47.冒険者ギルドへ
「五名の容態確認終わりました。傷は深いですが、致命傷のものはいないようです」
「その辺の手加減も慣れたものであるよ。では吾輩たちは冒険者ギルドに説明に行くのである」
「あの……もしよろしければ、この五名は私どものほうで冒険者ギルドに届けますが……?」
「ちょっと別件もあるのでなぁ。この五名はついでであるよ」
「わかりました。……その、お気をつけて」
「ではいくである。三人とも」
再び人をかついで今度は邦奈良の都の中を走り抜ける。
人をかついだ集団が駆け抜けている上に、その後ろからは狼がついてきているとならばとても目立つだろう。
リオンはそんな気配を完全に無視して大通りに面した、ある建物の中に入っていった。
建物の前に掲げられた看板に記されたエンブレムは交差する剣。
眺めていても仕方がないので、俺やテラたちも後に続くことにする。
が、すでに建物の中の空気は最悪だった。
「ああん、お前らが手を出したんじゃないのか、青雷のリオンさんよぉ!!」
「吾輩たちがやるならばもっと派手にやるのであるな。おい、そこな受付嬢。こんな酔っ払いでは話にならないのである。ギルドマスターを呼んでくるのであるよ。S案件である」
「S案件……ですか?」
「意味がわからないわけではあるまいな?」
「い、いえ! すぐに取り次いできます!!」
「おい、お前と話してんのはこっちだろうが!」
「酒臭いバカであるな。これだから冒険者というのはお里が知れるというものである」
「ああん? なんだって?」
「嫌みも通じないようでは話が続かないのである。とりあえずお前はそこをどくのである」
「うっせぇな、この青猫が!」
「ふぅ、吾輩のことを青雷のリオンと知っていたのに実力行使とは……甘く見られたものである」
殴りかかってきた男の腕をかわすと、そのまま回し蹴りでカウンターを入れる。
男の身体は吹き飛ばされて、ギルドの壁に当たりようやく止まった。
「てっめぇ、やりやがったな!」
「よくも仲間を!!」
「ハンター風情が、生きて返さねえぞ!!」
さっきの大男のように酒場で酒を飲んでいた連中が激高して立ち上がった。
そして、全員が抜剣していまにも斬りかかってきそうな勢いである。
「ちょ、ちょっと皆さんダメですよ! ハンターギルド員と理由もなくことを構えたら冒険者資格剥奪です!」
「先に手を出したらだろう? あいつらはすでにあの新人五人をボコボコにしてるじゃねーか!」
「そうだ! 俺たちが正しいんだ!」
「ハンターギルド風情が出しゃばるからこうなるんだよ!」
その様子に、肩を少し上げてため息をつくリオン。
「これだから冒険者ギルドは嫌いなのである。一握りの金石に数多の砂粒、そしてそれに付着するドロ。自浄作用もまともに働かないようになってしまっては終わりであるぞ?」
「なにを小難しいことを! いくぞ、斬っちま……」
「そこまでにしな、ガキども!!」
上の階に続いていた階段から威勢のいい声が響き、冒険者たちの動きが止まる。
そして姿を現したのは、竜の翼と尻尾を持った女性だった。
「おや、そこの三人は竜人族を見るのは始めてかい?」
「あ、すみません、じろじろ見てしまって」
「かまわないさ。そんな視線には慣れっこだからね。悪意のある視線じゃなかっただけ気持ちがいいもんだよ」
「やっぱり、その姿だといろいろ大変なんですか?」
「まあねえ。味覚も普通の人間族とは大分違うし……ってそんな世間話をしている場合じゃなかったね。青雷の、S案件で呼び出しとはそんなに重要なことなんだろうね?」
「重要なことだにゃ。通称ゴブリンの丘はよく知ってるのであろうな?」
「当然だろう? 今の間引き当番は冒険者ギルドだからねぇ」
「ゴブリンの丘周辺にゴブリンの砦ができていたのである。それも、ゴブリン丘から森方面に向かって幅広くな」
「なんだって!? その話、嘘じゃないだろうね!?」
「なんなら嘘発見器の魔導具を使ってもいいのであるぞ。まあ、ゴブリンの丘に広がっていた砦と、森の第一砦は焼き払ってきたから、多少の時間稼ぎにはなったであろうがな」
「くっ……いま、ゴブリンの討伐依頼を受注しているパーティはどこだい!?」
「は、はい!! えー、『白の剣閃』になります!!」
「そのパーティ、いつから受注していた!?」
「少々お待ちください……今年に入ってからずっとですね」
「ふむ、合点がいったのであるな」
「そのようだね。依頼を引き受けたパーティが駆除をしていなかったようだ。ちなみに、『白の剣閃』が最後にギルドにきたのはいつだい?」
「ええと……五カ月前ですねそれ以来、新しい受注も依頼報告もなされていないそうです」
「……ということはその時点で、『白の剣閃』では手に負えない魔物が出没していた可能性もあるってことかい?」
「そんなにヤワなパーティだったのですかな?」
「いや、キングやクイーン相手でも最悪逃げ出す程度の実力は持っていたはずだよ。それが全滅した可能性があるとすれば、突然発生種すなわち……」
「モンスターですかな」
「……どちらにしても、もうギルドのメンツがどうのって話じゃないね」
「その方がいいと思われますぞ。あの五名は命をつなぎ止めましたが、その代償は大きいものでしたからな」
「……はっ、見事に死なない程度の怪我だね。まあ、無理をせずに街中の清掃とかをやっていれば正会員にはなれるってか。ったく、若いのはすぐに無理をする。それじゃ、アタシはハンターギルドにことの顛末を話しに行くよ。あとのことはあんたに任せた」
「はい、お気をつけて」
「じゃあ、いくよ!」
この日は疲れているだろうということで、ここでリオンと分かれて家に帰ることになった。
のんびり夕食を食べながら帰ってきたリオンの話を聞くと、明後日にハンターギルドと冒険者ギルド、合同で大討伐を行うらしい。
いまの状況は魔物たちの大暴走、スタンピードの一歩手前ということでなりふり構ってられないそうだ。
……ただ、リオンは明日の朝も早めに起きるように指示を出していた。
コイツ、抜け駆けする気だな。
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