101.学校へ行こう?

ごめんなさい<m(__)m>

ただひたすらに寝坊しました

それではどうぞ

*******************


「おー、くるたびに立派になっていってるな」


「そうですね。見かけなかった校舎も増えてますよ」


 ハンターギルドでの用事を済ませた俺たちは、学校の様子を見に来た。

 まあ、運営が順調なのはこの間聞いているし、どんな感じになっているかを見られれば十分だった、のだが。


「む、そこのふたり、この学校になにか用か」


「え、おお、守衛もおくようになったんだ。ということは何か事件でもあったのかな……」


「ええい、この学校になにか用かと聞いているのだ!」


「ああ、済まない。この学校の様子を見に来ただけなんだ。1カ月ほどでかなり様変わりしててすごいなと思ってみてただけで……」


「1カ月…………済みません、しばらくここでお待ちいただけますでしょうか」


「あ、ああ」


 俺たちの話を聞いて慌てて学舎へと飛び込んでいった守衛さん。

 戻ってきたときには、もうひとり連れてきていた。


「あ、セドリック校長」


「あ、セドリック校長、じゃありません、フート殿!! できることなら、学校に来られる場合は事前に連絡を!」


「なんか済みません。散歩ついでに様子を見に来たもので……」


「まったく……このお二方は通して大丈夫だ。フート理事長とミキ理事だからな」


「……やっぱりフート理事長だったんですね。危うく追い返してしまうところでしたよ」


「いや、守衛さんの判断は正しいよ。なんの連絡もなく、狼を連れた怪しい二人連れが現れたら警戒しないとね」


「ありがとうございます! これからも警備をがんばらせていただきます!!」


「さて、ではいきましょうか、フート殿」


 セドリック校長に案内されて学校の敷地内へと入っていく。

 相変わらず、この学校の敷地は広いなぁ。

 でも、とりあえず聞いておくことは聞いておくか。


「セドリック校長、俺が理事長でミキが理事ってどういうことだ?」


「学舎に入るときに角が立たないようにと決めたのですよ。あと、アヤネ殿やリオン殿も理事となっております。理事といっても皆様は名誉職のようなもので、基本的にはお手を煩わせることはありませんが」


「例外が発生したときくらいか」


「……この敷地内だけでどうにもならない事態が発生したときですな。例えば別の街にこの学校と同じシステムの学舎を作るなど」


「……もうそんな話が来ているのか?」


「ええ、大都市ではもうこの学校は話題になっておりますよ。毒にしかならなかったスラムの子供をすくい上げて、新しく仕事に就かせようという試みとしてね」


「……でも成果が出るのは2年か3年先なんだよな」


「はい。1年で卒業する子供もいる予定でしたが、その子供は特例としてもう1年学ばせることにいたしました。それ故、最初の卒業生は2年後。その卒業生が職にあぶれたり、卒業生以外の子供たちの居場所を奪ってしまえば失敗です」


「難しいよな。どうしてもパイの取り合いになってしまう」


「パイとは確か赤の明星が開発した円形のお菓子でしたね。確かにそうなってしまうでしょう。頭の痛い問題です」


「地方で働き口を探すとかは?」


「もっと難しいでしょうね。地方は閉鎖的な場所が多いですから」


「そう考えていくと、今後の課題はこの学校以外の子供たちの就職支援か」


「そこまで考える必要は理事長の仕事ではないのですがね。理事長は人が良すぎます」


 ひとつため息をついてセドリック校長は続ける。


「実は、他の理事……ギルドマスターたちからなんですが、この学校で得たノウハウを元に、職業支援学校を開けないかと話が上がっております。一時保留案件になっておりますが……ギルドマスターたちとの折衝を続けてもよろしいですか?」


