108.厄介ごとの気配

「それで、あの青い鳥が狙いのモンスターで間違いないであるな?」


「はい間違いありません。他にはいないはずですから」


「ふむ、それは良かったのである。あ、連絡室を借りるのであるよ」


「どうぞ、ご活用ください」


 こうして俺たちは外と隔離された連絡室と呼ばれる場所に入る。

 ここは遮音結界も張られており、内部の音が漏れることは無いそうだ。

 逆も言えるので痛し痒しなんだとか。


「それではギルドマスターに連絡しますかにゃ」


 中にある受話器のようなものを取ると、慣れた手つきで番号を押すリオン。

 暗号なのか単なる呼び出し番号なのか……後者なんだろうなぁ。

 最後まで押し終わると、呼び出し音が鳴り、やがてブルクハルトさんの声が聞こえてきた。


「おう、ブルクハルトだ」


「はいはーい、こちらリオンにゃ」


「……青猫か。なんの用だ……ってフレスヴェルグの対応に当たったんだったな。なにか面白いものが落ちたか?」


「うーん、金銀財宝? 特に変わったものは落ちませんでしたにゃ。お肉もドロップしておりましたが、どの部位も100㎏に足りない程度しかなさそうですにゃ」


「モンスターが肉かよ……いい具合に染まってきてんなあ」


「……モンスター肉になれてしまうとにゃぁ」


「大丈夫なのか、お前ら」


「今晩、その辺を相談するのにゃ」


「おう、そうしろ。……モンスター肉で思い出した。例の鹿肉。王族にも振る舞われたって話だぞ。量はそれほどでも無かったようだが」


「……これ以上放出する気は、ミキ殿にはないであるぞ」


「わーってるよだが、これじゃ、貴族様たちがモンスターの食用肉をもってこいとか無茶な依頼を出してきそうだぜ」


「受ける気はないんにゃろ?」


「たりめーだ。というか、そういうのは冒険者の仕事だし、SSSランク指定依頼、6パーティ以上、報酬はパーティで最低でミスリル貨1枚確定、って言うことなら受け付けるそうだ」


「……それって手数料も含めると、ミスリル貨が10以上枚動くってことになるにゃ」


「金があるところからはもぎ取ればいいんだよ。……もちろん、そんな金がある連中はないがな」


「塩漬けなんてものじゃない依頼にゃ」


「当然だろ。お前らみたいな化け物がいなきゃ無理な依頼だ。しかも、都合良く食用肉を落とすかどうかは倒した後のお楽しみってな」


「笑えないにゃぁ」


「まったくだよ。青猫、スマンがフートと替わってもらえるか?」


「構わないにゃよ? フート殿」


「ああ、どうもブルクハルトさん」


「よう、調子は悪くなさそうだな」


「悪くはありませんが決して楽な相手じゃ無いですね。レベル100のモンスター相手でも、アヤネの堅牢が一撃で割られてさらに体力を半分以上持って行かれる。正面衝突する方が悪いと言われればその通りですが、堅牢が無ければ即死ですし、計算すれば10万近いHPが削られたことになります。もっと考えて行動しないと、モンスターハントはやはり厳しいですね」


「……そこまでだったのか。堅牢って確か、最大HPの2倍の壁ができて攻撃を防ぐってヤツだろ? あれを一瞬で割られるとか……そこまでだったのか」


「全員、計算済みではあったんですけどね。さすがに肝が冷えました」


「だろうなぁ。……ってなるとあまり頼めた話じゃねぇなぁ……」


「話をするだけならタダですよ。即断るかもですが」


「……今回もその手の依頼だよ。魔宝石がここ2回のオークションに続けて出されたことはわかっているよな?」


「ああ。……そういえば、グラニーゴブリンの魔宝石ってどうなったんだ。記憶がかなりあいまいなんだけど」


「あれも、前回のオークションにかけられたぞ。あまり美しくないってことで不人気だったけどな」


「あっそ。ならいいや。で、魔宝石をオークションにかけたことと、これからの話がどこにつながるんだ」


「……実はバカな貴族が魔玉石を渡せと言いだしてきやがった。いまは大人しくしているが、最終的に武力を使ってくることも辞さない大馬鹿者だ」


「……そんなヤツが貴族ねぇ……」


「言いたいことはわかる。だがな、簡単に貴族家を取り潰しにはできねぇんだよ」


「ハンターギルドに攻め込んだことを原因にして取り潰しは?」


「上層部がハンターギルドを悪人にして終わりだろうな」


「腐ってるね。貴族って言うのは」


「そういう貴族様だけでも無いんだがなぁ。ヤツのいる派閥は腐りきってるな」


「で、俺に魔玉石を渡せと?」


「余っているヤツでいいんだ。あるか?」


「ないな。最低でも後2つは必要だし、人数分揃ったとしても状況に合わせて使い分けられるように予備は欲しい」


「……だわなぁ。さて、どうしたものか」


「横から失礼。毎回オーバーキルで破壊しているというのはどうかにゃ?」


「さすがに3匹……これで4匹かそれだけ連続というのは無理があるだろう」


「……今度戻ったら、そいつの屋敷をマキナ・トリガーで吹き飛ばすか」


「それが一番手っ取り早いかもにゃ」


「まてまて、マキナ・トリガーってなんだ!?」


「マキナ・アンガーの上位魔法ですにゃ。拡散性は薄いですがその分。貫通力が高いですにゃ」


「……建物に使ったら?」


「試してみないとだが、跡形も無く吹き飛ぶのでは?」


「なんでそんな物騒な方法をとろうとしてんだよ!?」


「俺や仲間に危害が加わりそうなら排除しないとなぁ……」


「……わかった、お前たちの帰還予定の2月下旬までにはなんとかしておく、だから都の破壊は止めてくれ!!」


「できてなかったら、容赦しないぞ?」


「あと、この修行で間違いなくフート殿たちは、前の吾輩程度の強さを手に入れますにゃ。3人で役割分担ができることを考えると、3人だけで軍と戦える……というより、軍を壊滅させられますにゃ」


「だろうよ。レベル7雷魔法やレベル5精霊魔法を好きなだけ撃てるって反則だぞ?」


「あ、いまならレベル7の精霊魔法を連発できるぞ」


「……マジでなんとか説得するから都攻めは止めてくれ」


「まあ、期待しておくよ」


 さて、都攻めのシミュレーションもしておかなきゃか。

 破壊するのは貴族街と王城だけでいいから……あれ、マキナ・アンガー数発とマキナ・トリガーで終わるな。

 ……バカな貴族が出ない事を祈ろう。

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