130.対赤の明星対策会議 前編

「以上が、今回の経緯にゃ。質問はあるかにゃ?」


 一日の仕事が終わって寝ようとしていたところに飛んできたゲーテ。

 しかも、用件はSSS案件だって言うからたまったもんじゃねぇ

 持ってきたのはリオンだということで、ユーリウスと一緒に詳しい経緯を聞いているが……。


「まず私から。襲ってきたのは本物のクラルテ伯爵なのですか?」


「知らないにゃ。初老に入ったたくましい体の男としか覚えてないにゃ。多分、軍旗……それも国軍旗とかがあったはずにゃが回収してくる余裕なんてなかったにゃ」


「いえ、それだけわかれば結構。おそらくクラルテ伯爵本人でしょう。魔玉石にこだわっている部分も含めて、ね」


「……ユーリウス、それがわかったところで、なんの解決にもならんぞ。俺たちがやらなきゃならないことはあと5日間でフートたちのところまで戻ってクラルテの爺を断罪することなんだからな」


「いえ、もうそんな問題ではないでしょう。国軍旗を掲げた部隊が襲ってきた、つまり那由他の国の部隊が赤の明星を襲ったというかたちになっております。リオンが取引をする前に何の躊躇もなく皆殺しにしていたならともかく、すでに状況は国対赤の明星……というかフートさんですね。もちろん、フートさんが敵と言うことはミキさんとアヤネさん、テラとゼファーも敵ですが」


「……那由他、アグニの前に滅ぼされるだろ」


「それを避けるために雁首そろえてるんですよ」


 雁首って言われてもなぁ。

 俺らにゃできることがあまりにも少なすぎるぞ?


「フートに俺たちがわびを入れることは?」


「すでにハンターギルドの問題ではありません。フートさんに『ハンターギルドは関係ないから』と言われて終わりでしょう」


「……だがよ、フートが邦奈良の都を大虐殺するとは思えないんだが」


「ブルクハルトはお忘れかにゃ? フート殿にはマキナ・トリガーがあるにゃ。そして、今のMPなら乱射できるにゃ。そうなれば、一般市民が住む市民街に被害を出さずに貴族街と王宮だけを破壊することもできるにゃ。それにレベル8魔法もあることにゃし」


「……八方塞がりじゃねぇか」


「というわけで、ハンターギルドにできることはなにもないですにゃ」


「ですね。仕方がないので責任者に責任をとってもらいに行きましょう」


 それって王宮に行くって事だよな、こんな真夜中に。

 めんどくさいことこの上ないぞ、平服だし、リオンはボロボロだし。

 クリーンの魔法を使ってもこれって相当だよな。


*******************


 結局、俺たちは入城の許可を出された。

 2時間後に。

 この1分1秒を争うって時にお貴族様どもは優雅にしやがって!

 どうせ、SSS案件だって眉唾だと思ってやがるんだろうが!


 その語、待合室でさらに2時間待たされたあと、ようやく会議室に通された。

 いたのは……騎士団長に軍務卿、それから内務卿か。

 騎士団長、汚職の発覚で首が飛ばなかったんだな。

 あるいはスケープゴートを用意したか。


「さて、本日はハンターギルドよりSSS案件があるそうだが……なぜそれを王宮に? ハンターギルド内で処理できなければ冒険者ギルドや魔術師ギルドに助力を願うのが筋ではないかね?」


「はっへい」


「平時ならそうでしょう。ですが、今回の一件、貴族が大きく絡んでおりましてそれを報告しに来た所存にございます」


(おい、ユーリウス)


(あなたが喋っては角が立ちます。しばらく我慢していてください)


「ふむ……貴族が絡んだSSS案件か。そんなことが起こるのかね?」


「起こるわけがないでしょう、内務卿! ハンターギルドのバカどもが寝ぼけているだけです!」


 騒ぎ立てるのは騎士団長。

 前回の一件で根に持ってやがるな。

 頼みの綱の勇者様()は役立たずだったみたいだし。


「ふむ、軍務卿。そちはどう思う」


「一般的に考えればそんな事態には陥らないかと。ましてやSSS案件など……私のいる国で馬鹿げているにもほどがある!」


「……こう軍務卿が言っているが、ハンターギルドの言い分は?」


「それでは軍務卿。ここ数日、国軍の旗をどなたかにお貸しいたしましたかな?」


「国軍の旗だと? そんな貴重なもの貸し出すわけがなかろう!」


「おかしいですね。ここにいる、ケットシーのリオンが数日前に戦場でその国軍の旗を見たとか」


「なにをバカな……ふん、まぁいい。おい、旗の管理記録を調べろ」


「はっ!」


「それで、そんなことがSSS案件なのかね。ハンターギルド諸君?」


「ええ、そんなことがSSS案件になってしまったのですよ。どうやら国軍の旗を持ち出したクラルテ伯爵が、うちの赤の明星にケンカを売りましてね。赤の明星いわく、国の存続に王や貴族など無用の長物らしいですよ?」


「なにをバカなことを!! 国は我ら貴族がいなければ回らんのだ!!」


 ここぞとばかりに騎士団長が吠えやがる。

 ほんと、コイツは小物だぜ。


「発言の真意はわかりかねますが……少なくとも赤の明星側は本気なようです。果たしてレベル7魔法の雨を貴族街結界や王宮結界が防ぎきれるのか……見物ですね」


「見物だと……そんなことをすれば反逆者だ! 即刻捕まると言うことが……」


「少しは頭を使え騎士団長。対空結界を簡単に打ち破り、貴族街と王宮を焦土にできるような相手を誰が捕らえられる? 物量作戦などかけても広範囲魔法でまとめて殺されて終わりだぞ?」


「いや、それは……」


「それに、それだけ豪語するのだ、事前に貴族街から逃げられなくなるような仕掛けも施すだろうよ」


「発言、よろしいであるかな?」


「どうぞ、リオン君」


「赤の明星…フート殿であるが雷属性に関してはレベル7以上の魔法を覚えているのである。効果は……アグニ戦で見せた光線を自在に放てるようなもの、であるかな」


「……リオン殿。そういう大事な情報はもう少し早く出していただきたいものですな」


「ではもうひとつ。【氷牙の狐王】エイスファンを倒したときに【魔法拡散】というスキルを覚えたらしいのである。これは本来、一発しか撃てない魔法を複数に分散させて放つスキルであるな」


「……これで、騎士団や黒騎隊、近衛師団が決死隊として突撃する案もなくなりましたな」


「し、失礼します!」


「どうした?」


「一週間前より国軍旗が1,000ほど使用許可が出されております! 使用責任者はジャック = アンスラン公爵! すでに許可が出た国軍旗は持ち出されている模様!」

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