121.【炎熱の息吹】ラーヴァトータス戦 2
二度目のマグマブレスのあとも様子見の戦闘は続いた。
リオンの計測では、『なにもしなければ』赤熱化するまで7~8分の余裕はあるそうだ。
だが、弱点である水属性攻撃を仕掛けるとダメージ量に応じて赤熱化までの時間が短くなるらしい。
「……というのがおおよその推測ですにゃ」
「推測はわかったが……どうする? マリナ・ジェイルは封印するか?」
「いえ、あの威力は捨てがたいですにゃ。ラーヴァトータスはとにかく体力も高いんですにゃ。それを一気に削る方法があるのに使わないのはもったいないですにゃ」
「でも、使ったら確実に赤熱化だろう? 接近戦ができなくなるがどうするんだ?」
「マリナ・ジェイルのあとにアイスコフィンを連続で打ち込んでみてほしいにゃ。それで赤熱化が防げれば重畳。できなければ、また頃合いを見てホワイト・アウトまで待つにゃ」
「……それしかないか」
「ですにゃ。それではアヤネ殿とミキ殿にも説明してきますので」
「アヤネには聞く余裕があるのか?」
「割と余裕がありそうですにゃ?」
アヤネの方を見れば、攻撃を余裕で避けていた。
あれなら多少は話ができそうだ。
「じゃあ、任せた」
「はいですにゃ。全員に話が通ったら合図をしますので、マリナ・ジェイルをよろしくですにゃ」
「任された。気をつけてな」
「はいにゃ~」
というわけで、伝令に走る青猫。
さっさと作戦は全員に伝わり、合図が送られてきた。
「それじゃ、やってみるか。〈其方ありしは深淵の奥なり。ただただ静寂のみが支配する絶対なる聖域。其方を作るは精霊の力。吾が願うはその現し身。海底よりも深き場所にある深淵の檻。塞げ! 静寂を乱す愚かなるものを飲み込むがいい!! マリナ・ジェイル!!〉」
まずはマリナ・ジェイル。
水の腕に絡め取られたラーヴァトータスが、檻の中で苦しそうにもがく。
やがて、檻がはじけ飛ぶと甲羅に赤い線が走り始めた。
赤熱化の合図である。
「にゃー! アイスコフィンにゃ!」
「わかってる! 〈いずこからきたれりや凍える大地よ。水の精霊は喜び飛び交い、白き軌跡を我らに見せん。我が望みしは凍える墓標。我が敵に久遠の眠りを与える氷瀑の檻。包み込め! 我が仇敵のすべてを凍てつくさんがために!! アイスコフィン!!〉」
今度は氷の触手にとらわれたラーヴァトータス。
その体が全身氷付けになり、赤熱化しようとしていた甲羅も赤い線が消え去り、沈静化していた。
「やったですにゃー。アイスコフィンのダメージも通って一石二鳥ですにゃ!」
「だといいんだがな」
やがて氷の棺は砕け散り、ラーヴァトータスは解放される。
完全に凍らされたことにより、赤熱化も止まっており安全と判断した3人が攻撃を始める。
そうなると、俺はタイムキーパーをやるしかないわけだ。
「……む、赤熱化が始まったか」
時計を確認し始めてから大体5分後、赤熱化の前兆が見え始めた。
それを確認した3人は待避し、リオンがこちらに駆け寄ってくる。
「赤熱化するまでどれくらいでしたかにゃ?」
「大体5分ってところだ。無理に赤熱化を止めると赤熱化の間隔が短くなるのかもな」
「検証したいところですが……下手を打てば壊滅の恐れがありますにゃあ」
「そもそもマリナ・ジェイルもアイスコフィンも、この洞窟内だと水の精霊の集まりが悪くって1分おきじゃないと使えないよ。ホワイト・アウトだって、40秒以上は精霊を集めるのが必要だ」
「うーん、やはり戦う場所が悪いですにゃ」
「そういうことだ。とりあえず、次にブレスを吐きそうになったらホワイト・アウトで止めて、そのあとマリナ・ジェイル。すぐさまアイスコフィンっていうのが理想型か」
