102.調理ギルドにて

最近地の文多めかも

許しておくんなまし

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 無事ニネットさんの調整も終わり、今後も邦奈良に戻ってきたときは顔を出すように言われた。

 そして今日はミキが調理ギルドに行く日だ。

 特にやることもないので、俺もついていくことにする。

 テラとゼファーは動物ということでお留守番だ。

 アヤネもどこかに行ったし、リオンも苦手だにゃーと言い残していってしまった。

 結果、またふたりでの行動となる。


「調理ギルド、どんな場所なんでしょうね?」


「どうなんだろうな? 料理人が集まってると聞くが……まったく想像できない」


「大丈夫なんでしょうか?」


「ミキのシチューは十分合格点をもらえていたから問題ないさ」


 ミキと話をしながら渡された地図に従い歩いて行くとそこに立っていたのは……。


「なんだか、高級ホテルみたいな感じの建物ですね」


「ああ、なんだか思っていたのとまったく違うな」


 英国風ホテルとでもいえば伝わるだろうか。

 そんな3階建ての建物が鎮座していた。

 ともかく、ここで話をしていても仕方がないので門番の人に話を聞いてみる。


「済みません、ここが調理ギルドであってますか?」


「ああ、ここが調理ギルドであっている。…不思議な顔をしてどうかしたのか?」


「いえ、ものすごい厳重な警備だと」


「まあ、過去にいろいろあったのだよ。ところで君たちは?」


「名乗らず。済みません。ギルドマスターに呼ばれて来たミキとその付き添いのフートです」


「おお、君たちがそうか! 待っていたよ。案内するから付いてきてくれ」


 門番の人がいなくなったら誰がやるのかと思ったら、休憩小屋のような場所から代わりの人が出てきた。

 要するに他のギルドの受付みたいな役割も兼ねているのだろう。


 さて、門番さんに案内されることしばらく。

 3階の奥にある部屋へと通された。

 一番重厚な造りをしている事からも、ギルドマスタールームなんだろう。


「オババ様、お客様をお連れいたしました」


「いいよ。はいっといで」


 オババに促されて部屋に入ると数名のコックが待ち構えていた。


「オババ様。本当にこの冒険者がそんな料理を作ったのですか?」


「おや? 私の舌を信じられないのかい?」


「いえ、ですが、こんなに若い者が……」


「年上が偉いって風潮は捨てろって何度も言っているはずだよ!! 今後、学校を卒業してくる子供たちは皿洗いや掃除なんてしなくても味付けや付け合わせの野菜、スープ作りを任せられる逸材がいるはずだからね! つまんないことでその才能の芽を潰してごらん、ギルドを追放してあげるよ!!」


