80_後.サジウス領騎士団と別の赤の明星
さて、そんなわけで、相手の騎士団? と俺たちはにらみ合う。
そのとき、フィリップとか呼ばれていた男が、俺に突然声をかけてきた。
「……うん、お前は黒の部屋で会った、うだつの上がらない男ではないか? なぜこんなところにいる?」
黒の部屋で会った?
こいつ、赤の明星なのか?
「誰だ、お前は? ……俺と面識があるのは、あのときいた少年くらいか。なぜと聞かれても、そっちの2人と一緒にこの世界に落とされて、ハンターギルドのお世話になっているとしか言えないよ」
「ふっ、そうか。それならば、我々サジウス領に協力しないか? もうすぐ我々がこの国の支配者になる。ハンターギルドなどにいても負け組になるだけだぞ?」
サジウス領が国の支配者になる?
これもあとでリオン経由の情報待ちだな。
「ちなみに、俺を誘った理由は?」
「もちろん、魔術師として有能そうだからだ! あの黒い部屋では平凡に見えたが、今は違う! 私に通用するような魔術士なのだ、今なら破格の条件でサジウス領に雇い入れてやろう!!」
「バカなことを言うな、フィリップ!! 我々に人事権はない!」
「有能な男を引き抜くのだ。何か問題があるかな?」
「……まったく、お前は……この世界に来たばかりの頃は真面目だったのに」
「なにか言ったか?」
「いや、別に。そら、そっちの男との交渉を続けたらどうだ?」
「ああ、そうだったな。スマンスマン。……そうだな、そちらの女2人も強そうだし、3人あわせて金貨15枚で雇ってやろう!」
「……金貨15枚ねぇ。これは手付金か?」
「何をバカなことを言っている。それで全額だよ。我が軍のために、その金額で働くのだ! お前たちでは稼げない大金だろう!」
「……何をバカなこと言ってんのコイツ?」
「……何?」
「ふざけるにも大概にしたほうがいいですよ?」
「……なかなか生意気な女どもじゃないか。お前はどうなんだ? ハーフローブの魔術師よ」
俺か……なんて言えばいいかな?
「馬鹿げているにもほどがあるな。俺たちを引き抜きたいならミスリル貨で数千枚用意することだ。そうしたら話は聞いてやる」
「ミスリル貨だと……ふざけるな!! そのような大金用意できるわけがなかろう!!」
「じゃあ、ダメですねー。私たち3人ともミスリル貨百枚以上持ってますからー」
「と言うか、お金で誘おうって時点でお里が知れる……って傭兵はそんなものか。私らハンターだけど」
「聞いての通りだ。お前らの軍事予算をはるかに超える個人資金を持っているんだ、金で引き抜くことなどできやせんよ」
「そんな、バカなことが……」
仮称フィリップ君、大焦りだな。
まともにやっても勝ち目は薄い、金で引き抜くこともできない。
さて、どうするのかな?
一番いいのは撤退だと思うけど。
「……ふっふっふ……だが甘かったな。今までのことで優位に立てたつもりのようだが、私の体力も回復した。私を生かしておいたこと後悔するがいい!」
「まさか! お前! ことが露見すれば冒険者ギルドとハンターギルド、いや、冒険者ギルドサジウス支部対全ハンターギルドの抗争になるぞ!」
「知ったことかぁ!! ここで全員消し炭になるのだからなぁ!! 出でよ剣霊、私は汝らの王。いまこそ集いて聖剣をなせ! 我が前に立ちはだかる、すべての愚かなる悪を打ち砕かんがために!」
「ああ、くそ! どうなっても……うん?」
「食らえ!! 聖剣シャインセイバー!!」
「白光の翼」
派手な詠唱によって集められた剣霊とやらであったが、俺の白光の翼の前では敵ではなかったようだ。
白光の翼の光に包まれてシャインセイバーとやらが消えていった。
「バカな……バカな! バカな!! 私の究極奥義【聖剣召喚】だぞ! なぜ魔法なんぞと相打ちになる!」
「どきなフィリップ! 奥義『熊狩り』だ!!」
「ガイン、任せるぞ!」
「はいはい、シールドバッシュ」
「がはっ」
必殺技を出したかったらしい熊男が襲いかかってきたが、あえなくアヤネのシールドバッシュにはじき飛ばされておねんねだ。
なにをしに出てきたんだろうね?