「ですにゃあ。もっとも、そこまで連発してしまうと、注意がフート殿に集中しかねないのですがにゃ」
「……そこはうまくやってくれると、アヤネを信じるさ」
作戦会議も終わったので、作戦どおりに行動を開始する。
赤熱化中は近づけないのだが、リオンの水纏剣には遠距離攻撃もあってチクチク削っていた。
そして、ブレスを使ってきたら、ホワイト・アウトでブレスごと赤熱化を遮断。
数分間、物理攻撃を行ってもらったあとに、マリナ・ジェイル、アイスコフィンのコンボを決めて俺は小休止だ。
この連携を十数回、あるいは数十回行った頃、ラーヴァトータスが赤熱化し3人がいったん離れたのだが、ここで予想外……というか、ある程度予想をしていた攻撃がきた。
「フートさん!」
「おっと」
俺に向かって溶岩弾が飛んできたのだ。
スピードはそんなに速いわけでもなく、距離もあるので躱すのは簡単だが……いよいよ俺を脅威と認識し始めたか。
「にゃ! 大丈夫そうにゃ!」
「リオンか。これくらいは予想の範囲だよ。問題はこっちに向かってブレスを使われたときだが……」
「それはアヤネ殿と相談済みにゃ。溶岩弾がフート殿に飛んでいくようになったら、アヤネ殿がフート殿との射線上に入るようにすることになってるにゃ。ほら」
「あ、ほんとだ」
前面を見れば、アヤネが俺とラーヴァトータスの間でがんばってくれている。
かみつきや踏みつけなどを躱しながら、うまく注意を引きつけてくれているようだ。
「万が一、フート殿にブレスがきた場合でも、アヤネ殿が間に入ってバリアを張ってくれれば安心ですにゃ」
「そして、その間にホワイト・アウトで凍らせる、と」
「そうなりますにゃー」
「作戦はわかった。そろそろ、終盤戦だと思うんだけど」
「多分、もう虫の息だと思いますにゃ。ストンピングの回数も減ってきてますし、尻尾を振り回す勢いもありませんにゃ。次のホワイトアウトのあとは一気に勝負をつけに行きますにゃ!」
「了解だ。こっちも水の舞殺刃を解禁しよう」
「お願いしますにゃ。……といってる間にブレスが来ましたにゃ」
「……やっぱり俺狙いか」
「アヤネ殿は安心できるタンクですにゃぁ」
「本当にな。〈我が誘いは氷の乱舞なり。風は荒れ、すべてのものを凍てつかせん。その力はすべての水に宿りし精霊のもの、その思いは我が統べるもの。すべてのものを純白の息吹に包み込まんがため、いまこのときこの場にて吹き荒れよ!! ホワイト・アウト!!〉」
ホワイトアウトで赤熱化を解いたら、マリナ・ジェイル、アイスコフィン、水の舞殺刃、氷の舞殺刃と連続で魔法を決めていく。
……そういえば、全部水の精霊を消費するのに、クールタイムは共有しないんだよな。
不思議、不思議。
そんなどうでもいいことを考えていると。
「虎龍砲・爆砕牙」
「グゲェェェェェ」
ミキの叫び声と、ラーヴァトータスの断末魔が響いてきた。
「やりましたにゃー! ラーヴァトータス、ハント完了ですにゃ!」
「……あっつかった。早くキャンプ地まで戻りましょう。お風呂に入りたいわ」
「あ、それ私もです。……そして、ドロップアイテムが大きすぎます。フートさんよろしくお願いします」
「ああ、そうだな。熱さで苦労していない分、働かせてもらうよ」
「……この辺りのハント対象ではかなりの大物、ラーヴァトータスもこのお三方にかかればこんなものなのですかにゃぁ」
「普段どおりにしていないとやってられないだけだよ」
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