58.ミキの告白

「さて、私たちが付き合えるのはここまでね」


「がんばってくださいね、ミキさん」


「はい、ありがとうございます」


 宝飾店『テラ・ディ・ビリランティッァ』を出た後も、ゲーテさんとライラさんは一緒に来てくれた。

 それで、いろいろと話を聞かせてくれて気を紛らわせてくれたんだ。

 ふたりには本当に感謝しかないよ。


「それで、勝率はどれくらいなの、ネコ」


「勝率もなにも。ミキ殿が押し切って終わりだにゃ」


「それは尻に敷かれそうね」


「そうでもないにゃ。あのふたりであれば大丈夫だと思うのにゃー」


「そう。それじゃ、続きはまたギルドでね」


「そのときは一杯おごるにゃよ」


「期待しているわ」


 ゲーテさんとライラさんは帰って行ってしまった。

 ここからが本当の戦いだ。

 気合いを入れないと!


「ミキ殿、顔がコワイにゃ?」


「え、そうですか?」


「気持ちはわかりますが、少しリラックスするのにゃ」


「はい、わかりました。リラックス、リラックス……」


「それで、本当にリラックスできるのかにゃ……?」


 少しだけ気持ちを落ち着けた私。

 これで万全だよね。


「……本当にリラックスできたようですにゃ」


「当然です。さあ、本陣に乗り込みますよ!」


「本陣もなにも、吾輩たちの家にゃ……」


 家の門を開け扉をくぐる。

 するとそこには……。


「あー!! 寝てないとダメって言ってあったじゃないですか、フートさん!!」


「いや、これはだな……」


「アヤネさんもどうして出歩かせてるんですか!?」


「えっとね、これはテラとゼファーにご飯をあげるためなの」


「テラとゼファーに?」


「ああ。俺が寝てた間は普通の食事をしていただろう? 二匹がそろそろ魔法を食べたいとせがんできてだな……」


「それで、レベル5魔法を食べたいって言うから庭に出て食べさせてきた帰りなのよ」


「むむ……確かにテラとゼファーには我慢してもらってましたからね。仕方がないですか」


「そういうわけだ。もう食事も終わって二匹とも満足したから、俺も部屋に戻って休むことにするよ」


「むむ……」


「ミキ殿、そういうことならここですませた方がいいのでは?」


「……そうですね。その方がいいですよね。そうしましょう」


「……ん? ミキ、なにか用か?」


「はい、フートさんにとっても大事なお話です。できればそのまま……はきついですよね。リビングのソファーに座りながら話を聞いてください」


「……わかったよ。話を聞こうじゃないか」


 さあ、一世一代の大勝負だよ!

 ここで失敗したらすべてが終わりなんだ!

 気合いを入れないと!


「話ってなんだ? なんか顔が怖いけど……」


「はっ!? 済みません、力が入りすぎてました……」


「いや、まあ、いいんだけどさ。そんなに力を入れて話さなきゃいけないことってなんだ?」


「さっきの話、覚えてますか?」


「さっきの話か……いろいろ話したけど、これから先はミキの好きにしていいって話だよな?」


「はい、そうです。この先、アグニを倒そうと考えた場合、生半可な覚悟で挑んじゃダメなんだと思います」


「そうだな。それこそ、死に物狂いで強くなっていかないとダメだろうな」


「はい、その通りです。なので、私は決めました。私の好きにするって」


「……そっか。それがいいだろうな」


「はい、それが一番なんです。というわけで、これを受け取ってください」


 私はアイテムボックスから青いリボンが巻かれた箱を取り出してフートさんに渡す。

 そして、それをフートさんは不思議そうに眺めていた。


「ん? ミキの好きに生きることと、俺にこれを渡すこと。どうつながりがあるんだ?」


「いいから開けてください。話はそれからです」


「ああ、わかったよ。……青い宝石? 石? 鉱石? でできたチェーンネックレス?」


「はい。先ほど、リオンさんたちと一緒に街に出て買ってきました」


「なんでまた?」


「こういうときにどう言えばいいのか私はよく知りません。前世でも経験がなかったかもしれません。だから、単刀直入に言います。フートさん、私と結婚してください」


 言った。

 ついに言った!

 さあ、返答はどうなる!!


「……えーと、ミキ? 状況がわかっているのか?」


「はい、よく理解しています。フートさんはこのまま邦奈良の都に残ってアグニと決着をつける。そのためなら死んでもかまわないと思っている。そして、アグニを倒すために必死で修行をしようとしている。あってますよね?」


「ああ、その通りだ。死ぬつもりはないけどな。アグニとの戦いでかなり無茶をしたから身体の不調は1カ月以上続くらしいが、それが快復し次第、リオンに頼んでハンターとしての修行をつけてもらおうと思っている。……はっきり言って結婚生活を楽しむ余裕なんて最初の1カ月あるかないかだぞ?」


「そんなものどうでもいいんですよ。大切なのは、私がフートさんの横に立つ資格を得る権利をもらえることなんですから」


「横に立つ資格、じゃないんだな」


「いまの私じゃ、アグニと戦っても黒熊の二の舞ですから」


「……覚悟はあるんだな」


「とっくに覚悟はできてます」


 そう答えた瞬間、フートさんが少し微笑んだ気がした。


「わかった。結婚しようか、ミキ」


「っ~~~~~!! ありがとうございます!!」


「こちらこそありがとうな、こんなめんどくさい男を選んでくれて」


「こちらこそ面倒な女ですがよろしくお願いします」


 そして、そこで私はあることを思いついた。

 せっかく婚約が成立したんだ。

 ちょっとぐらい甘い空気を楽しんだっていいじゃない。


 私は自分の分のチェーンネックレスをアイテムボックスから取り出して開封し、フートさんの手に握らせる。


「ミキ?」


「早速ですけど甘えさせてください。私のチェーンネックレス、フートさんがつけてください。あ、背後に回ってとかダメですよ」


「……いきなり難易度の高いことを」


「ほらほら、早く!」


**********************


「あー、あのふたり、私らがいるの、すっかり忘れてない?」


「忘れているのはミキ殿だけですにゃ。フート殿の視線はときどきこちらを見てますにゃ」


「あら、そうなの?」


「はいですにゃ。でも、今日ばかりは甘い空気にひたらせてあげたいですにゃ」


「なんなら外泊でもする?」


「多分、そこまでの勇気はミキ殿もありませんにゃ。というか、フート殿はまだ病人ですにゃ」


「それもそうね。……とりあえず、別の部屋で遊びましょうか」


「そうですにゃ。一時間ばかりふたりきりにしてあげましょうにゃ」


「あら、一時間だけなの?」


「それくらいで晩ご飯の時間ですにゃ。パールが呼びに来てしまいますにゃ」


「なるほど。それなら仕方がないか」

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