「フィリップ様、あれを!!」
「あれだと? ……バカな!! あの魔法をまだ何発も撃てるのか!」
騎士団とフィリップ君が見上げた先、そこには十羽以上の白光の翼が浮かんでいた。
白光の翼一発で無力化できなかった場合に備えて大量に用意したんだけど……フィリップ君相手には無駄だったかな。
「悪いけどこれって戦争なのよね~」
まったく悪びれていない言葉を残しながら、上空で待機状態になっている白光の翼たちに対して手を振り下ろして命令を下す。
狙いは敵の備蓄が入っているであろう箱。
食料が入っているのか換えの装備が入っているのか知らないが、白光の翼の前では一様に灰燼に帰す。
備蓄を守っていた守衛も白光の翼を恐れ逃げ出し、白い光の渦が咲き誇った。
「いやー爽快だにゃー」
「めんどくさいんだけどね、あれ作るの」
先に手出しをしたことにされないために、『生物は傷つけない』ように白光の翼を改良して放ったんだから。
のんびりとした俺たちに対して冒険者を装った騎士団は慌てふためいていた。
そんな中、騎士たちが俺の事を指さし、口々に叫び始める。
「こいつ、ハンターギルドの『白光のフート』だ!」
「なんで現行ハンターギルド最強クラスがこんなところにいるんだよ!?」
「そんなことより、マズいぞ!? 今回のことが冒険者ギルド本部に知れ渡ったら……」
「撤収! 赤の明星様たちを連れてすぐに撤収だ!!」
さっすが騎士団、こうなったときの判断は速い。
念のため敵の後方に隠れてくれていた、テラとゼファーも出てきた。
残す問題は……。
「どうしようね。この火柱」
「とりあえず消火して証拠品探しにゃ。こんばんはこれで徹夜にゃ……」
だと思ったよ。
早く寝たい……。
そう思ったとき、背後の木陰から1人の男が出てきた。
確かあちらの赤の明星の1人で……センザとか呼ばれていたな。
「お初にお目にかかります、『青雷のリオン』殿、『白光のフート』殿、ミキ殿、アヤネ殿」
「……お前は見る目がありそうであるな。少なくとも吾輩たちを事前に調べているのである」
「ありがとうございます。私はセンザ。赤の明星の1人で、主に諜報を得意としております」
「そのような人間が吾輩たちになんの用であるか?」
「……今回の一件、手引きしたのは教会の枢機卿と王国騎士団の騎士団長にございます」
「……その言葉、嘘偽りがあれば、いや、漏らしたことが知れれば首が飛ぶぞ?」
「はい、覚悟しております。ですが、証拠の入手に失敗してしまい……」
「吾輩たちだけにでもという訳か」
「はい。それから、できれば邦奈良の都側へ亡命したいので、その手引きないし紹介状をいただきたく……」
「ちゃっかりしてるのである。……吾輩の文がどれほどの意味を持つかは知らぬが、これを持って行くがよい」
「はい、助かりました。それでは」
センザは再び木陰に身を隠すと、その気配を完全に消した
おそらく、そういうスキルなんだろう。
「……吾輩、出会えた赤の明星がフート殿たちで本当に幸せだったのにゃ」
「……センザ、大分苦労してそうだったものなぁ」
「ストッパーがいなくなって、あちらは大丈夫でしょうか?」
「ダメじゃない? そこまであたしらの知ることじゃないわ。……さ、焼け跡から証拠品捜しよ」
*******************
設定話をひとつだけしておきます。
あまりにもフィリップ君が弱すぎたので。
【聖剣召喚】:周囲にいる総ての精霊に呼びかけ精霊力の剣を作り出し、相手を切り裂く。条件次第では山ごと切り裂くことも可能。ただし、精霊は自堕落なもの、慢心しているものを嫌うため、魔法よりもはるかに威力の増減が激しい。精霊との親和性が最低状態になれば剣のかたちすらとることができなくなる。(余談。ソウルパーチャスでの取得は基本不可能)
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