46.救出、そして

遅くなりました!

理由、普通に寝坊です<(_ _)>

お風呂開けの日は寝坊に注意した方がいいな……

*******************


 崖下に飛び降りると、フォーリンコントロールの効果によってゆっくりと地面に向かって降りていくことができた。

 だが。


『ギギッ!!』


「そりゃ見つかるよなぁ!!」


 櫓の上に乗っていたゴブリンに気付かれて矢を射かけられることになった。


「どうするんだよ、リオン!」


「風魔法にウィンドガードという魔法があるからそれを使うにゃ! そうすればこの程度の矢玉は当たらなくなるにゃ!」


「わかった! ウィンドガード!」


 全員分ウィンドガードをかけると実際に矢が当たらなくなった。

 当たらないというよりは、風によって矢がそらされているというべきか。


「そろそろ地面に着くにゃ! 準備はいいかにゃ!?」


「もちろん!」


「いつでも!」


「大丈夫です!」


「地面に着いたら一気に駆け抜けるにゃ! ここからは時間との勝負にゃ!!」


 地面に着くと同時に四人全員で走り出す。

 今回は陣形を整えている余裕はない。

 素早さの関係上、リオンが突出しているがかまわないだろう。

 走りながら全員に支援魔法もかけて準備万端、あとはゴブリンを全滅させるだけだ。


「さぁさぁ、いきますにゃ!」


 一足先にリオンがたどり着いて、そのサーベルでゴブリンを切り裂く。

 そのままの勢いで次々倒していくので、そのままでは俺たちの出る幕がなくなる。

 せめて俺だけでも参加するとしよう。


「ライトニングボルト!」


 今回は敵と救出対象の距離が近いのでうかつな魔法を使えない。

 その点、ピンポイントで攻撃できるライトニングボルトは便利である。

 というか、雷魔法便利だな!


「これで最後にゃ!」


 どうやらリオンが最後のゴブリンを倒したようだ。

 これでとりあえず安全かな。


「とりあえずは終わりましたにゃ。ここからが面倒なんですがにゃ」


「面倒……ですか?」


 ボコボコにされていた冒険者たちの中で、まだ意識を失っていなかったものがわめきだした。


「お前たちはさっきの……なにしにきたんだ!」


「なにしにきたとは心外であるな。崖上からお前たちがピンチなのが見えたので助けに来ただけである」


「誰がピンチだって言うんだ! 俺たちはまだやれたんだよ!」


「まだやれたねぇ。どう見てもそっちの四人は戦闘不能っぽいけど?」


「くっ……まだやれるんだよ! お前たちが余計なまねをしなければな!!」


「……そのボロボロの装備では戦闘継続不可能であるな。おとなしく帰るのである」


「うっせぇ、俺たちはまだやれるんだ!」


「話が進まないのであるな。とりあえず、フート殿、あの最初の砦は焼いてしまってもらえるであるかな?」


「……いいのか?あれでゴブリンが攻め込んでくるとか」


「ゴブリンがそこまで勇敢とは思えないのにゃ。上に報告が行くにしても一晩程度の時間は稼げるである。むしろ、このまま人間と敵対するのは容易と思われる方が面倒である」


「了解だ。……白光の翼!」


 毎度おなじみ白光の翼でゴブリンの砦……という丸太でできた壁と櫓を焼き払う。

 近場にいたゴブリンは巻き込まれて焼け死に、離れたところにいたゴブリンは奥の砦に逃げ込んでいった。


「上出来ですにゃ。あとは、この冒険者をどうやって連れ帰るかであるかが……」


「くっ……俺たちはハンターの世話になんて……」


「フート殿、面倒なのでサンダーハンドで気絶させてほしいのである」


「……いいのか?」


「かまわないのである。遠慮せずにバチッとやってくれであるよ」


 そう言うことらしいので、サンダーハンドでバチッと感電させて気絶させる。

 これで五人とも気絶したことになるが……。


「さて、フート殿。こっちの四人には一番効果の低いライトヒールを、こっちの女の子にはミドルヒールを頼むにゃ」


「女の子だけミドルヒールなのか?」


「見た目は変わりないですが、怪我が一番ひどいですにゃ。おそらく内臓から出血していますにゃ」


「って、それならハイヒールかグレーターヒールじゃないと!?」


「これも冒険者とハンターのしきたりのひとつですにゃ。死なない程度にしか治療しない。それ以上の治療をするなら、相応の金銭を支払うことになりますにゃ。ミドルヒールならしばらく生活に困りますが死にはしませんにゃ」


