揺れ動く那由他

接敵

129.都への帰り道

 帰還は強行軍で帰る予定だったはずが、リオンの一言で一週間かけて帰ることとなった。

 女性陣はやはり大喜びで、のんびりした旅を楽しんでいる。

 俺はというと、小さくなったテラとゼファーとともに窓の外を眺めていた。

 テラとゼファーの大きさも1.5メートルほどまで小さくなれるようになり、旅の中でも圧迫感を感じない。


 そんなのんびりした旅を続けること5日、事件は起こった。

 車の前に弓矢が刺さったのだ。

 危機察知は……ようやく赤い点が増え始めた!

 何らかの方法で隠蔽していたな。


「なんであるか!!」


「ふむ、お前が青雷のリオンか。報告書通りの青猫だな」


「まあ、青猫なのは事実であるな。それで、矢を仕掛けてきた意図を訪ねているのであるが?」


「頭が高いぞ! この方はジュリアン = クラルテ伯爵なるぞ!」


「ジュリアン = クラルテ伯爵? リオン、知っているか?」


「知らないにゃ。吾輩、貴族名鑑は愛読書ではありませんにゃ」


「なにをごちゃごちゃと……さっさと車を降りてこい! さもなくば車ごと燃やしてくれてもいいんだぞ!?」


「……これって明確な敵対宣言だよな。盗賊と同じ皆殺しでいいよな」


「フート殿はときどき思考が短絡的過ぎますにゃ。とりあえず車から降りますにゃ。……ああ、テラとゼファーは降りたらフェンリルになるようににゃ」


「「ウォフ」」


 というわけで仕方なく車から降りる俺たち。

 この季節はなかなか冷えるんだけどなぁ。

 獄炎の盾でも張ろうか?


「それで、車からは降りたであるぞ。さっさと用件を言うがいい」


「な、なんだ、その犬の化け物は!! そんなもの先ほどまでいなかったではないか!」


「レッサーフェンリルが本来のフェンリルに戻っただけである。……一体なにをしに来たのであるか?」


「……お前たち、もうよい。儂が直々に話をつけよう」


「はっ、申し訳ありませぬ」


 そう言って動き出したのは初老の男。

 さて、なんの用事かな。


「貴様がフートだな。最近は『白光のフート』などとも呼ばれている」


「後半は周りが勝手に呼んでいるだけだけど?」


「ふん、そうか。なら話は早いな。魔玉石を渡せ。そうすればなにもせずに引いてやる」


 ……?

 コイツバカなのかな?


「魔玉石は持ってないよ。手に入れるたびに使っているから」


「フン、下手な嘘を。まあ、いい。渡さないというのであれば、反逆者としてお前たちを捕らえ、処刑してから奪うのみだ」


「……バカなのか? 彼我の戦力差も理解できないなんて……。今までよく貴族なんてやってこられたな」


「貴族など簡単な仕事よ。領民から搾取し、その金で贅をむさぼる。それだけなのだからな」


 へぇ、そういう考え方ね。

 なら、こっちも生かしておく必要はないんじゃないかな?


「ま、待つのである、フート殿! この男が本当に伯爵だった場合、吾輩たちがお尋ね者になりますぞ!?」


「うん? それは今の那由他の国だったらだろう?」


「は?」


「こんなバカな貴族がいるんだ。王家にも責任をとってもらわなくちゃな。そうして、那由他は新しい政治体系を得た国家になる」


「ちょ、ちょっと待つにゃ!! それって王族も皆殺しにするって事ですかにゃ!?」


「邦奈良の都はちょうどいいかたちをしているからな。中心部にある王宮とその周囲にある貴族街、まとめて焦土にしてしまえば逃げられるものもいないだろう。深さ10メートルくらいまで穴を開けてさ」


「……本気なのですかにゃ、フート殿」


「止めるか? 青猫」


 俺とリオンの間にピリピリとした緊張感が走る。

 他の皆はどうしたらいいのかわからず、静観の構えだ。


「ええい、ほざかしい! 反逆者どもを皆殺しにしてしまえ!」


「「オォー!!」」


「……どうやら時間切れのようですにゃ」


「だな。俺はあいつらを生かしておく義理がない」


「一週間、一週間の間だけ殺さずにおいておいてはもらえませんかな?」


「死ななければどうだっていいのか?」


「念のためどうするかは聞きたいにゃ」


「ピットフォールの穴に生き埋めにして最低限必要な水だけを与え続ける。食料はその辺の木の根を食べるだろ。それで死んだらそれまでだ」


「……そこが妥協点だと?」


「ハウススキルを見せるわけにいけないからな。それとも、一週間の猶予とやらはリオンが面倒を見てくれるのか?」


「……フート殿の案に従うにゃ。でも、なるべく死人が出ないように調整はしてほしいにゃ」


「まあ、考えておこう。……しかし、騎馬の突撃って速いな」


「のんびりしてても間に合いますからにゃあ」


「じゃあ、終わらせるか。〈其方は雷によって生まれし蜃気楼。雷精が肉、雷精が血。その力、司どるは総てが雷精。我が望むはその力の一部、大地より総てを縛りし力なり。その力は総てのものを繋ぎ捕らえるものとなりてこの世に現れよ!! マキナ・ハンズ!!〉」


 俺の詠唱に答え、雷精たちは突撃してきた騎馬兵の総てを雷の鎖につなぎ止め、檻の中へと閉じ込めた。

 事前に馬は効果の範囲外にしてあったので、突然騎乗者のいなくなった馬たちは混乱しているようだ。

 だがやがて、馬たちは一匹二匹と姿を消していった。

 厩舎に帰るのか、野性に帰るのかは興味がないけどね。


「……さて、こいつらの処分だな。めんどくさいから、偉そうなヤツ以外は感電死でもいいんじゃないか?」


 だが、リオンとは一週間の間生かしておくと話をしてしまった。

 仕方がないから生かしておくか。


 とりあえず生かしておくのに邪魔な金属鎧は電撃で破壊してと。

 あとはピットフォールで穴の中に生き埋めするだけの簡単な作業ですっと。

 ……あ、空気穴と水飲み場はつけなくちゃいけないんだった。

 めんどくさいな。


*******************


 吾輩はあの後、昼夜を問わずに魔導車を爆走させて邦奈良の都までたどりつけた。

 さすがに不眠不休はしんどいのである。

 都にはすんなり入れたから、あの爺は偽貴族だったか、吾輩たちの手配をしていなかったかのどちらかであろう。

 しかし、あの軍隊がつけていた旗、あれが本物ならば本気で那由他は一度滅ぶにゃ……。


「お帰りなさい、ハンターギルドへよう……ってリオンさん!? なんだか毛並みがボロボロですよ!?」


「そんな事はどうでもいいにゃ。ブルクハルトとユーリウスを1秒でも早く連れてくるのにゃ。SSS案件が発生中にゃ」


「SSSって国の存亡……ってリオンさん!?」


「ふたりが集まるまで少し寝かせるのである。二日間不眠不休で車を走らせてきた故な」

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