90.ダークトライホーン討伐戦 前編

「グォォォン!」


「ガォォォォゥ!」


「いやはや、コイツはすごいな」


「これならばダークトライホーン戦が楽になりますにゃ」


 翌朝、二匹のブレスをみせてもらったんだが……なかなかにすごかった。

 テラのブレスは岩の弾丸と雷が飛んでいき目標を砕く。

 できる限りの巨岩を的に用意したが数秒で破壊した。

 ゼファーのブレスは、風のみでインパクトに欠けるかと思いきや、生物に当たるとその部分から腐っていく。

 ちなみに、俺が試しにゼファーのブレスを受けてみたときは体力が回復した。

 回復とダメージ、双方を同時に使い分けられるんだろう。

 うちの子、両方ともすごい。


「で、ダークトライホーンにはどうやって乗り込むんだ。フェンリルを連れて木の上は進めないだろう」


「もちろん、真正面からダークトライホーンまで突き進んで行きますにゃ」


「マジか」


 この作戦の詳細は朝食の席で話されたが……意外といけそうな気がしてきた。

 レベルが上がってマキナ・アンガーくらいならある程度……雷の精霊が集まり次第連発できる俺が、敵陣を砕いていく。

 そして、俺が崩したところに敵が集まってきたらフェンリル二匹の出番というわけだ。

 フェンリルのブレスが終わったら、再度チャージが終わっているはずのマキナ・アンガーで敵を倒していく。

 フェンリルのブレスだが約30秒ほどインターバルが必要なようだが、二発目のマキナ・アンガーのあと、移動しなければ問題ない。

 というわけで、この繰り返しでボスまで攻め込んでみようという作戦だ。


「……そんな簡単にいくでしょうか?」


「後ろからも来た場合はどうすんのよ?」


「拡散型マキナ・アンガーは究極的には全方位攻撃可能だが? その分、威力も減るけど」


「凶悪極まりないわね」


「ともかく、フート殿のMPがある程度まで減らない限りは前進を続けるにゃ。減ってきたら、その場で止まって回復を待つにゃ」


「ちなみに、回復ってどれくらいかかるんですか?」


「黙って立っていれば1秒3,000程度は回復するな」


「……回復量も桁違いね」


「これくらい回復できないと、あんな大魔法をバカスカ撃てないさ」


「……それもそうね」


「ともかく、今日はこの戦法で行ってみますにゃ。手下の数が減らせれば上々、できなくても経験値はがっぽりですからおいしい企画ですにゃ!」


「……経験値と言えば、ソウル共有の経験値、リオンには振り分けない設定になったままだけどいいのか?」


「かまいませんにゃ。いまは皆さんのレベルアップが最優先にゃ」


「了解。それじゃ、いこうか」


 準備を整えてキャンプ地から出発。

 テラとゼファーが巨大化し、両方ともふたり乗りが楽にできるから移動が楽でたまらない。

 そんなわけで、ダークトライホーンの縄張りまでやってきたが……。


「明らかに警戒レベルが上がってますにゃ」


「俺たちが襲撃をかけたせいだろうな」


「まあ、やることは変わりませんにゃ。いくにゃ~」


 今回は魔法を使う俺が先頭の布陣で攻め込んでいく。

 しばらくすると、数匹の魔物が出てくるが、そんなのはサンダーボルトやテラとゼファーの餌食だ。

 そのまま歩いて行くこと数分、ようやく敵の大群さんがお出ましのようだ。


「それでは予定どおりに。フート殿、テラ、ゼファー頼むにゃ!」


「ああ、マキナ・アンガー!」


 ある程度距離を詰めさせてからマキナ・アンガーを発動し、大量の魔物を消し去る。

 だが、その後も攻撃してこようとした魔物がいたので、テラとゼファーの出番だ。


「「ゴァァァァ!!」」


 二匹から放たれたブレスが近づいてこようとした魔物や、遠くで様子を見ていた魔物にあたり、塵へと帰していく。


「うっ」

 

 その光景を見た、ミキとアヤネが気持ち悪そうにする。

 

「精神汚染が始まりましたにゃ。精神耐性薬を飲むにゃ」


「精神汚染ってダークトライホーンを見たときじゃなかったの?」


「精神汚染をかけてくる魔物がこれだけ集まれば耐性を突破することもありますにゃ。というわけで、精神耐性薬にゃ」


「ありがと少し気分が楽になったわ」


「ありがとうございます、リオンさん」


「いえいえにゃ。ふたりとも調子が悪くなってきたらきちんと飲むのにゃ」


 さて、精神汚染による一幕はあったが戦況は動いていた。

 その光景を魔物たちは、完全にひるんでしまったのか、俺たちに近づいてくる気配がない。


「……? どうしたんだ? あのときは500匹まとめて倒したのに」


「わからないにゃ。とりあえず進んでみますにゃ」


 最大限の警戒をしながら前へと進んでみる。

 すると、俺たちを取り囲んでいた魔物たちは一目散に逃げ出してしまった。


「……どういうことだ、これは?」


「……理由は2つ考えられますにゃ」


「2つ? もったいぶらずに話なさいよ」


「1つはダークトライホーンが、このあたりの魔物を洗脳しているパターン。先ほどの攻撃を見て洗脳が解けてしまったわけですな」


「もう1つはなんでしょう」


「これは1つめとも関係があるのですが、ダークトライホーンはこのあたりのボスに過ぎないパターンにゃ。それで、親衛隊とも呼べる自分の命をなげうってでも守る魔物を召喚、ないし洗脳で作ることができるのにゃ。そいつら以外は洗脳レベルが生存本能に勝てないのニャ」


「どちらのパターンにせよ、このままザコを蹴散らしていけば何かわかるというわけか」


「そうなりますにゃ。よろしくお願いしますにゃ」


「まあ、作戦には変更がないからな。任されたよ」


 その後も数回魔物と遭遇したが、俺のマキナ・アンガーを見た時点で逃げ出す魔物がいたり、フェンリルのブレスで逃げ出す魔物がいたりで最後まで戦おうという連中はいなかった。

 そして、ようやくたどり着いたのが最奥部、ダークトライホーンの場所だった。


「さーて、ダークトライホーンですにゃ。まずは軽ーく周囲の魔物を粉砕してくださいにゃ」


「オーケー。行くぞ!」


 俺はマキナ・アンガーを使いダークトライホーンの周囲にいる魔物を倒していく。

 ダークトライホーン自体はバリアを張っているので無傷だが、それは無視だ。


「……やはりうち漏らしがいるな。テラ、ゼファー頼んだぞ」


「「ウォフ」」


 次にフェンリルたちのブレス攻撃。

 それによって、周囲にいた魔物は全滅した。


「さーて、これでダークトライホーン一匹ですにゃ」


「そういうの、フラグって言うのよ」


 リオンが踏み抜いたわけではないだろうが、ダークトライホーンが一啼きすると、その影から魔物が湧き出してきた。

 その数は、最初よりはるかに少ないとはいえ、邪魔をするには十分驚異的だ。


「ほら、ザコが湧いてきたじゃない!」


「そんなことはどちらでもいいですにゃ! ダークトライホーンは親衛隊を呼び出す能力を持ってますにゃ! これで決定ですにゃ!」


「でもやることは変わらないな。行くぞ、テラ、ゼファー!」


「「ワォン!!」」

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