66.レッサーフェンリルの変化

 さて、これで決まったオークションの支払いも受け取った。

 受け取った、といってもミスリル貨のみ3分割して受け取って、金貨はハンターギルドに預けることにしたよ。

 ブルクハルトの嬉しそうな顔ったらなかったね。

 なんでも、ハンターギルドで預かっている金でいろいろ事業を回しているらしく、俺たちの預金はありがたかったようだ。

 オークションの手数料はミスリル貨1枚、つまり金貨100枚しか受け取らなかったくせに。


 それから、あの青猫リオン。

 やはり指輪とネックレスの支払いを受け取り拒否しやがった。

 いわく『結婚祝いにゃ~。久しぶりのお祝いにゃ~』と言って受け取る気はないらしい。

 こっそりニネットさんに会いに行ってリオンの装備の相談をしてみたりもしたんだけど、リオンの装備は普通に出回るようなアクセサリーの品質を超えているとのことだ。

 おそらくはアーティファクトと呼ばれる、ダンジョンから産出されるもので固めているそうだ。

 おのれ青猫。


 というわけで、俺は暇を持て余していた。

 妻のミキからは「庭の中なら出歩いてもよし!」と言われているので出歩いているのだが、……まあ暇である。

 やれることでもあればなぁ、またなにか変わるんだろうけど。


「オンオン!」

「ワンワン!」


「ん? もうご飯か?」


 暇なのでレッサーフェンリルたちと散歩していたのだが、最近食事間隔が短くなってきた。

 正確にはレベル5の魔法では満足できなくなってきたのだろう。

 そうなるとレベル6なのだが……俺もまだレベル6は覚えてないんだよなぁ……。


「とりあえず、テラからな。アースクエイク」


 普通なら地震が起こるのだが、その前に食べてしまうので何事も起こらずに終わってしまう。

 ……そして、ここでふとした疑問が湧いてしまった。


「お前たちって、ひとつの属性の魔法しか食べられないのか?」


「ワオン?」


 やはり本人にもわからないらしい。

 さて、どうしたものか。


「……うん、各種属性魔法の基礎魔法を使ってみるから気が向いたものを食べてみてくれ」


「オンオン!」


 そういうわけで、各種ショットやバレットを並べてみる。

 すると、テラがかみついたのは。


「ワフン!」


「……雷属性かよ」


 よりにもよって普段使いの雷属性に興味を示しショットを食べた。


「他にも食べてみるか?」


「ワンワン!」


 試しにレベル4のサンダージャベリンを発動してみたがペロリと食べてしまった。

 そこで気がついたのだが、テラの茶色の毛並みに紫色の筋が混ざっているような……。


「ワオン!」


「ああ、済まない。次はゼファーの食事だよな」


 ゼファーにもレベル5魔法を与えてから、同じように各種魔法をみせてみる。

 だが、どれにも興味を示した様子はなかった。

 これはダメかなーと思い、せっかくなので回復魔法も唱えてみた。

 すると。


「オン!!」


「うわぁ!」


 俺を押しのけてライトヒールの光を食べたゼファーがいた。

 これはひょっとすると、ゼファーは回復魔法か?


 試しにグレーターヒールを出してみると喜んで食べた。

 どうやらテラが土をメインにサブが雷、ゼファーが風をメインにサブが回復ということのようだ。

 しばらくは、これで様子を見てみるか。

 問題はサブ属性の魔法の方が俺のスキルレベルが高いことなんだけど……。


 あと毛並みにも確実に変化が出ているんだよなぁ。

 出会ってから約2カ月ほどで、レッサーフェンリルたちも4メートルほどの大きさになった。

 いままでは単純に茶色と緑色の毛並みだったのだが、それそれの毛並みにテラは紫色の毛並み、ゼファーは白色の毛並みが混じっている。

 さて、これはどうしよう。


「ただいまー」


「お帰りなさい。……テラとゼファー、なにかありました?」


「ああ、うん……試しに主属性以外の魔法を食べるか試してみたら、別の属性を食べて、毛並みにも影響が出た」


「……これってテイマーギルドに報告した方がいいことじゃないですか?」


「だよなぁ……」


「とりあえず、お昼にしましょうか。リオンさんやアヤネさんも帰ってきますし、4人でハンターギルドにあるテイマーギルド支部に行ってみましょう」


 程なくふたりも帰ってきて4人でハンターギルド内のテイマーギルド支部を訪れた。

 そこは、天陀のギルドに比べて整理されているが、やはり小ぶりな印象を受けた。


「いらっしゃいませ。今日は新しい従魔の登録……ではないですね。従魔の育成で何かご質問がありましたか?」


「ああ、うちのレッサーフェンリルなんだが、主属性の魔法……」


「ストーップ!! 受付、そこ変わるから、こっちをお願い!!」


「え、でも、先輩、受付業務なんてしないじゃないですか」


「それとこれとは話が別よ! ほら、交代、交代!」


「かまいませんけど……あまり失礼な態度は取らないでくださいね」


「初めまして、アビーといいます。黒ペンさんですよね! あのレッサーフェンリルの画期的な育成方法を編み出した!!」


「……画期的かどうかは知らないが、多分あってるな」


「ようやく会いに来てくれた~。ようやく、テイマーギルドのギルドマスターからの指示をこなせる!」


「ギルドマスターからの指示?」


「はい!! 済みませんが、私と一緒に、テイマーギルド本部まで来てください!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る