133.那由他の国反逆者対策会議 後編

「……国王陛下、無礼を承知で一言言わせてもらっていいか?」


「ギルドで休んでいたのだろう。誠に申し訳ない」


 我が立ち上がり頭を下げたことに周囲がざわついておる。

 こんな頭を下げることでこの国難を避ける知恵、少しでも手に入るならいくらでも下げようぞ。


「……ブルクハルト殿。国王陛下をいじめるのはいかがなものかと思いますぞ」


「お前の方がきついだろうが。なにせ、今日まで不眠不休で車をぶっ飛ばしてきたんだからな」


「吾輩、現役ハンターであるが故な。さて、前置きはこれくらいにしましょう。なに用ですかな、国王陛下?」


「……ブルクハルト、リオン。すまぬが今回現れた赤の明星の事を少しでも教えてもらえぬか。少しでも国の被害を少なくしたいのだ」


「その覚悟の中には、テメエの首を捧げる覚悟もあんのか?」


「無論だ」


 周囲が再びざわつき怒号も聞こえるが構うものか。

 こんな首ひとつで国難が避けられるならば、それもまた国を預かるものの役目よ。


「……冗談だ。あいつはそんなものもらっても邪魔だとしか思わねぇよ。むしろ、責任を放り出したって言ってマイナス評価だな」


「……そうか。それを知れただけでもお前に来てもらった価値がある」


 ふむ、無駄な死者は好まぬか。

 さて、そうなると連座制の死者はどうなるのか。


「それで、アンスラン公爵の件はどうなってやがる?」


「アンスランは反逆者として捜索中だ。……問題はアンスランを国家反逆罪に問うかどうかだが……」


「国家反逆罪でいいんじゃねぇのか?」


「そうなると連座制での死者が増えるのだ。その中には他国に嫁いだ姫も含まれる、外交問題にもなってしまうのだよ」


「……偉い人間が国家反逆罪になるとめんどくさいことこの上ねぇな」


「そうなる。だからこそお前を呼んだのだ」


「さぁて、どうしたものか……。あいつ、貴族街と王宮をぶっ潰す覚悟があるって事は虐殺する覚悟もあるって事なんだよなぁ……」


「……今回の赤の明星はそんなに危険な性格なのか?」


「いいや? むしろ善人だぜ。正義の使者って事はないが」


「どういう意味だ?」


「うーん、例えばだ。あいつ、逆恨みで刺されそうになったんだよ。でも、実際には実害がなかったってことで、その後の面倒を見てやるようなヤツなのさ」


「……それは確かに善人だな」


「問題は、自分以外に危害を加えようとした場合だ。それはすげぇ勢いで反撃する。あと、これは予測だが、自分たちを傷つけようとする組織があれば徹底的にぶっ潰すだろうな」


「どういう意味だ?」


「……闇ギルドだよ。あいつ、闇ギルドの人間に狙われた事があったんだが、返り討ちにした後そいつがいた根城の酒場に乗り込んでそこにいた人間を全員半殺しにしやがった。もちろん、証拠なんて残しちゃいねぇよ」


「……どうやったのだ?」


「『ハンターの目』が見てたらしいが、まったく原理不明だったそうだ。襲ってきたヤツを取り押さえて、その後小さな光が飛び出しやがったらしい。それを追っていったら、その酒場に光がたどり着いて大爆発だ。死人が出なかったのは、爆発したのが炎じゃなくて氷だったおかげだな」


「ブルクハルトはどう見る?」


「何らかの方法で記憶を読み取ったんだろうよ。それで、依頼を請け負った闇ギルドの酒場を割り出し、そこに精霊魔法の爆弾を送りつけたってところだろう。送り込まれた魔法は、レベル4水のアクアブラストとアイスブラストってところか」


「つまりは敵対しなければ善人だと」


「そうなるな。ついでに言えば、子供に対しては底なしの善人だ。偽善者と呼びたくなるくらいにな」


「どういう意味だ?」


「おいおい、本当に知らないのか? 国王なのに?」


 なんだ?

 我はなにを見過ごしている?