「……こんな貧相な装備しかできない冒険者にしばらく生活するお金があるとは思えないが」


 彼らの装備はかなりボロボロの革装備。

 今回のゴブリン戦でボロボロになった分も含めたとしても、かなりボロボロだったはずだ。

 武器も鉄製ではなく青銅製だし、その武器も壊れて使い物にならなくなっている。


「……まあ、自業自得というやつにゃ。それでは治療も済んだし、彼らを連れ帰るにゃ。吾輩がふたりかつぐから、アヤネ殿がふたり、ミキ殿はひとりお願いするにゃ」


「……俺は?」


「非力なハイエルフが無理するにゃ。それに魔術師がフリーの方がいろいろ便利にゃ」


 ……まあ、確かに俺ではひとりですら持てない可能性がある。

 それなら、モンスターが襲ってきたときに魔法で倒した方がいいか。


「さて、帰るとするにゃ。モンスターが面倒だからさっさと帰るにゃ。……魔導車が使えれば楽なのだがにゃー」


 定員オーバーだからどうにもならないと言うことだろう。

 仕方がないから、このまま街まで走ろう。


 テラとゼファーに周囲の警戒を任せて走ることしばらく、ようやく街の城壁が見えてきた。

 あちらもこちらの様子に気がついたらしく、なにやら慌ただしくなっていた。


「お帰りなさいませ、リオン殿。それで、この事態は……?」


「狩りに行ったゴブリンの森で全滅しかけた冒険者を拾って帰ってきたのである。応急処置はしてあるのでこのまま冒険者ギルドに運びたいのであるが、問題あるかな?」


「少々お待ちください。念のため私どもの方でも確認いたしますので」


「よろしくお願いするのである。なるべく急ぎで行きたいのであるからな」



*******************


【リオンの言っていた冒険者とハンターのしきたりについて補足説明】


今回の本文だけではリオンが胸くそなだけに感じる方もいると思うので補足をします。

かなりの長文になるので気にしない方は読み飛ばしていただいて大丈夫です。


冒険者またはハンターが救助を行った場合、相手を死なせないようにする『努力義務』があります。

努力義務ですので見捨てても罪には問われません。

(心情的な問題は除く)

通常の冒険者やハンターは街から遠出をするのが普通なので傷を癒やすポーションなどは貴重品なのです。

そのため、救援に入って相手が回復する見込みがあれば回復させることもありますが、すべては自分たちの状況次第になります。


さて、今回の場合。

フートは回復魔法レベル7を扱える化け物ですので完全治癒することも可能です。

ただし、その場合は『治療に使った魔法に対する支払い義務』が発生することになっています。

救命に最低限必要だった魔法は支払い義務が発生しませんが、それ以上の回復を行う場合・行った場合は回復された側に金銭を支払う義務が発生してしまうのです。

これは、回復する側、回復される側どちらの意思も関係なく、互いに支払いをしなくていいと言っていたとしても発生する義務です。


リオンは冒険者5人組の容態を見て、すぐさま必要な治癒レベルを選択・必要な魔法を指示しています。

この辺はハンター経験からくる経験によるものですね。

フートだったらオーバーヒールをしてしまいますから(というか完全治療してしまったでしょう)。

比較的軽傷だった4人には一番効果の低い(応急処置的な)ライトヒールを、一番重症だった少女には3番目に効果のある(ある程度の重症でも回復できる)ミドルヒールを選択しています。

軽傷の4人はライトヒールなしでもさして問題なかったのですが、少女はミドルヒールでないと街まで持たない(というか街に戻った後、再度回復魔法をかけないと死ぬ)という判断です。


さて、ここで問題になってくるのが回復魔法の値段になってきます。

基本的に回復術士(あるいは治癒士)は教会所属になります。

(リオン含め大体の冒険者・ハンターが教会を嫌っている理由でもあります)

教会ではライトヒール(一番軽いヤツ)は大銅貨1枚(1,000レイ)でかけてくれます。

ヒール(二番目のヤツ)になると大銅貨5枚(5,000レイ)が相場です。

ですが、ミドルヒール(三番目)になると銀貨5枚(5万レイ)以上(大抵は大銀貨1枚(10万レイ)になります。

そして、ハイヒール(四番目)になると金貨数枚(100万レイ以上)を要求してきます。

ミキがニコレットにダメージを負わせた際、フートが証拠隠滅に使ったグレーターヒールになると、そもそも使ってもらえるかが怪しいです。

(なので、歓迎会のときに10回も使って金貨3枚で本当にいいのかと聞いてきた)


ちなみに、豪華なランチセットを頼んで大体大銅貨1枚(1,000レイ)になります。

日本円と那由他のお金は大体一緒ですね。

特殊なものを除く食糧事情については。


以上を踏まえた話をしますと、比較的傷が浅かった4人は1,000レイの治療を施してもらった(軽く傷を治してもらった)。

重症の少女は5万から10万の治療を施してもらったことになります。

リオンが判断した無料で治療できるラインはここまでだったということです。

実際、少女にハイヒールをかけると全身の傷がほぼ塞がりオーバーヒールなのが目に見えてしまいます。

その場合、少女は否応なく金貨数枚(この場合はギルド建て替えになるので金貨5枚程度、つまりは500万)の借金を抱えることになっていました。

冒険者見習いに過ぎずゴブリンもろくに倒せない少女がこの金額を返済するのは到底不可能です。

ただし、那由他の国では奴隷制は禁止のため借金奴隷にもなれません。

少女の年齢ではいわゆる夜のお店に身売りすることもできず、完全に手詰まりです。

(夜のお店に身売りできるのは18歳になってから)

最終的には身売りできる年になるまで冒険者ギルドで下働き、身売りできるようになったら身売りという末路だったでしょうね。


リオンがそこまで考えていたかは知りませんが、ミドルヒールとハイヒールの相場の違いは知っていました。

そのため、まずは効果の低いミドルヒールで様子を見て、ダメそうだったらハイヒールをかける予定だったと言っておきます。


以上、リオンがフートの回復を止めた理由でした。

……本文並みに長くなって済みませんでした<(_ _)>


あと、回復術士が育ってない理由は夜更新のあと、Twitterの設定話でやる予定だよ!

(これ以上本文を長くしたくない)

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