「ああ、構わないよ」


「では、そのように取り扱いましょう。……現在は校庭で体力作りの授業が行われていますね。見ていきますか?」


「ああ、そうしようか」


 俺たちは校庭で行われている体力作り……要するに体育の様子を見学する。

 しばらくは、のんびり眺めさせてもらったが、その中にひとり見知った顔を見つけた。


「校長、知り合いがいたんだが、声をかけていいか?」


「少々お待ちください……どうぞ」


「授業を止めて済まない、タリア、だよな?」


 最後にあったときに比べて女性らしいふっくらとした体つきになっている。

 それに、その顔つきは絶望に染まっていたあのときとは違い、希望に満ちていた。


「あ、フートさま。お久しぶりです。こんなところでお会いできるなんて」


「タリア、どうしてここに? この学校には14歳までしか入学できないはずじゃ?」


「それは私から補足を」


「セドリック校長?」


「この少女はハンターギルド預かりになっていたはずです。そのときに詳しく調べると実年齢が11歳だったことがわかり、急遽入学となったのです」


「……そうなのか」


「はい。……恥ずかしながら、スラムの子供たちって自分の本当の年齢なんて知らない子供の方が多いですから」


「まあ、そう言うことです」


「そうか……いろいろとあっただろうが、ここでならいろいろな技術が磨ける。がんばってくれよ、タリア」


「はい!」


 気持ちのいい返事を返して戻っていくタリア。

 途中で友人と思われる数名にいろいろ聞かれてはいるが、態度は友好的なものだった。


「さて、授業を止めてしまったんだよな……」


「はい、ですが数分程度でしたら大丈夫ですよ」


「じゃあ、今日の放課後ってあと何時間後になる?」


「あとは給食を食べて終わりになります。まだ午後の授業は選択授業ですので自由裁量となります」


「じゃあ給食が終わったら、全校生徒を校庭に集めてくれ。……ああ、校庭奥側半分は人がいないように誘導も頼む」


「はい、わかりました」


「あれをやるんですね、フートさん」


「インパクトはあるだろう?」


*******************


 そして、放課後。

 全校生徒が校庭に集まっていた。

 ……我ながら、大量の生徒を集めることができたものだ。


「静かに! これから、この学校の創設者、フート理事長から君たちに贈る言葉がある。静かに聞くように!」


 ハードルを上げてくれるな、セドリック校長。

 まあ、気楽にいこう。

 俺はテラとゼファーを伴い校庭に立った。


「ほとんどの生徒にはお初にお目にかかるな。この学校の創設者……というか発案者のフートだ。今日は皆に教えておきたいことがある」


 生徒たちは少しざわつきながらも、俺の言葉を聞いてくれている。

 まさか、この学校の発案者が自分たちとほとんど変わらないような人間だとは思わなかったのだろう。


「ここに集められた生徒のほとんどはスラム出身者のはずだ。スラムに住むことになった理由は各それぞれやむにやまれぬ理由があったと思う」


 生徒の中には泣き出した子供もいだした。

 自分がスラムに住むことになったときを思い出したのだろう。

 でも、今後はそんな思いはさせない。


「だが、この学校で教えていることは、この先どのような職業に就くためにも役立つ知識のはずだ。建築がおくれていた薬学や錬金術の学び舎もできたと聞いた。これから先の可能性は無限大だ」


 生徒たちの顔が前を向く。

 その目には強い光が宿っていた。


「……さて、ここでちょっとしたものを見せよう。ここにいるレッサーフェンリル、テラとゼファーは俺が一から育て上げたレッサーフェンリルなんだ。ちょっと理由があって二匹同時に手の上に乗せられる大きさだったんだ」


 急に学校と関係ない話を始めたので不思議な顔をする生徒がほとんどだった。


「俺はこのレッサーフェンリルを俺の魔法で育てた。それこそ片手で抱えられる大きさから始めて、だんだん大きくなり、最終的には4メートル近い体躯まで育ったよ」


 その話を聞いて目をキラキラさせる子供たちも出始めた。

 レッサーフェンリルといえば、冒険者になる子供たちにとっては憧れの存在らしい。

 それが、4メートルなんて大きさまで育ったんだからすごいと思うのは間違いないだろう。


「……さて、今ここにいるテラとゼファーはせいぜい2.5メートルといったところの大きさしかない。その理由はわかるかな?」


 そう告げると、ほとんどの生徒の顔が困惑に包まれた。

 だが、一部の生徒の顔には驚きとこれから起こるであろうことへのわくわく感が見て取れる。


「ここにいるレッサーフェンリルたちは、テイマーギルド有史以来初めて確認された、人によって育てられ、進化を遂げたフェンリルたちだ! さあ、テラ、ゼファー!! 本来の姿を見せてやれ!!」


「「ウォォォォォン!!」」


 あの日、テイマーギルドで行ったことと同じ演出を行い、レッサーフェンリルの体躯からフェンリルの姿に変わっていく二匹。

 その姿は、子供たちの目に焼き付けられていく。


 やがて竜巻が収まりフェンリルが姿を現すと子供たちの大喝采が起こった。


「これがテイマーギルドでは伝説と呼ばれていた魔獣フェンリルだ。この二匹も親がいない状況からでもここまで成長できた。もちろん環境が良かったのは確実にある。それでも、タダのレッサーフェンリルから伝説の姿までたどりつけるのは証明できただろう? 君たちだって、ここまでできなくてもさまざまなことを学べる環境があるんだ。存分に学び、遊びたまえ! そして、社会という荒波の中に飛び込んでいってくれ!!」


 俺の最後の演説で子供たちの熱狂は爆発した。

 伝説のフェンリルを目の前に見せつけられて、自分たちも同じように学んでいけば活躍できるという可能性。

 それはすさまじいことであったようだ。


「……理事長ありがとうございました。それでは、生徒の皆さんは宿舎へと……」


「ああ、ちょっと待ってくれ、校長。なあ、フェンリルと遊んでみたい子供はいるか?」


「な……理事長!?」


「せっかくの機会だ。触ってみるだけでもいいし、背中に登ってみるとかでもいいぞ。こいつらには言い聞かせておくから」


 その言葉を聞いた子供たちの反応はいくつかに分かれた。

 まっしぐらに飛びつこうとするもの。

 恐る恐る近づこうとするもの。

 ただ見ているだけで十分というもの。


「じゃあテラ、ゼファーよろしく頼むよ」


「「オン」」


 今日のところは二匹も嫌がらずに子供の相手をしてくれた。

 ときには、背中に子供を乗せたまま軽く走って見せたりといったサービスもして見せたのだから上機嫌だったのだろう。

 こうして学校訪問は終わった、終わったのだが……。

 ただ、学校と呼ばれていたこの場所が、『フェンリル学校』と呼ばれるようになり、校章は二匹のフェンリルが剣と槌を咥えたものとなった。

 テイマーギルドの許可も出たし、決裁も俺が出しましたよ。

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