57.『テラ・ディ・ビリランティッァ』店長 ニネット = トリット
「て、店長」
「ご苦労様。このお客様の相手は私がするよ。君では荷が重かろう」
「は、はい。申し訳ありません」
「いいさ。マジックアイテムの店で結婚指輪とその装飾品をそろえようとするバカは、このリオンやその知人くらいだからね」
最初に相手をしてくれていた店員さんが去って行き、代わりに店長と呼ばれていた人が相手をしてくれることになった。
店長さんは見た目それなりのお歳を召した方で、でもそうでなければ出せないような落ち着いた雰囲気に包まれた人だ。
「さて、私の名前はニネット = トリット。この宝飾店『テラ・ディ・ビリランティッァ』の主を務めております」
うぅ、この人の眼力がすごい。
きっと私のことを見定めているんだ。
でも、ここで引くわけにはいかない。
「私はミキです。私とある人との結婚のための結婚指輪とそれを首にかけるためのネックレスがほしくてきました」
「指輪に……ネックレスですか? それならば始めからペンダントトップでいいのでは?」
「いえ、指輪がいいんです。でも、私は格闘戦がメインなので指輪がはめられないので……」
「ふむ、指輪、指輪……なるほど、赤の明星の方でしたか」
「ふぇっ!?」
「なにもそんなに驚かなくとも大丈夫ですよ。結婚指輪に固執する人のほとんどは、赤の明星かその影響を強く受けた方々ですので」
「趣味が悪いのであるぞ、マスター」
「これは失敬。見た目が若いのにCランクハンター、そのうえ結婚指輪をこの店で所望するなど、普通ではありませんからなぁ」
「やっぱり変ですか」
「ええ、とても。結婚指輪の相談など10年に数回しか受けません」
「リオンさぁん」
「はいはい。ここからは吾輩がメインで話を進めるのである。この店を選んだのは他でもない、超がつくレベルの魔術師が魔力増幅に使用しても耐えられるアクセサリーを用意できるためである」
「超がつくレベルの魔術師? そんな人間の噂、私の耳にも入ってきておりませぬぞ?」
「赤の明星である故な。徹底した箝口令が敷かれているのである。……まあ、もうじきそれも自然と意味をなさなくなるであろうが」
「ふむ、なにかあったのですな」
「このことは他言無用であるぞ」
「ええ、このニネットの名にかけて」
「普段十秒程度でレベル7魔法を使う魔術師が、数分魔力をチャージして放った全力のレベル7魔法を耐え抜いた、そんなモンスターが現れたのである」
「……レベル7魔法の存在自体がにわかには信じられませんが、リオンさんの言うことです、信じましょう。そして、そのモンスターが耐え抜いたというのは、せめて半死半生程度には?」
「ほぼ無傷、というのが正直なところであろうなぁ。そのモンスターいわく、同じ魔法を3000回受けないと倒せないそうであるから」
「……正真正銘の化け物ですな」
「そうである。そして、今回の結婚指輪の依頼、その魔術師に贈る指輪を作ってほしいのである」
「……それは、簡単に返事はできませんな」
「理由を聞いても?」
「私はアクセサリー職人です。依頼とあらば最高の品を作り上げましょう。ですが、今回の依頼はちと荷が重いです。そして、その魔術師が本当にモンスターを倒せるほどの気力があるのかを私は知らない」
「……なるほど、間違いはないであるな」
「まずご結婚指輪については保留とさせていただきましょう。ですが、ご成婚の証となるチェーンネックレスのご用命は承りましょう。本日はそれで手を打っていただけますかな?」
「ふむ……どう思いますかな、ゲーテ嬢、ライラ嬢」
「……すいません。情報が多すぎて頭がパンクしそうです」
「とりあえずいいんじゃないかしら。それで、あとは首を引っ張って連れてくればいいのよ、明日にでも」
「だそうですが、ご満足ですかな、ミキ殿」
「はい。わかりました。必ず本人を連れてきて納得させてみせます!」
「ほう、それは楽しみですな。さて、それではチェーンネックレスですがどういったものがよろしいですかな?」
「それについては吾輩が。ミキ殿の御相手はハイエルフにゃ。最低でもミスリル、できればミカヅチノタマ製が最高にゃ」
「なるほどなるほど。先ほど聞いたレベル7魔法とは雷でしたか。それならばミカヅチノタマがもっともすぐれておりますな」
「して、在庫はあるのであるかな?」
「ええ、最後の一点がありますよ。正確には先日入荷したばかりのミカヅチノタマで作ったばかりの代物です。お客様は本当に運がいい」
「やりましたぞ、ミキ殿!」
「はい! ありがとうございます」
「しかし、値段もお高いですぞ。チェーンだけで金貨45枚です。大丈夫ですかな?」
「支払いはすべて吾輩が立て替えておくのである。出世払いで返してもらうのであるよ」
「それはそれは。それではミキ様のチェーンネックレスをお選びしましょうか。まず、どのような効果がご要望ですかな?」
「ええと、私は格闘メインなので素早さが上がるような品があれば……」
「おや、筋力ではないのですか?」
「筋力は指輪の方で上げようかと。それよりも素早さを上げて、相手の攻撃を躱せるようにしたいんです」
「わかりました。……リオン様、効果のほどですが」
「一番いいのを頼む、にゃ」
「それではヒヒイロカネ製ですね。魔法耐性も上がって一石二鳥ですぞ」
「……あのー、ちなみにお値段は……」
「金貨30枚です」
「まあ、気にすることはないのである。というか、ミキ殿たちには返す目処もあるのであるしな」
「目処、ですか?」
「それではミキ様の指輪ですが……これも後日がよさそうですね」
「はい、そうしてください」
「それでは本日ご購入いただいた品を包ませていただきましょうか。メッセージカードはご入り用ですか?」
「いえ、いりません。すべて自分で伝えます」
「……かしこまりました」
その後はリオンさんが支払いを済ませてくれて、買った二本のネックレスをアイテムボックスへと大事に保管した。
さあ、ミキ、ここからが人生最大の勝負所よ!
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