80_表.灰色の山道を征く
「しっかし、この辺の敵にも大分なれてきたよな」
今日は灰色の山道に入って5日目。
戦闘パターンも大分慣れ、遅れを取ることはなくなってきた。
「慣れてきたときが危ないところですにゃ、フート殿」
「わかってるって。……ん、次の集団を引っかけたようだ」
「了解です! 次はなんですか!?」
「んー、空飛ぶ黒いカラス?」
「ヘルクローですにゃ。このあたりでは一番強いとされている魔物ですにゃぞ」
「まあ、電撃耐性はないだろ」
「サンダーレインで一発にゃ」
「なら、サンダーレインで数を減らして減ったところをアヤネとミキに」
「いつもどおりね」
「がんばります!」
「それじゃあ行くぞ、サンダーレイン!」
雷の雨がほとんどのカラスを撃ち貫き、
「はぁぁぁ!」
アヤネの威圧で生き残っていたカラスも勢いを失い地上付近まで降りてくる。そして、
「うりゃあー」
ミキが残ったカラスを蹴り砕いて戦闘終了だ。
うん、今日もソウルがおいしい。
さて、戦闘が終わったら大抵はリオン先生の戦評が入るんだけどどこに行ったんだろうか?
「だから、ここは共同のキャンプ場である! どこかのパーティたちで占有するなど許されないのであるぞ!」
あっちか……。
なにかトラブルの様子。
こちらから近づかない方が賢いかねぇ。
「何度も言っているだろう。我がサジウス領騎士団は大人数でここに来ているんだと。だから、場所を空けるのは筋じゃないか」
「そちらこそなにを言っている! ここはハンターと冒険者のキャンプ地だ! どこの領だかしらないが、騎士団が訪れていい場所ではない!」
「冒険者ねぇ。俺たち冒険者なんだけどー。ネコちゃん見える~?」
「……ふむ、Bランク冒険者章か。それで、それと騎士団を連れていることとなんの関係があるのであるかな?」
「僕たち全員Bランク冒険者なんだよねぇ~。これなら問題ないっしょ~?」
どうやら騎士も含めて全員がBランク冒険者章を出したようだ。
これでは文句は言えないな。
「……すべてサジウス支部か。覚えておくのである」
「ネコちゃんは捨て台詞も二流でチュねー」
「帰ったときにその冒険者章、使えているといいであるな」
話は終わったのかリオンが戻ってくる。
だがその前にこちらでもトラブルが起きた。
「おー、かわいい女の子がふたりもいるじゃねえか」
野暮ったい……と言うか、ほとんど手入れもされていなさそうなレザーアーマーに身を包んだ大男。
くさい酒の匂いがここまで漂ってくる。
「あんたなんの用?」
「一応用事を聞いてあげようと思い見逃していましたが……ろくな話じゃなさそうですね」
「あ? 決まってんだろう? 俺らの今晩の相手になってくれよ。ヒジリのヤツにはまだ実力がつく前に逃げられちまうしさ。いまなら女なんて好き放題だからな」
「ゲスですね」
「ゲスね」
「お、相手になってくれるの~? じゃあこちらから行っちゃうよー」
名も知らぬ熊男からの遅い攻撃をわざと盾で受け止めるアヤネ。
すると、当然アヤネの盾の特性で弾き飛ばされる。
「ほへ?」
そこを逃さずミキが一閃。
「はっ!」
熊男は斜面を転がり落ち、キャンプ地付近で止まる。
「何事ですかにゃ?」
「悪質なナンパよ」
「先に殴らせてから倒しましたから問題ありませんよ」
「それなら、よしですにゃ」
さて、そんなことをお構いなしに斜面を上がってくるバカどもがいる。
さっきリオンが交渉していた男と、もうひとりイケメン風の男だ。
「……なんで我が友が崖下に転がり落ちたのかな?」
「いきなり殴りかかってきたのを軽くいなしただけよ。単なる正当防衛の結果ね。それとも、冒険者規定は読んでいないのかしら?」
「はっ、なんで輝かしい未来を約束された僕たちがそんなものを読む必要があるんだい?」
「じゃあ、教えてあげる。ハンターと冒険者の小競り合いは先に手を出した方に刑罰が下るのよ」
「……ガインのヤツが手を出したとでも?」
「さっきからそう言っているじゃない。耳が聞こえない……訳はないから都合のいい言葉しか聞こえないのかしら?」
「このぉ……言わせておけば!」
「フィリップ!」
「なんだ、センザ! 私はこいつらを切り捨てたいのだ!」
「冒険者規定がある! 私たちが先に剣を抜けば、彼らが私たちを殺しても彼らは罪には問われない!」
「センザ、なにを言っている! 私より強い冒険者などいるものか!」
「止めるんだフィリップ!」
「ふん、腰抜けめが。行くぞ小僧ども!」
フィリップと呼ばれていた男が剣を抜いた瞬間、俺は弱めのサンダーボルトを当ててヤツを硬直させる。
その隙に、リオンが飛び出しフィリップの剣をバラバラに切り落とし、ついでに全身を包んでいた、やたら豪華で重そうな鎧も破壊しておく。
次はミキがその顔を中心に連撃を決め、最後はアヤネがシールドバッシュの応用でヤツの身体を高く弾き飛ばす。
着地点はやつらの本陣前だ。
「ふぁ、ふぁみがふぉこった!!」
「フィリップ様、まず治療を……」
おや、相手にも治療師がいたらしい。
見た感じハイヒールのようだったが、顔の怪我だけは治せたようだ。
「おい、一体なにが起こったのだ!」
「それを理解できないから、お前では勝てないと言うことだ」
「なにを言っているセンザ……」
「まずは低レベルのサンダーボルトでお前を痺れさせてその隙に剣と鎧を破壊、そして拳士による連続打でダメージを与えて最後はシールドバッシュの応用でここまで戻ってきたというわけだ」
「そんな……私の技が効かないだと?」
「効く効かない以前に技すら出させてもらえなかったけどな」
現実ってヤツはまさに残酷である。
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