フェンリル大騒動

97.テイマーギルドの大騒動 前編

 食事会も終わり翌々日、マルガさんからお誘いを受けたテイマーギルドへ向かう日だ。

 招待を受けていたのは俺なので俺とテラとゼファーで行けばいいかと考えていたが……。


「なんで全員ついてくるんだ?」


「私は妻ですから」


「吾輩は運転手だにゃー」


「私ひとりで家に残っても暇じゃない」


「「ウォフ」」


 ということらしく全員でテイマーギルド本部に向かうこととなった。

 テイマーギルド本部にも立派な駐車スペースがあり、そこで車から降りると早速職員のひとりが近づいてきた。


「黒ペンさん……あ、失礼、フート様ですね」


「かまわないよ。本来目立ちたくないからって『黒ペンさん』って名乗ろうとしてたんだから……」


「さすがに今となっては難しいかと」


「だよなぁ」


「フート殿、全員降車が終わりましたぞ」


「オッケー、大人数になったがかまわないよな?」


「もちろんです。……といいますか、私たちも大人数なのですが問題ないでしょうか?」


「うん? まあ、支障がないならかまわないが……」


「ありがとうございます! ……これで私も生でフェンリルのお披露目に……」


「どうしたの? 案内してくれるんじゃなかった?」


「はっ!? 失礼いたしました! まずはギルドマスターの部屋に向かいますのでこちらへどうぞ」


 案内人の後に従い、俺たちはギルドマスター、マルガの部屋に到着する。


「マスター。お客様たちをお連れしました」


「わかったわ。入ってもらってちょうだい」


「はい、失礼いたします」


 部屋に入ると机に座ったマルガの姿が。

 だがマルガの視線は、テラとゼファーに注がれっぱなしだ。


「お疲れ様。今後のことは私がするから、あなたは予定どおりに動いてくれてかまわないわ」


「はい! 失礼いたします!」


 静かにドアを閉めていったが、廊下を慌てて去って行った様子が伺いとれる。

 はて、今日はそんなに大事なイベントなのだろうか?


「ごめんなさいな。少々騒がしくて」


「いえ、かまいませんが……」


「もうすぐこのギルドのすべての入り口を封鎖するのよ。それで出入り口関係の持ち場についている子たちは大慌てでね……」


「出入り口をすべて封鎖であるか!?」


「唯一北門だけはギルド職員を乗せたバスが入れるように30分ばかり遅く閉めることになってるけど……他の各門は急ピッチで作業に当たっているわね」


「ちょっと、そんなことまでしてなにか大事なイベントでもあるの!?」


「決まっているじゃない!! フェンリルのお披露目よ!!」


 その一言に部屋の中が静まりかえった。

 俺たちは全員その言葉についていけなかったからだ。


「……あの、済みません。それってそこまで大事なんですか?」


「大事も大事だ! 今回のイベントには邦奈良内すべてのギルドで興味のある職員全員と学院で研究をしている学者たち、そのほかにもレッサーフェンリルを育てているブリーダーや、パートナーとして育てている人たち。集められるだけの人数を集めたんだから!!」


「あー、そこまで大々的に人を集めて失敗っていうことは?」


「フート殿? いまはフェンリルたちに縮小化してもらっているのだろう? この部屋は十分に広い。せっかくなので本来の大きさに戻ってもらえないだろうか」


「……大丈夫か、お前たち」


「ワフン」

「ワオン」


 どうやら二匹とも大丈夫そうなので縮小化を解いてもらう。

 すると……。


「ああ、これだよこれ! 全身を絶え間なく包む毛並みに、頭頂部に隠れるようにして存在している角。そして、あふれ出す気品と圧力!! これが私たちが研究し、追い求めていたフェンリルの姿だ!!」


 なんかマルガが怖い。

 ひとしきりテラたちの様子を確認したマルガは、俺の元に戻ってきて再び縮小化させておくように頼んできた。

 なんでも、会場で実際にフェンリル化させて大いに湧かせたいそうだ。

 ……そういえば縮小化しているときって頭部の角も生えてないよな。

 よくわからない謎だ。

 マルガにいわせれば、縮小化ではなく退行化なのではないかという話だが……。


「ギルドマスター。そろそろお時間です」


「おお、もうそんな時間か。はしゃぎすぎて時を忘れていたよ」


「ということはギルドマスターはもうすでに……?」


「確認のために少しだけな。間違いなく私たちの求めていたフェンリルだった」


「おお! それでは早くいかなくては!!」


「まあ、待ちたまえよ。気持ちもわかるが、ゆっくりと行こうじゃないか。これも演出だ」


「……本当はギルドマスターが優越感にひたっていたいだけじゃないですよね」


「あ、あ、当たり前だろう?」


「まあ、時間はありますし普通にいきましょう。普通に」


 ふたりの案内を受けてテイマーギルド本部の中を歩く。

 場所によっては絵画などが展示されているところもあるそうだが、今日向かう場所は修練場らしい。

 そういったものは見られないので、興味があったら後日また来て欲しいとのことだ。


「着きました。この先になります」


 たどり着いたのは修練場の扉。

 観客はすでに修練場を取り囲む席の上にいるらしい。


「ご同行の皆様はいかがなさいますか? ご一緒していただいてもかまいませんし、ここでお待ちになっていただいてもかまいませんが……」


「こんな面白いイベント、行かないわけないでしょう」


「……ちょっと緊張しちゃいますけどね」


「ハンターたるものこの程度どうということはないのである」


「わかりました。それでは入場いたします。どうぞ!」


 扉が開け放たれると、そこにはあふれんばかりの人、人、人。

 よくもまあ、これだけ集まったものだ。


「……想定よりもさらに集まっているわね」


 だと思ったよ。

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