126.【氷牙の狐王】エイスファン戦 2

「ゴォォォォン!!」


 エイスファンの泣き声が響くとともに、その体にも変化がおとずれる。

 今までは雪の塊のようだったエイスファンの体が、氷のように固まったのだ。


「!! 今でありますぞ! お三方!」


「はい! 虎撃弾・集!」


「攻撃は苦手なのよね! ブレイク・ロック!」


「イフリート・アームは……チャージしなきゃ無理か! 〈輝け輝け我が翼よ。すべてを焼き尽くさんがためこの世に降臨せよ。その力は精霊の意思、その思いは我が願い、解き放たれたそのときはすべての敵を焼き付くさん! 白光の翼!!〉」


「にゃはは! 強力な火魔法こそが勝機と見つけたり! 風纏剣ですにゃ!」


 俺たちの集中攻撃を受けて苦しそうにもがき苦しむエイスファン。

 氷柱の弾丸も時折発射してくるが、狙いが定まっておらず脅威ではない。


「フート殿! いっそのことマキナ・トリガーも試してみるにゃ!」


「わかった!」


 その声に全員が余波を受けないように散っていく。

 ダメージは受けなくてもはじき飛ばされてしまうため、しばらく動きが鈍くなるのだ。

 なお、実験済みだから間違いない。


「〈雷精たちよその力を解放せよ。その真性は破壊。それを統べるは機械の意思。目覚めよ目覚めよ破壊の力に。そして集いて一本の矢とならん。それは閃光。それは破滅。さあ、征くがよい!! その破壊に祝福を!! マキナ・トリガー!!〉」


