89.覚醒

 さて、ぎりぎりダークトライホーンから逃げ帰ってきたわけだが、作戦会議だ。

 ちなみに、皆の顔は暗い。


「……というわけで、ダークトライホーンは対魔法バリアを持っていることが判明しましたにゃ」


「……それって詰んでなくない?」


「かなり分が悪いですね」


「それでも、追っ手のバイコーンとナイトメアホーン、あわせて513匹をマキナ・アンガー2発で倒せるのがわかったのは朗報ですにゃ」


「そうなのか?」


「はいですにゃ。この世界の魔物は死ぬとすぐ魔石とドロップアイテムに替わりますにゃ。それ故に死体を盾にできませんにゃ」


「つまり、周りのザコから減らしていこうって寸法?」


「そうなりますにゃ。ちなみに、フート殿、マキナ・アンガーってどれくらい連発できるのですかな?」


「精霊の手伝いがないとして消費MPが3,000だから……あ、ちょっと待った。経験値が五百万ほどたまってる」


「……五百万ってなにをしたのよ」


「おそらくは追っ手のバイコーンやナイトメアホーンをひとりで倒した結果でしょうなぁ。普段は120匹前後を頭割りすることが多いですが、今回は513匹を独り占めでしたからにゃぁ」


「まったく嬉しくない理由だな」


「それで、どうしますにゃ?」


「強化できる限りしないわけにはいかないだろうな」


「そうですにゃ。まずはどうしますかにゃ?」


「【雷精霊魔法レベル8】が取得出来るレベル80まであげるかな?」


「にゃにゃ、その前に【素早さ上昇+レベル5】を覚えてくださいですにゃ」


「かまわないけど……どうしてだ?」


「このパーティで、フート殿の素早さの低さがとても目立ちますにゃ。それを少しでも底上げするためですにゃ」


 あーそう言われればそうかもしれないな。

 いままで、まったく気にしたことがなかったけど、これって大問題だよな。

 パーティの連携的に。


「了解……よし覚えたぞ」


「次は、レベル80ですね!」


「なにか変わるわけでもないけどな」


 実際、レベル80になったからと言って見た目は変わらない。

 ただ、【雷精霊魔法レベル8】が取得できるようになっただけであった

 もちろん、このスキルは取得しておく。

 そして、まだ経験値的にあまりがあったため、レベルを85まで底上げしておく。

 ただ、外の様子を見ていたアヤネがなにか変化に気がついたようだ。


「ねぇ。テラとゼファー、なんだかやけにそわそわしていない?」


「そういえばそうだな。ちょっと様子を見てくる」


「あ、私も行きます」


「吾輩もだにゃ」


「私も行くわよ」


 結局全員でテラとゼファーの様子を見に来た。

 テラたちは俺が外に出てくるなり、魔法のおねだりを始めた。

 それも二匹の様子からして、主属性だけではなく、副属性もだ。


「ふーむ、アヤネ殿、いつからこの様子になったのですかな?」


「フートがレベル80になったあたりかしら。なんだか、こちらの様子をそわそわ見だしたのよね」


「なるほど……フート殿。魔法をあげてはいかがですかな」


「わかった。まずはテラからな」


「オウン!」


 テラにレベル5魔法を食べさせていくのだが、いつもに比べてかなり食欲旺盛だった。

 数十回の魔法を終えてようやく満足したのか、次は副属性の雷魔法をねだり始める。


「雷魔法か……マキナ・アンガーでいいんだろうか」


「そうですにゃ……マキナ・アンガーではなく、レベル8で新たに覚えた魔法ではどうかにゃ?」


「……おなか壊さないかな?」


「大丈夫だにゃ、多分」


 レベル8魔法を使うと言うことで、俺は詠唱を開始する。

 レベル8は詠唱省略ができないんだよな。

 つまり連射が効かないと。

 ついでに言うなら、MP20,000持っていくので根本的な連射性に難あり。

 そもそも、精霊たちに手伝ってもらってMPを集めてもらわないと、いまの俺じゃ一発も撃てばMPぎれだ。

 それでも、精霊たちは喜んで手伝ってくれるようだ。

 力を振るえるのが嬉しいらしい。

 それでは、始めよう、破壊の詩を。


「〈雷精たちよその力を解放せよ。その真性は破壊。それを統べるは機械の意思。目覚めよ目覚めよ破壊の力に。そして集いて一本の矢とならん。それは閃光。それは破滅。さあ、征くがよい!! その破壊に祝福を!! マキナ・トリガー!!〉」


 俺の右腕に一本の矢となりて集った閃光が、テラに向かって射出される。

 テラは一瞬驚いたような姿を見せたが、その閃光にも劣らない俊敏性を見せつけ、魔法を食いちぎった。

 ……うん、さすがに最強魔法を簡単に壊されると自信をなくすよ。

 テラの方はそれで満足したようで、伏せてなにかを押さえ込むようにして耐えている。

 さて、次はゼファーの番だな。


「よーし、ゼファーも好きなだけ風魔法食べていいからなー」


「ワウワウ!」


 マキナ・トリガーで減ったMPも急速に回復しつつあり、レベル5風魔法を使い続けるくらいなら何の問題もない。

 ゼファーもまた数十回の風魔法を食べた後満足したようで、今度は副属性の回復魔法をねだるようになってきた。


「回復魔法にはレベル8がないからなー。レベル7で我慢しろよー」


 そう言い聞かせつつ、レベル7回復魔法を何回か食べさせる。

 それで満足したのか、ゼファーもまたテラの隣へと移動した。

 そして、テラとゼファーはアイコンタクトを交わし、大地に四肢をしっかり踏みしめると、いままで聞いたこともないような轟音で叫びだした!

 

「「ガォォォォォォォォゥン!!」」


 そして叫びとともに大地と電撃の竜巻、風と緑色の光の竜巻がそれぞれ現れて二匹の姿を隠していく。

 竜巻は数分間にわたってテラとゼファーを隠し続け、やがて何事もなかったかのように収まった。

 だが、竜巻の中から現れたものは以前のテラとゼファーではなかった。


「にゃ、にゃんと……」


「うそ……」


「フートさん、これって……」


「ああ、間違いないな。レッサーフェンリルからフェンリルへの進化だ」


 俺たち四人は全員【鑑定+】持ちだ。

 それ故に、モンスターの種族名を間違えたりはしない。

 それ以上に、竜巻の中に入る前は4メートル程度だったテラとゼファーの体長が、いまでは5メートル以上ある。

 もっとも、俺に甘える姿は進化前と変わりはしないが。


「うーん、これはどう報告するべきかにゃ……」


「なにかあったのか、リオン」


「二匹の種族が『アースライトニングフェンリル』と『フェアリーウィンドフェンリル』になっているのである。吾輩の記憶が正しければ、完全な新種であるよ」


「へー」


「……まったく深刻に考えていないであるな」


「進化条件は大体想像がつくだろう」


「まあ、そうであるが……普通の魔術師たちには酷であるよ」


「そこはがんばってもらうしか」


「……とりあえず、今日はこれくらいにして、明日二匹の戦力分析だにゃ。それ次第で戦術が変わるのだからにゃぁ」


「了解。……テラとゼファー、あまり顔をなめないでくれるか?」


 大きくなっても甘えん坊な二匹。

 果たしてどの程度の戦力を持っているのやら。

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