ハンターギルドの新人たち

103.ハンターギルドにて 前編

「なんというか、こう、やれることがないっていうのも暇よねぇ」


「暇だよなぁ」


「暇ですね……」


「暇だにゃ~」


「「クオォ……」」


 ミキと一緒に調理ギルドにいって数日、全員揃って暇な日ができてしまった。

 なんでも、アヤネは訓練場の地面などを荒らすので出禁を数日くらい、リオンもやるべきことはやり終えたそうだ。

 本来なら、また灰色の森に狩りに出かけたいところだが……もうすぐ開催されるオークションまでは残ってくれとギルドマスターから懇願されている。

 俺たちはかなり特殊だし、まだ一年目で基礎を教えているところだから学校へ行っても邪魔をするだけだし……どうしよう。


「……ハンターギルドにでも顔を出しますかにゃ」


「ハンターギルドか……何か面白いことがあればいいけどな」


「あまり期待できないけどね」


「お仕事を斡旋してくれるところに面白いことを求めるのはちょっと……」


「「ワォン」」


 というわけで装備を調えてハンターギルドまでお出かけ。

 ハンターギルドに入ると、そこには顔なじみになった面々もちらほらと見かける中、俺たちと同年代の人間がいることに気がついた。


「ほほう、吾輩たちのギルドにも新人が入ってくる時期になったであるか」


「へぇ、あれが新人ねぇ」


「こういうのって初夏が多いんじゃないの?」


「初夏に来られても実力不足ですにゃ。そこから死ぬ気で鍛えてまた来た子たちの一部が入会資格を得られますにゃ」


「そういうものなんですね」


「そういうものにゃ」


「お、『白光』に『青雷』のパーティじゃないか」


「あ、エーフラムさん、お久しぶりです」


「ちゃんと覚えていてくれたか」


「ええまあ」


「ライラがいいだけ絡んでたしなぁ」


「ははは……」


「そんなことより、お前、ミキと正式に結婚したんだってな。おめでとさん」


「ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


「……で、やることは済ませたのか?」


「……まだですよ。って言うか、昼間っからそういうことは」


「あまり長々と待たせるもんじゃねぇぞ。その辺も男の甲斐性だからな」


「結婚経験のないアンタにいわれてもねぇ……」


「うっせえよ、ライラ」


 相変わらず、この人たちは元気そうだ。

 あれ、でも、あと一人……。


「ニコレットさんは?」


「あいつは新人まとめて率いて訓練場だ。見に行くか?」


「……アタシはいけないのよね」


「アヤネの嬢ちゃんはなにかしたのか?」


「訓練で荒らしすぎて出禁にされたんだとさ」


「……出禁になるってどれだけ派手にやったのかしら」


「魔術師系ですら滅多なことがないと出禁はねぇぞ」


「……放っておいて」


「まぁ、見学席側からなら大丈夫だろう。とりあえず行ってみるか」


 というわけで、訓練場の見学席側へ移動。

 アヤネは絶対に訓練場に降りないよう注意されていたが……本当になにをしたんだ。


「ここからならよく見れるだろう」


「あそこでやっているみたいね」


「おや、『天光の翼』は4人引き受けたのであるな」


「おうよ。タンク1、ストライカー1、アーチャー1、スペルキャスター1でバランスはいいぞ、バランスは」


「バランスは、ねぇ……」


「連携がうまくいってないな」


「タンクがキャスターの視線を遮っちゃダメでしょう」


「ストライカーとアーチャーも自由に動き回りすぎですね」


「……そういや、お前らってここに来たときにはほぼ完璧な連携できてたよな、リオンを除けば」


「吾輩、後付けであるから……」


「まあ、いろいろあってね……」


「連携できないと死活問題だったんですよ」


「というよりも上級シャーマンですら難しい移動しながらの詠唱できたわよね?」


「……慣れですよ、慣れ」


「……お前らの環境が聞きたいとこだわ」


「……あ。終わった見たいですよ!」


「露骨に話題を変えてきたな……って実際に終わったか」


 実際、模擬戦は終わっていた。

 ニコレットさんの圧倒的勝利で。

 さすがの強さだな。


「お前たち、来ていたのか」


「こんにちは、ニコレットさん」


「家でごろごろしているのもなんなので、ハンターギルドまで出てきたのであるよ」


「……ハンターギルドは遊び場ではないぞ?」


「でも、面白いものには出会えたのである」


「……ふむ、おい、こっちに来い」


「は、はい」


 ニコレットさんが、息も絶え絶えな4人を呼び寄せる。

 全員肩で息をしており苦しそうだ。


「……各自、自己紹介だ。彼らはお前たちの先輩に当たるCランクハンターだ」


「本当ですか!? 俺たちとほとんど同年代なのに!?」


「……腕につけているハンター証を見ればわかるだろう。後で模擬戦も頼んでやる。Cランクハンターの本気という壁を知れ。さあ、自己紹介だ」


「あ、俺はマルクスです」


「ヨミナといいます」


「オスカルです」


「グレゴリオだ」


「……あー、態度がなっていないのは……」


「まあ、対抗心とかあるでしょうし。それで、模擬戦ってどうします?」


「その前に我がミキと再戦したい。構わないか?」


 おや、予想外の提案だ。

 ミキの方は……ナックルを取り出してやる気満々だな。


「はい! 試験の時の借りを返して見せます!」


「……楽しみだ。全力で来い!」


「その前に。グレーターヒール」


「……すまないな」


「いえいえ、どうせなら全力でやりたいでしょうから」


 そして、訓練場の中央にふたりが歩いて行く。

 他の訓練をしていたハンターたちもなにが起こるのかと様子をうかがいだした。


「それじゃあ、始めましょうか」


「……ああ、お互い悔いの無いように」


 軽く拳を突き合わせて互いに一歩引いた途端、互いからものすごい気迫が発せられた。

 まるで物理的な力すらあったかのような気迫を受け、新人4人はそれだけで一歩後ずさっていた。


「……さすがですね。試験の時よりもはるかに強くなってます」


「……お互い様だ。というか同じ人物か?」


「こちらも死ぬ気で修練してきましたから。そして、これからも死ぬ気で修練をしていきますから」


「……この試合が先輩の意地を見せられる最後のチャンスかも知れないな」


「さあ、開始です!」


「ああ、楽しもうじゃないか!」


 そこからの戦闘は本当に激しいものとなった。

 以前は、ニコレットさんのツインエッジにまったく着いていけなかったミキだが、今日はその動きを見極めて反撃を繰り出していく。

 ニコレットさんは、その反撃を躱しつつ再攻撃を仕掛けようとするが……再攻撃をしようとしたときにはミキは一歩引いていた。

 一進一退の攻防の中、先に有効打を決めたのはニコレットさんだったが……それを受けつつ完璧なカウンターを繰り出したのはミキだ。

 ニコレットさんも派手に飛ばされたが、ミキの傷もひどい……と思っていたら、ミキの傷が徐々に塞がっていく。

 そして、血の跡を残し、完全に塞がっていた。


「……治癒功か。よくぞそのレベルまで鍛え上げたものだ」


「対毒功も覚えてますよ。即死毒だって治して見せます」


「見事なものだ。だが、まだ負けるつもりはないぞ!」


「こちらこそ、胸をお借りします!」


 その後も激しい攻防を繰り広げ、最終的に立っていたのはニコレットさんだった。

 もっとも、ミキもスタミナ切れで座り込んでいるだけだったが。


「……先輩の意地、見せられたな」


「結局、負けちゃいました」

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