「学校だよ。今はフェンリル学校なんて呼ばれているあれだ。あそこの発案者兼最大の出資者が赤の明星のひとりフートだよ」


「フェンリル学校……確か、スラムの子供たちを集めた場所だと聞いているが?」


「……誰かに情報操作されてやがんな。内務卿、アンタは知ってるか?」


「当然だ。邦奈良の都にあるほぼすべての大手ギルドが出資してできた学校であろう。もっとも集めてきた子供たちはスラム出身者、そんな子供がどれだけの役に立つのか……」


「なるほどなるほど。王宮では歪められた情報しか知られていないみたいであるな」


「リオン?」


「真実を教えてやるのであるよ。集めたのはスラムの子供であっているのである。だが、教えているのはこの国で使われている国際共用言語と計算、足し算引き算だけでなくかけ算と割り算も教えているのであるよ?」


「……なにをバカなことを言っている? 言語はともかく、かけ算や割り算など王立学校でもすぐには教えていないぞ?」


「ほほう。フェンリル学校ではすでに3桁の割り算ができる子供も出てきているのであるよ? 他にも、基本的な体力作りや薬草学、魔法の授業では先天性属性以外にも後天性属性に目覚める子供たちもそれなりにいるのである」


「なにをバカな! 魔法属性の授与は神が総ての者に生まれたとき与えたもの! 後天的に属性が目覚めるなど!!」


「教会は頭が硬いである。信じられないのならば、魔術師ギルドからレポートを買い取るのであるな。まだ実験途中のレポートではあるが販売しておるよ。かなり高額ではあるがな」


「なんだと!! 我ら神の御使いから金を取ろうというのか!!」


「金がないなら諦めるのである。神が許すのならばレポートを盗むのもいいのではないかな?」


「おのれ、ネコの分際で……!!」


「やめんか、見苦しい」


「おっと、失礼いたしました」


「……ともかく、赤の明星、特にフートという者には子供を殺すことは怒りを買う行為だと」


「そうであるなぁ。国王陛下が許すのであれば、今回の一件は反逆者本人だけを裁くことでお許し願えればと」


「……つまり妻子や親は見逃せと」


「もちろん監視はしてもらわないと困るのであるな。逆恨みして襲ってくれば元も子もないであるからして」


「……ブルクハルト」


「俺も同意見だ。実行犯はしっかりと裁いて、舐めた真似をした連中はどうなるか教えてやらねえと困る。だが、それ以上の殺害は好みじゃねぇよ、フートは」


「他にふたり赤の明星がいたと思うが?」


「あいつらふたりはフートの意見に従うだろうよ。というか、王宮をぶっ壊すのにも反対だろうし。正確には。都を攻撃することにも反対だろうからな」


「わかった。首謀者どもは確実に捕まえ裁きを下す。その上で、首謀者の親族は監視付きの上、存命させることとする。ただし爵位の降格は目をつむれよ」


「そこは政治の判断だ。俺らが口を挟むことじゃねぇ。なぁ?」


「であるな。さて、結論が出たならば急いで結果を伝えに出発ある。フート殿を止められなければ元の木阿弥ですぞ!!」


「軍務卿がもうすぐ戻るから待ってもらいたい。……というかだ、我が軍用車を休みなしで走らせて2日かかる場所にいるのだろう? そこから王宮や貴族街を破壊できるのか?」


「うーん、ある程度の距離感と角度、発射時の威力があっていれば後は精霊がなんとかすると思うのである。……ああ、今回の結論で納得できなかった場合の次善策も考えておくのであるよ? 反逆者どもを引き連れながら都に帰ってくる故1週間程度は時間を稼ぐが、近づけば近づくほど精密射撃ができるのであるからな」


「わかっておる。ともかく、我らはアンスランを捕らえることを最優先としよう」


「陛下、今戻りました!」


「戻ったか、軍務卿。内務卿を連れて急ぎ赤の明星の元へと向かうのだ。あまり時間の余裕はないぞ」


「はっ!! すでに車の準備はできております!!」


「ではすまぬが、内務卿、ブルクハルト、リオン。頼んだぞ」


「おう、任せてくれ」


「吾輩、フート殿が考える政治体系も予想できるのであるが、いきなり移行するのは無理が過ぎるのであるからなぁ」


「では、行って参ります」


 三者三様の言葉を残し、会議室を出て行った。

 ……その新しい政治体系とやら、聞いてみる必要があるやもな。

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