 マキナ・トリガーの閃光がエイスファンの体に突き刺さる。

 エイスファンは苦しそうな叫び声をあげるが……致命傷にはほど遠いな。

 一応、指輪の力を借りた増幅はしたんだけど。


「クルルルル」


 叫びから覚めたあと、こちらをにらみつけたエイスファンは一鳴きして、体をまた雪の塊へと変化させた。

 そして、また猛吹雪を起こし、姿を隠してしまう。

 吹雪のせいで完全に視界が遮られるが、特に攻撃がくることはなく、吹雪はやがて収まった。

 エイスファンが襲ってくる事もないため、4人で集まって作戦会議だ。

 もちろん、背中合わせで周囲を警戒しながら。


「……逃げたと思うか、リオン?」


「いえ、逃げてませんのにゃ。まだ、こちらを睨み付けるような気配は消えてませんのにゃ」


「どうしましょうか、これから」


「イフリート・ブレスが効果的なのはわかったわよね。それを中心で攻める?」


「それが一番ですにゃ。フート殿、次のイフリート・ブレスはいつ頃撃てますにゃ?」


「……200秒後」


「……なんと」


「さっきの猛吹雪のせいで火の精霊を散らされたんだよ。おかげでレベル1魔法すら使えないぞ」


「……耐えるしかないわね」


「でも、きっとエイスファンの狙いはフートさんに集中しますよ?」


「そこは私の腕の見せ所よ。しっかりカバーしてみせるわ。……魔法以外は」


「魔法はこっちでなんとかするよ。……獄炎の盾も使えないけど」


「ちなみに、イフリート・アームが使えるようになるのは何秒後ですかにゃ?」


「およそ230秒後だな。また、猛吹雪で散らされなければ」


「むむ……これからは炎攻撃禁止ですにゃぁ」


「ですね。私も灼熱拳を使うのは止めておきます」


「それがいいですにゃ。猛吹雪を連発されるようなら撤退して対策を練り直しますにゃ。……多分、追いかけては来ないはずにゃ」


「自信がないのが痛いな。……イフリート・ブレスまであと180秒」


「3分か、カップ麺が作れるわね。……って来たわよ!」


 予想通り、俺をめがけてエイスファンの爪が振り下ろされてきた。

 だが、それをアヤネが合間に入ってしっかりガードしてくれる。

 そのあとも、本人の宣言どおり、魔法攻撃以外は完璧にガードしてくれた。

 俺自身のHPが多少削られてもゼファーの回復ブレスがあるし。


「まだなの、フート!」


「あと1分だ! もう少し耐えてくれ!」


「待つにゃ! どうせなら、イフリート・アームも使えるようになってから反撃開始するにゃ! そうすれば一気にけりがつくにゃ!」


「だってさ。30秒追加な」


「はいはい、守ってみせますよ! それが私の真骨頂!!」


 エイスファンも火の精霊が集りつつあるのを感じ取っているのか、攻撃の密度が上がり始めた。

 だけど、その攻撃もアヤネを完全に削りきるものではない。

 ゼファーの回復ブレスや俺からのグレーターヒールによる支援は受けつつも、完璧に時間いっぱいを耐えてくれた。


「フート、そろそろ時間よね!! 派手にやっちゃいなさいな!!」


「オッケー!! いくぞ! 〈其方は炎獄の支配者なり。我願うはその力の一部、焼き尽くす炎の吐息を顕現する事なり。その力は火に宿りし総ての火の精霊たちが力。吹き抜けよ、獄炎の世界に在りし一瞬の空間。立ちはだかるものを焦がさんがため顕現せよ!! イフリート・ブレス!!〉」


 再び吹き荒れる炎獄の嵐がエイスファンを雪から氷へと変えていく。

 その間、エイスファンはなにもできないらしく、安全を確認したアヤネは俺とエイスファンの間から離れた。


「イフリート・アームもやるんでしょ。ガツンとやっちゃいなさいな」


「だな。〈汝は炎の化身なり。我が願いはその力の一部、その豪腕にて我が敵を焼き尽くすことなり。その力は汝の力、燃えさかる炎は精霊の力。解き放て、人知を超えた獄炎の拳、立ちはだかる者にその爆炎を!! イフリート・アーム!!〉」


 顕現した業火の腕は今度こそエイスファンへと確実に吸い込まれた。

 イフリート・ブレスからイフリート・アームの連撃を受けたエイスファンは体中に罅が入っており、瀕死だと言うことがわかる。


「さぁさぁ、ここで一気にキメないと本当に逃げられるにゃ! 風纏剣レベル5!」


「灼熱拳! 虎撃砲・烈火、虎撃砲・爆砕撃!」


「シールドバッシュ・天!」


「ふっ! 翔撃羽・天昇、翔撃羽・比翼、翔撃羽・落崩破!」


 ミキの連撃まで受けたエイスファンは粉々に砕け散り、その姿を雪原の中へと姿を消す。

 そして、そこから現れたのは青白く透き通った一匹の狐だった。


「なにものだにゃ? てい!」


 リオンが剣で突っついてみるが、その剣は狐の体をすり抜ける。

 俺も念のため、ファイアバレットを撃ち込むが、通り抜けて地面に当たってしまった。

 俺たちの方を見ていた狐は、やがて森の中へと駆け込んでいき姿を消してしまった。


「……なんだったのにゃ?」


「おそらくあれはアストラル体だな」


「アストラル体……ですか?」


「なによそれ?」


「精神だけの存在。幽霊に近いものと思ってくれればいい。光魔法だろうとダメージは通らないけどな、アンデッドじゃないから」


「……あれってエイスファンのアストラル体にゃ?」


「だと思うぞ」


「吾輩たち、バッチリ顔を覚えられたにゃ」


「うーん、邪悪な気配はなかったが……」


「……それよりもドロップアイテムを回収して、この場を離れませんか? なんだか気温が下がってきた気がします」


「そう言われてみればそうね。……エイスファンのテリトリーじゃなくなった、ってことかしら」


「真相はわかりませんにゃ。ドロップアイテムはそこに落ちてるものだけのようですし、回収して帰るのにゃ」

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