67.テイマーギルドに行こう

 結局、アビーに押し込まれて車に乗ること十分ほど。

 テイマーギルド本部に着いたらしい。

 紋章は二匹の狼がクロスしたような紋章っと、よし覚えたぞ。

 またくるかは知らんけど。


 俺たちが外でのんびりとしている間にアビーはすっ飛んでいって、中でなにかを伝えていた。

 それを伝え聞いた受付嬢は驚いて裏に駆け出し……うん、よく見たパターンだ。


「いやはや、フート殿はいろいろなギルドのマスターと縁続きになりますなぁ」


「俺が望んでいるわけでもないんだがなぁ」


「そこは運命と諦めるしかないでしょうね」


「とりあえず入りましょうか皆さん。……そと、結構暑いですし」


 そう、俺たちが死道に召喚されたのは5月末のことだったらしい。

 あれから1カ月半ほど経過しているいまは、夏本番間近でかなり暑くなってきている。

 邦奈良の都はからっとした暑さらしいがそれでも結構暑くなるらしいのだ。

 その分、冬は雪が少ないらしいが。


 さて、そんなことを考えている場合でもないか。

 テイマーギルドに足を踏み入れれば、案内の女性が待っていた。


「ようこそおいでくださいました。早速ですがギルドマスターがお待ちかねです。3階まで来ていただけますか?」


「ええ、かまいませんよ。……ちなみに、おれのレッサーフェンリルも一緒で?」


「ええ、もちろんかまいません。それではどうぞ」


 受付の人に案内されたどり着いたのは、当然ながら一番豪華そうな部屋、ギルドマスタールーム。

 ノックをして入室の許可をもらうと、俺たちも入っていく。

 そして、一番奥の机にはエルフ族の女性が座っていた。


「ようこそ、そして、ようやく来てくれたわね。私の名前はマルガ = ビューラー、よろしく頼むわ」


「はい、俺の名前は……多分知っていそうですがフート。こっちのレッサーフェンリルがテラで、こっちがゼファーです」


「フートさんの妻のミキです」


「アヤネよ」


「リオンである」


「ほう、リオンと聞けば、青雷じゃないの。お前がお目付役なの?」


「最近はパーティの一員みたいなものであるがな。さて、用件を聞くのである」


「おお、そうだったそうだった。まずはフート殿、お礼を言うわ。発育が遅く偵察要員にしかならない、とまで言われていたレッサーフェンリルが、魔術師限定とは言え立派な戦力にカウントされるようになったのだからね」


「レッサーフェンリルって、そんなに扱いがひどかったのか?」


「そうね。普通に肉や野菜を与えて育て、成獣になっても体長は1メートルほど。ゴブリンなどの下級魔物を相手にするならともかく、大物狙いではどうにもならないわ」


「なるほどなぁ」


「それがフート殿のレポートに従い、好みの魔力ではなく魔法を与えて見た結果、成獣のはずのフェンリルでさえ成長し、体長2メートルを超えるようになってきた! それにファングボアと力比べをしても負けないほどに力強くもね!」