「す、すいません」


 どこも年功序列、若い者は掃除からって言うのが当たり前なのか。

 学校でも掃除の仕方、食器洗いのコツを調理の時間では徹底的に教えているって聞いたな。


「さて、お客人、すまなかったね。うちのギルドの恥を見せちまったみたいでさ」


「いえ、お構いなく」


「それよりも今日の本題に移りませんか?」


「ミキの嬢ちゃんだったかい。せっかちだねえ。私と気が合いそうだが。そうさね。まず、あのシチューを再現するに本物を味あわせてやりたいんだが……」


「……なにかありましたか?」


「冒険者装束のままというのもねぇ。案内してあげるから、ふたりとも調理服に着替えなよ」


「な、ギルドマスター自ら……」


「あれだけの醜態を見せたあげく、あんたらを信じろってのが無理な話さ。さあ、ついといで」


 ギルドマスターのオババ直々に案内してもらい、更衣室へとたどり着いた。

 ここの更衣室に入っている服はどれを使ってもいいということなので、自分の身長にあった服を選んで身につける。

 ……洗濯が微妙に行き届いていないのでクリーンもかけておこう。


「おや、着替えてくるのがずいぶんと早かったね」


「自分のサイズに合わせるだけですから」


「そうかい? 洗濯が行き届いてない服も混じっているから選ぶのが面倒なんだが……」


 やっぱりか。

 程なくしてミキも着替えて出てきた。

 ミキにもクリーンをせがまれたので、こっそりかけておく。


「それじゃあ、戻ってシチューを食べさせるよ。あいつらの驚く顔が目に浮かぶよ」


 戻ったら、実際にミキのシチューを食べてもらうことに、

 今回はひとり一皿ではなく全員で一皿だ。

 だが、食べ終わったギルド員の顔には満足感と微妙な顔がない交ぜになっている。


「さて、感想を聞くよ。どうだった」


「肉もスープの出汁も最高でした。ただ、付け合わせの野菜と、煮込んだときに使ったと思う野菜の味が……」


「私も同じ意見です。スープの味がしみこみごまかされていましたが、野菜のグレードは一般品レベルでした」


「同感ですね。できればそこにもこだわって欲しかったのですが……」


 などなど、感想は全員似たり寄ったりだ。

 さすが調理ギルドでマスターが呼び集める人材。

 しっかりとした舌をお持ちで。


「なんでもこの料理はモンスターを倒したあと、家に帰るまでの空き時間で作ったらしいよ。一級品の野菜なんてそろえられなくて当然さ」


「なるほど……そういうわけが」


「そういうわけで。私が自分の舌でこの料理を再現したシチューがこっちだ。食べてみておくれ」


 ギルドマスターのシチューも、確かにミキのシチューにそっくりだった。

 肉や出汁のグレードはどう考えても落ちるが、それ以外はミキのシチューを上回っていたと思う。

 ギルド員の感想も大体そんな感じだった。


「ふふん、この一週間、この味を出すために試行錯誤を繰り返した結果じゃわい。さて、ミキよ。この野菜で、モンスター素材を使ったシチュー。作って見たくはないかい?」


「それは是非!」


「よし、決まりだ! さあ、準備を始めるよ!!」


 その後は全員でギルドマスター専用の調理室へ移動。

 出汁を取る骨や香味野菜は魔導圧力鍋へ入れて数十分待つことに。

 俺たちが使っているものよりもはるかにグレードが高いヤツだな。

 その間にそれ以外の野菜や肉を切り分ける。

 野菜は他のギルド員でも切り分けられるが、肉は手を出すのが怖いということで、ギルドマスターとミキだけで切り分けることとなった。

 また、ブラウンシチューのベースとなるデミグラスソースもオババが事前に作っていたようだ。


 さて、圧力鍋の出汁が取れたら鹿肉を炒めつつ灰汁を取る。

 そして骨や香味野菜材料一式を抜き取って鹿肉や切り分けた野菜を再び圧力鍋に入れたら、後は完成まで待つのみらしい。

 ミキも圧力鍋をこんな便利に使っていたのだろうか?


 加圧時間も終わり、減圧されたら今度こそ鹿肉シチューの完成だ。

 全員で実食したが、先ほどのミキのシチューをさらに上回るおいしさだった。

 ギルドマスター的にはもう少しなにかできたんじゃないか、と頭をひねっていたが、そこはギルド員に止められていた。


 最後は完成したシチューの取り分だったが、ミキが半分ずつを主張したのに対し、ギルドマスターは自分たちが8分の1を主張していた。

 なんでも使った食材の価値があわなさすぎるんだとか。

 それだけであっても、今いないギルド幹部に味あわせてやるには十分だからといって譲らない。

 結局、ギルド員と俺の間で仲裁し、折衷案というかたちで、ミキが4分の3、ギルドが4分の1ということで落ち着いた。

 ギルドマスターが早速時間停止のマジックボックスにシチューを入れて、厳重にロックをかけていたのが印象的だったが。


 そして完成したシチューは早速晩ご飯として提供された。

 あまりの旨さに、リオンが完全にネコになってたよ……。

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