109.ハント開始!

 さて、ケチは付いてしまったが、俺たちの目的は変わらず灰色の森深層部での狩りだ。

 そこまでどうやって移動するかといえば……。

 

「にゃっほーい」


「リオン、初心者もいるんだからもう少しゆっくり……」


「あら、フートはミキと後続組でも大丈夫よ、私は先に行くから」


「アヤネめ、ほぼ初日だというのにショットワイヤーをあんなに上手に使いこなしやがって」


「フートさんも私のことは大丈夫ですから先に行ってもらっても……」


「この辺には要注意な敵がいるんだよ」


「要注意、ですか」


「ああ、見てな」


「ンギィイ」


「ちょっと、なんなの!?」


「あ、説明忘れておりましたにゃ」


「なんでもセルボ族だかいう小型の魔物がいて、ショットワイヤーのいく手を阻むそうだ。まあ、地面にたたき落とされる程度だが」


「たたき落とされる程度って、早く助けにいきましょうよ!」


「大丈夫。もう終わってるから」


 シュッという鋭い音とともにアヤネが地上から上がってきた。


「あーひどい目に遭ったわ。あんなのがいるなら早めに教えておきなさいよ」


「いや、ついうっかり。ミキ殿も踏んではいけませんにゃ」


「えっと、踏むもなにも、なにが起こったのか」


「ああ、そっか。普段セルボ族は盾を少しだけ出して獲物を待っているんだ。獲物が盾の上に来たら、盾を外して地面にズドン、だな」


「もっとも、セルボ族は弱いのにゃ。ショットワイヤーを習うようなハンターであればパニックを起こさない限り勝てるのにゃよ」


「それに今回は、地上をテラとゼファーが併走してるしな」


「悪かったわよ。それで、どこまで移動するんだっけ」


「できればこのまま、氷狼の縄張りまで入りたいにゃ。次のソウルはあいつらにゃー」


「わかった。それで、どれくらいかかる?」


「ミキ殿のスピードで飛んでも日が落ちる頃には着くのにゃ。のんびり行くのにゃ」


「だってさ。無理せずいこう」


「わかりました。ではいきましょう」


 その後はセルボ族の罠に気をつけながら4人で進むこととなった。

 ペースは落ちたが安全性は増したので、どっこいどっこいかな。


 そして、夕方暗くなり始めた頃、開けた場所が見えてきた。


「あそこがこれからしばらくお世話になるキャンプ地ですにゃ。ただし白馬の聖域みたいに魔物の近寄らない場所ではなく、普通に魔物も入ってきますにゃ」


「ってことは普通なら不寝番必須ってことか。大変だな」


「しかも襲ってくるのは氷狼。並大抵の苦労ではすみませんにゃ」


「ここにハウスでキャンプできる私たちって、相当反則よね」


「使えるものはなんだって使っていいんですよ、アヤネさん」


「……さて、キャンプ地に早速氷狼がいるんだが、どうするよリオン」


「マキナ・アンガーで一網打尽が手っ取り早いですにゃ。テラとゼファーを使って追い込んでドーンですにゃ」


「だな。いつもの作戦だがそれで行く……」


「あ、フート待って。そのマキナ・アンガーって少しだけ取りこぼすことはできる?」


「可能不可能で言えば可能だが……なにがしたいんだ?」


「氷狼相手に私の防御力がどれだけ通用するのか試してみたくてね」


「あ、それなら私も氷狼に攻撃して、どれくらいダメージが通るのか試したいです」


「……どうする、リオン」


「早いか遅いかの差ですにゃ。試してみてもいいでしょうにゃ。ただし、氷狼は素早い動きでかみつきや引き裂き攻撃をしてきますにゃ。十分に注意して戦うにゃ」


「わかったわ。それじゃ、木の下で待機してるから」


「フートさんも気をつけてくださいね」


「ミキとアヤネもな」


 ふたりが木の下におり木陰に隠れたことを確認して作戦決行だ。

 テラとゼファー、二匹のフェンリルが一気にその存在感を増し、氷狼の周囲を走り回っていく。

 氷狼は慌てた様子で逃げ惑い、最終的には広場の中央で固まってしまった。


「いまにゃ、フート殿」


「わかってる。マキナ・アンガー!」


 氷狼少し上のあたりに向かい、マキナアンガーを撃ち込む。

 するとその爆発力でほとんどの氷狼は砕け散った。

 焼け残りは……4匹か。


「あれくらいならおふたりでも大丈夫でしょう。いざというときの支援は忘れないようににゃ」


「わかってるって。あ、氷狼がアヤネに飛びついた」


「跳び突きはしましたが、見事にシールドバッシュで打ち返されましたにゃ」


「今度は低空からかみつきにいったな」


「今度は『シールドバッシュ・地撃』という技ですにゃ。低空から迫ってくる相手に地面をえぐるようにシールドを突き出して、はじき飛ばすという技ですにゃぁ」


「……あれの練習のしすぎで訓練場を出禁になったんじゃないか?」


「フート殿が暇な日は誘えば良かったのにですにゃ」


「今度は二匹同時か」


「片方はシールドバッシュではじき飛ばしましたが、片方は受けるようですにゃ」


「盾にかみついても仕方がないだろうに」


「まあ、仕方がありませんにゃ。アヤネ殿も防御がうまくなっておりますからにゃ。……あ、警棒で叩かれましたにゃ」


「ああ、あれは結構ダメージが入ったようだな」


「単純に頭部を鈍器で殴られたダメージに電撃による追加効果。たまったもんじゃないですにゃ」


「ここでミキが動くか」


「まずは基本の正拳突きで威力を試してみるようですにゃ……って」


「爆砕したな」


「ミキ殿の攻撃力は氷狼ごときでは測れないのかも知れませんにゃ」


「今度は元気なヤツにスキルを使うみたいだが」


「『虎砲・撃』ですにゃ。虎砲系の基本技ですが……やっぱり一発ですにゃ」


「うーん氷狼も弱腰になってしまったし、これ以上続ける必要ないだろ」


「そうですにゃあ。フート殿、どーんといっちゃうですにゃ」


 残った二匹はフレアジャベリンで片付けて置いた。

 火属性魔法はまだ加減がわからないからな。


「さーて、静かになったし、ドロップを集めたらキャンプ地の設営にゃ!」


「ハウスを出して終わりなんだがな」

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