62.再び宝飾品店『テラ・ディ・ビリランティッァ』へ

「なかなか話が長かったですにゃ。なんの話だったんですにゃ?」


「発情期の話と避妊具のことだよ」


「ああ、それは大事ですにゃ。まして、若いハンター同士が結婚するとなれば、どうしても抑えが効かなくなることもありますにゃ」


「リオンさん……」


「にゃはは。さて、ともかく、今日の予定を済ませるとしようかにゃ、次は宝飾品店『テラ・ディ・ビリランティッァ』ですにゃ」


「そうですね。絶対にフートさんを認めてもらわないと!」


「気合い入ってるなぁ」


「そうねぇ」


 非常に気合いの入ったミキに連れられ歩くことしばらく。

 どうやら目的地に到着したようだが……。


「なあ、店を間違ってないか?」


「宝飾品店『テラ・ディ・ビリランティッァ』。ここで間違いありません」


「前に来たときもミキ殿たちは同じような反応をしておりましたにゃ。さあ、入りますにゃー」


「失礼します」


「突っ立ってても仕方がないわよ」


「そうだな。失礼します」


「いらっしゃいませ。ようこそ当店へ。ご用件はなんでしょう」


「店長さんのニネット = トリットさんにお目にかかりたいです。前回約束した人を連れてきましたといえばきっと伝わりますので」


「はぁ……ですが……」


「青雷のリオンの名前も使っていいのである。さっさと行ってくるのであるよ」


「はい、わかりました。ひとまず、こちらでお待ちください」


 ソファーを勧めてから立ち去っていく店員。

 というか、あれで本当に伝わったのか?


「大丈夫なのか、あれ?」


「大丈夫ですにゃ。よほど大事な仕事をしていなければ飛んでくる……飛んできましたにゃ」


 店舗の二階部分からダンディーな老人が降りてきていた。

 彼がこの店の店主なのかな?


「ようこそ宝飾品店『テラ・ディ・ビリランティッァ』へ。店主のニネット = トリットともうします」


「こちらこそよろしくお願いします。フートと言います」


「ほう、ではあなたが……」


「?」


「失礼。あなたにいくつか質問をしてよろしいでしょうかな?」


「ええ、かまいませんよ」


「あなたはこの国を襲おうとしている巨大なモンスター、アグニでしたかな。それと戦おうとしている。そうですな」


「……リオン、ミキ?」


「そこまでは話していないのである!」


「私だってアグニの名前までは出していません!」


「ほっほっほ。この老人にも独自の情報網があるということです。それで、返答はいかに?」


「……はいそうですね。アグニを倒すために俺はここにいます」


「結構。次の質問です。といっても、これはもはや確認でしかないのですが、逃げる気は?」


「ありませんよ。よほど事情が変わり、アグニの他にもモンスターがわんさか攻めてくるとかにならなければ逃げません」


「結構です。さすがにそんなときは逃げてもらわねば困ります。それでは次に、なぜアグニはあなたに固執するとお思いで?」


「それこそ本人にしかわかりませんが……ひょっとしたら、アグニは自分を倒してくれる存在を探しているのかも知れませんね」


「どうしてそうお思いに?」


「アグニに初めて会ったとき、その前日に倒したモンスターのことを聞かれました。最低でも、いま現在の時点であの程度のモンスターは倒せることが最低線だったのかもですね」


「ふむ……。では、最後の質問です。あなたは、アグニを倒すためにすべてをかける自信がおありですか?」


「……愚問ですね。当然、自分の心と体すべてをかける所存です」


「そこに、奥様は含まれないと?」


「含みたくないんですけどね……そう言っても勝手に付いてくるでしょうから、ミキのことも俺が守り抜いてアグニを倒し生き抜きます」


 ……さて、いいたいことは全部言ったぞ。

 これでダメなら諦めるしかない。

 さあ、返答やいかに?


「……やれやれ、まったく、ミキ殿といいあなたといい、覚悟が決まりすぎていますよ」


「それじゃあ!」


「ええ、もちろん。作って差し上げますよ。最高の指輪をね」


「やりましたね! フートさん!!」


「ああ!!」


「……なにを言っているであるか、ニネット。お主、最初の質問したときには作ることは決めていたであろう」


「……はあ、この青猫様にはお見通しですか」


「ええっと……」


「最初は疲れに曇った目をしていたのでダメかと思っていましたが、私が質問を振りかけた瞬間、瞳の奥から鋭い光が差し込んできました。その瞬間、私は絶対に指輪を作ろうと決心していましたよ。もちろん、全身全霊を込めた最高級品を作ろうと決めたのは、最後の質問のときですが」


