56.宝飾店『テラ・ディ・ビリランティッァ』

お店の名前、かっこいいでしょう?

店名の語源は『栄光の地』です

肝心の何語かはメモをとっていませんでしたが……

**********


「ミキ殿。話はついたのですかにゃ?」


「はい。私の自由にしていいと言質は取りました」


「……それは言質とは言いませんにゃ」


「いいんです。これもまた自由なんですから」


「……それでは、吾輩だけではその手の知識が足りませんのでゲストを呼んであるにゃ」


「ゲストですか」


「門を出ればわかるにゃ」


 リオンさんに促されて家の門を出てみるとそこには……。


「リオンさんに呼ばれて来ましたが、どんなご用件なのでしょう?」


「あら、ゲーテは聞いてなかったのかしら?」


 ギルドの受付嬢、ゲーテさんと『天光の翼』のライラさんがいた。


「吾輩、男女の仲などとんと疎いであるからにゃぁ。というかそんな知識は持ち合わせていないにゃ。ここは2人が頼りにゃよ」


「えっと、リオンさん、ですから用件を……」


「これから結婚用のアクセサリーを買いに行くの!」


「え! 結婚ですか!? 誰と誰の!?」


「ここにいるミキ殿とフート殿だにゃ。結婚の許可はもらっているのであると言うことなのにゃ」


「はい。私の自由に歩んでいいと言質はもらいました」


「……あの、ミキさん。それって普通、結婚の申し込みじゃないですよね?」


「フートさんの身勝手に付き合う必要もないから私の自由にしていいそうです。だから私はフートさんと一緒にいたいんです」


「あちゃー。ミキちゃんって結構怖い子だったのね」


「……そこはノーコメントにしたほうがいいのにゃ。それでは早速アクセサリー探しに行くにゃよ」


「アクセサリー探しはいいけど、予算は? それを聞いておかないと」


「うーむ、特に決めてないのにゃ。フート殿もミキ殿も信じられない程度に稼いでいるし、吾輩からもお祝い金として出したいにゃぁ。とりあえず金に糸目はつけず、頑丈で壊れないことを優先したお店に行くとするにゃ」


「オッケー。ミキちゃんもそれでいいわね?」


「はい、かまいません。リオンさんも借金は必ず返しますので」


「お祝い金ということでかまわないにゃ。吾輩、宿泊費すら使わなくなったおかげでお金が貯まる一方なのにゃ。それにおいしいご飯も作ってもらっているしにゃぁ」


「とりあえずお店に向かいましょうか。こう言うときにハンター御用達のお店があるのよ」


「『テラ・ディ・ビリランティッァ』ですね。あそこは品質がいいんですがお高いんですよねぇ……」


「ああ、あそこかにゃ。まあ、とりあえず向かうのにゃ。……問題はフート殿がハイエルフという事であるがにゃぁ」


「やっぱり普通のエルフじゃなかったのね」


「然り。故に普通の金属ではアクセサリーでもダメなのにゃ」


「あのお店ならミスリルの取り扱いもあるから安心して。ミスリルなら大丈夫よね」


「ハイエルフが大丈夫な金属は魔力を透過・増幅してくれる、ミスリル・オリハルコン・ヒノカグツチなどの魔法金属であることが条件ですにゃ。雷魔法を多用するフート殿であれば。ミカヅチノタマが最高なのだけどにゃ……」


「おい、ネコ。あんた、結婚祝いになんぼ送ろうとしているのよ」


「素材にもよるがオリハルコン程度なら、ひとり金貨20枚から30枚ほどで十分足りるにゃよ。ああ、それに雷増幅用の宝石、フート殿の出力を考えれば雷精玉があれば最高なのにゃが……そうなると桁がもうひとつ上がるにゃぁ」


「このネコ、金貨300枚以上、本当に使う気ね」


「吾輩、本気ですにゃよ? フート殿はこの邦奈良の都を守ることもまた誓ってくれた。その誓いに報いるためにも、吾輩出し惜しみはなしにゃ」


「持ち逃げされたら?」


「吾輩の見る目がそこまでだった、というだけの話にゃ」


「フートさんは絶対にそんなことしませんよ!」


「おお怖い。立派な女房殿がもらえてフート殿は幸せですにゃぁ」


「ほぼ押しかけ女房だけどね」


 そんなことを話しながら和やかに歩くこと数十分、私たちは目的のお店に到着したらしい。

 到着したらしいのだけど……。


「あの、本当にここですか?」


「数十万から数百万レイ単位、場合によっては数千万以上の取引も普通に行うような店である。そんな陳腐な店なわけがないであろう」


「えっと……私、ものすごく部屋着で来ちゃいましたけど」


「気にしないでも大丈夫よ。もっと薄汚れた装備品で訪れるハンターや冒険者もいるから止められはしないわ」


「は、はい……」


「これからミキさんの結婚指輪とかを作るんですよ? そんなに緊張してて大丈夫ですか?」


「それはそうなんですが……」


「ほら、さっさと行くのであるよ」


「わかりました……」


 この街では珍しい、ガラス製の自動ドアをくぐった先は色とりどりの宝石やアクセサリーをディスプレイしたお店だった。

 でも、不思議といやになるような派手さやケバケバしさはなく、全体が調和のとれたデザインをしている。

 そんなことを考えているとひとりの店員さんが話しかけてきた。


「ようこそ当店へ。本日のご用件はなんでございましょう」


「あ、えっと……済みません、こんな格好で来てしまって」


「大丈夫ですよ、お客様。当店は見た目で客を判断することはありません。それに、その左腕にはCランクのハンター証があるではありませんか。そんな相手を無碍に扱ったとなれば、私はクビになってしまいますよ」


 あ、そうだった。

 私って、一応Cランクハンターなんだった。

 もっと自覚を持たなくちゃ。


「それでどういったご用件でしょうか? 魔力を高めるアクセサリーがご所望ですか?」


 店員さんの問いかけに対して、皆なにも言ってくれない。

 最初の一言は私が言わなくちゃいけないんだ。

 この程度の事でひるんじゃいけないんだよね!


「あの、私、結婚指輪とそれを吊すためのアクセサリーがほしいんでしゅ!!」


 あ、最後、噛んじゃった。

 でも、これで意味は伝わったよね。


「ご結婚指輪……でございますか? 失礼ですが、当店は主にハンター様や冒険者様向けの能力向上を目的としたマジックアイテムを取り扱うのが主流なのですが」


「主流はそうであろう。だが、結婚指輪とかも扱わないわけじゃなかろう? ほれ、店長を呼んで参れ。『青雷のリオンが来たぞ』とでも伝言すれば飛んでやってくるのであるよ」


「は、はい、承知いたしました。すぐに呼んで参りますので、こちらのソファーで……」


「その必要はないよ、リオン殿。久しぶりですな」

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