「それはすごいな」


 ファングボアは資料でしか知らないけど、体長3メートル級の魔獣のはずだ。

 それと力比べができるんだから、本来のレッサーフェンリルはかなり強いらしい。


「うむ、それほどまでにあのレポートはすごかったのだよ! なぜにいままで誰も試していなかったのかというくらいにな!」


 そうなんだよな。

 奇特な人間のひとりやふたりいてもいいはずなんだがな。


「見てくれ、私のレッサーフェンリルも3メートルを超す巨体まで成長……」


 さて、そのギルドマスターのレッサーフェンリルだが、さっきから机の影に隠れてこっちの様子をうかがいつつ、前には一歩も出ようとしない。

 これは……うん、俺たちのせいだな。


「……ふむ、おかしいわね。普段はもっと堂々としているのだけど……」


「あー、多分テラとゼファーにおびえているんだと思います。こっちは体長4メートル近いですし……」


「な……!? でも、確かに大きいわね。その差ってやっぱり餌の魔法なのかしら?」


「そうですね……最近だと、レベル5魔法を1日で平然と5~6回食べますし」


「な……レベル5魔法!? 私ですら得意属性の魔法をようやくレベル4まであげて、この子にあげられるようになったのに……」


 だろうな。

 俺はソウルパーチャスという裏技があるからサクサク高レベル魔法を覚えられたけど、普通は血がにじむような努力をしてようやくその域に到達するんだからね。

 レベル5魔法なんて普通使えないもんだし。


「うふふふ……。俄然燃えてきたわ! この子のためにレベル5魔法、覚えてあげようじゃない!」


「ウォフ!」


 レッサーフェンリルの方も勢いよく鳴いたな。

 気迫が伝わったんだろうか。


「あ、そういえば、今日来てくれた理由って私の依頼の話だけ? それとも、なにか新しい発見があったり?」


「ああ、そうですね。新しい発見というか、うちの子が変わっているだけかも知れませんが……」


「もったいぶるわね。早く教えなさいよ」


 ずいずい身体を寄せてくるギルドマスター。

 あ、これ、急いで離れないとミキの雷が落ちるヤツだ。


「えーとですね。いままでレッサーフェンリルって主属性1つにしか興味を示さない……というか積極的に食べなかったじゃないですか」


「そうね。いままで、いろいろなデータを取ってきたけど、1種類にしか反応した記録はないわね」


「それが、うちの子たちはふたつ目の属性を食べるようになったんですよ」


「へ?」


「まあ、見てもらった方が早いですよね。さすがに室内でレベル5魔法は危ないので、テラ、レベルが低くてすまないがロックウォールだ」


「ウォフ」


 仕方がないなぁ、といった感じで魔法をかみ砕くテラ。

 仕方がないじゃないか、土属性って室内でも安全なのってロックウォールくらいしかないんだもの。


「……テラちゃんはアースレッサーフェンリルよね。土属性は普通だと思うけど……」


「じゃあ次、テラ、サンダージャベリン行くぞ」


「ウォフウォフ!」


 俺が放ったサンダージャベリンを嬉しそうにかみ砕き、魔力を吸収するテラ。


「なっ、アースレッサーフェンリルが雷魔法を食べた!?」


「ゼファーは、よくわからないんですけど回復魔法なんですよね。風魔法を食べるところも見せますか?」


「いいえ、いいわ。見ただけでエアレッサーフェンリルって毛並みでわかるし」


「それではゼファー、グレーターヒール」


「ウォウン」


 ゼファーが回復魔法を食べ、これで実演は終了だ。

 また、毛並みが少し変化した気がしないでもないが、とりあえずおいておこう。


「……本当に複数種類の魔法を食べるのね」


「ええ、そうですね。一定以上育ったらそうなるのかとか調べる必要はありますけど」


「幼児期にはひとつしか反応しないことは証明されているわ。あとはどこでふたつ目を意識するようになるのか……」


「そこら辺の研究は……」


「もちろん私たちがやるわよ! こんな面白そうな研究課題を他にやらせるなんてテイマーギルドの名折れだからね!」


「じゃあ、お願いします」


「ええ、任されたわ。詳しいレポートが集まったらあなたにも差し上げるわね。ああ、そうなってくると、魔術師の多属性化も必須よね。確か、そのあたりの研究をしている魔術師グループがいたはずだから、そこにも資金提供をしていろいろな成果を教えてもらって……とにかく、とても貴重な体験だったわ。ありがとう」


 というわけで、ギルドマスターとの会談も無事に終了した。

 後は帰るだけなのだが、アビーもハンターギルドまで一緒に帰ると言い放ってきたので、一緒に戻ることに。


 アビーとはハンターギルド前で分かれ、さあ家に帰ろう、としたところでその事件は起こった。


「死になさい! この外道魔術師!!」

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