わないか。近くに人が集まってくれば精霊が教えてくれるから、低レベル魔法で牽制してその間に広範囲高レベル魔法で焼き尽くしたり吹き飛ばしたりするから」


「……やっぱり割に合いませんにゃ」


「そんな話は置いておいてだ。いつになったら、俺たちは帰れるんだ?」


「いま超特急で、王国騎士団が捕虜たちの捕縛のために向かってきていますにゃ。それが到着すれば、捕虜を引き渡して帰ることができますにゃ」


「……王国騎士団って騎士団長があれだろう? 大丈夫なのか?」


「あの騎士団長は今回の一件で首謀者に手を貸したということで更迭ですにゃ。余罪も追及されていることでしょうから、まあ相応の罰が下るでしょうにゃ」


「ならいいが。で、どうするんだ? 俺たちのハウススキルは見せてしまうのか? これって切り札のひとつなんだけど」


「見せない方がよろしいですにゃ。そのため、帰り道、吾輩たちは軍用車の全力で帰る内務卿たちと一緒せず、のんびり5日くらいかけて帰るにゃ」


「……王国騎士団っていつ着くんだ?」


「……多分、4日後くらいですにゃ」


「都に着いたら寒くなってる時期だよな」


「環境耐性があるお三方には関係ないですにゃ」


「それも風情がないですね」


 その後、数日は首謀者の家族や首謀者以外の騎士の処遇などを話し合うこととなった。

 そちらの方についても内務卿たちは腹案を持って来てくれていたので2~3意見を言うだけで終了。

 他には、伝説のレベル7魔法の威力を見せてもらいたいといわれたので、わかりやすいイフリート・アームとアイスコフィンを使って見せた。

 その威力を見た総ての軍関係者が青ざめていたのはちょっと面白かったかな。

 これくらいできないと、大物モンスターのハントなんてできないのに……。


 そして、騎士団が到着すると軍務卿から引き継ぎを行い、ようやく帰れる事になった。

 俺たちはリオンの車でゆっくり帰ると伝えてあったので、特に問題なく二手に分かれての帰還となった。

 予定通り、5日間をかけての帰還となった訳だが……訳だが、なぜか俺たちは王宮に呼ばれていた。

 ハンターギルドマスターと一緒に。



「ギルドマスター、俺たちが呼び出された理由は?」


「今代の赤の明星に挨拶しておきたいんだろ? 前に来た連中は酒に女にひどかったみたいだしよ」


「そんなのと比べられたくないなぁ」


「そう思うならシャキッとしてろ。問答は俺とリオンが基本的に受け持つからよ」


「任せた」


「任されたにゃ」


 やがて、たどり着いた会議室の中では立派な服を着た人間たちがたくさんいた。

 ……一人だけ、やたらと風変わりな服を着ているのは教会の関係者かな?


「国王陛下、ご入場」


 その言葉に周囲の貴族たちは全員が奥を向いて頭を下げるが、ギルドマスターやリオンは微動だにしない。

 あとは……あの教会服も動いてないな。

 あれと同列に見られるのはいやだけど、ギルドマスターたちに倣おう。


「皆のもの大義であった。そして、赤の明星殿たちよ。これまで会う機会を作れなんですまなかった」


「それは仕方がないのである。この三人はアグニ戦で大けがを負い長期療養をしていた期間以外は、モンスターを求めて東奔西走しているのであるからなぁ」


「モンスターのハントか……やはりアグニに勝つためか?」


「他にねえだろ。……正直、今のペースでもアグニはきっついんだがよ」


「今回は何を狩ってきた帰りだったのだ?」


「遭遇戦となってしまったフレスヴェルグ、【炎熱の息吹】ラーヴァトータス、【氷牙の狐王】エイスファン。以上、3体である」


 その言葉にざわつく会議場。

 はて、そんなにすごいことをしたのかな?


「発言をお許しください、陛下」


「許す、軍務卿」


「【氷牙の狐王】エイスファンを討伐してきたと言ったが真か……? あれは150年近く前に確認されたが、まだ一度も討伐されていなかったのだが……」


「真実である。証拠として魔宝石を出してもいいのであるが……ここでは鑑定できまい?」


「確かに。では、討伐方法はお聞きしてもよろしいか?」


「ハンターギルドの公開情報になるから大丈夫だぜ、教えてやんな、フート」


「わかりました。まず大前提としてレベル6火魔法、イフリート・ブレスが使えることが必要です。吹雪の中から姿を現したエイスファンにイフリート・ブレスを当ててやれば、体が凍り付きます。そうなれば物理攻撃も効くようになるので、その間にダメージを与えるのです」


「……前提条件がレベル6魔法か……続けてくれ」


「時間が経つと再び猛吹雪が発生してエイスファンが元の雪の体に戻ります。問題はここからです。この先、エイスファンはイフリート・ブレスを使った魔術師を優先して狙うことになります。俺のパーティには優秀な壁役がいたから助かりましたが、そいつが時間を稼げないと全滅もありえますね」


「なぜだ? イフリート・ブレスを連発できないのか?」


「どんな魔法を使うにも精霊の助力が必要になります。そしてエイスファンのいるフィールドには、水の精霊以外が極端にいないんです。イフリート・ブレスを一回使ったら、次に使えるようになるまで自力で精霊をかき集めて俺だと210秒は必要なんですよ」


「……つまり、それだけの間、魔術師を守り抜かねばならぬのか」


「正解。詳しいことはハンターギルドに報告するからそのときに確認してください」


「承知した。貴重な情報をありがとう」


「……ふむ、エイスファンの討伐情報とは面白いものが飛び出してきたな。……時に赤の明星の三名よ。今でもこの国の貴族に敵愾心を持っているのかね?」


「いいえ、私は持っていません。……まあ、ちょっとは腹が立ちましたけど」


「私も同じく。首謀者がちゃんと処罰されるならそれでいいわ」


「俺もですね。つまらないことで温情をかけるのであれば容赦はしないけど」


「あい、わかった。残る首謀者は主犯のアンスランのみだ。そちらも一両日中には片が付く予定故安心するがいい」


「わかりました。ありがとうございます」


「気にするな。こちらが一方的に迷惑をかけたことだ。……他に聞きたいことがあるものは?」


「失礼ながら、私から」


「珍しいな、内務卿自らとは」


「はっ、赤の明星のお三方は学校の経営もされているとか……」


「あー、そいつは4分の1くらい当たりで残りはハズレだ。コイツは発案者兼出資者で経営……つか学校長? は商業ギルドが推薦してきた男がやってるよ」


「……そうでしたか。一度その学校とやらを見学させていただきたかったのですが……」


「それなら大丈夫ですよ。俺たち、名ばかりとはいえ理事ですから。事前に連絡しておけば学校見学くらいなら許してもらえるでしょう」


「おお、本当ですか! それで、いつ頃がよろしいでしょう?」


「できれば早いほうが。いつ次のハントに出発するかわからないので」


「わかりました。希望者を募り、すぐにご連絡を差し上げましょう」


「ではよろしく」


「他には……おらんようだな。それではこれにて会議を終わりとする」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る