「最後の質問ですか」


「男なら、すべてを背負ってでも戦い生き残る。そんな姿に憧れるじゃないですか。それを私も見てみたい」


「わかりました。よろしくお願いします!」


「ええ、頼まれました。……さて、では二階の工房の方でふたりの指のサイズなどを測りましょうか」


 ここから先は、指輪のサイズや、デザイン決めなどがメインになった。


 俺たちの場合、結婚指輪にして魔道具と言うことなので、まずは所在検知の魔法は外せないらしい。

 と言っても、小さな飾り石がつくだけなのだが。


 ミキの指輪は土台がヒヒイロカネ製。

 きざむ魔紋とやらで魔法抵抗力をさらに上げるという、防御仕様らしい。

 メインの宝石だが……ミキは筋力が上がる力玉石がひとつに体力が上がる体玉石がふたつという構成になった。

 なんでも、力玉石は最高品質のものを使うらしく、それひとつで引き出せる最大の効果を満たせるとのこと。

 そのため、タフさをあげるために体玉石をふたつサブでつけることにしたらしい。


 さて、俺の指輪だが、これはすでにすべて構成が決まっていたらしいのだ。

 土台はチェーンに使われていたものと同じミカヅチノタマ製。

 これに魔力制御の魔紋を裏表二重に施し強度をアップ。

 はめ込む石は雷精玉と呼ばれる宝石。

 不思議な紫色をしていて、雷属性の魔法を強化したり効果の安定をさせたりしてくれるものらしい。

 それを贅沢にも5個並べた作りとなっていて、特大サイズの精雷石が1つそれを挟むようにして残り4つが配置されている。

 正直、値段が聞きたくない代物だ。


「さて、ニネット。ここまでデザインができていると言うことは他にもギミックができているのであろうな」


「ええ、ご内密にしていただけるのであれば」


「誓約紙は?」


「お客様の信頼を裏切るようなまねはいたしません」


「では聞くのである」


「それぞれの魔玉に当店……と言いますか私独自の紋章術を使い効果の増大や強度の上昇を行わせていただきます。特にフート様に贈る分については確実に」


「……吾輩もそうしてもらいたいのであるなあ」


「……人を化け物みたいに」


「普通の増幅魔道具じゃ、あのときのマキナ・アンガー一発で吹き飛んでいたのであるよ、制御力オーバーで」


「そういうわけですので、お渡しにかなり時間がかかるかと……」


「どれくらいになるのであるかな?」


「おおよそ2カ月ほどかと。ミキ様の分は1カ月で仕上げます」


「それなら、フートさんの指輪と一緒に渡してください」


「承知いたしました。ご連絡はどうすれば?」


「普段はハンターギルドに寄ることが多いのである。そちらに伝言を頼むのであるよ」


「かしこまりました。それでは納品までいましばらくお待ちくださいませ」


 緊張したが、これで指輪の発注も完了だ。

 後は帰るだけ……なのだが。

 待ちぼうけしていたアヤネがチェーンネックレスをみているな。


「アヤネ、お前もこういうのほしいのか?」


「え、いいえ、そういうわけじゃないんだけど、こっちに来てからおしゃれとかしてないなと思って」


「じゃあ、アヤネさんもネックレス買いましょうよ。いいですよね、フートさん」


「断る理由もないしいいんじゃないか?」


「え、でも、そのチェーンネックレスってふたりの成婚、つまり婚約の証でしょう?」


「そんなのどうだっていいじゃないですか。アヤネさんとは仲間の証って言うことで、ね?」


「それがいいな。どういうのがいいんだ、リオン」


「そうですにゃあ、アヤネ殿は最前衛で敵の攻撃を受けるタイプ。やはり体力増加が好ましいですな。次点で物理耐性や魔法耐性にゃ。地味ですが、自然治癒上昇なども効率がよいですぞ」


「それって絶対高くなるヤツ!」


「なーに、その程度のお金たいしたことはないのですぞ」


 結局、アヤネは魔法防御の上がるヒヒイロカネ製のネックレスに体力上昇効果がついているものと、ペンダントトップとして物理耐性・魔法耐性・自然治癒の3つの効果がついているものを買った。

 かなり高かったみたいだが、リオンは気にした様子はまるでない。


 そのあと、時計のことを思い出し、置き時計ととにかく壊れにくい懐中時計を買って買い物は終了した。

 ただ、買い物途中で出てきたニネットさんとリオンがなにやら話し込んでいたのが怪しかったが、聞いてみても「今度のお楽しみにゃ」としか答えてくれなかった。

 今日出かけただけでもかなり体力を使ったし帰りはリオンの車の中、次の外出はオークションの日かねぇ。

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