45.ゴブリンハント

「……なんとなく気は重いが崖上の調査に行くか。早めに終わればあっちの様子もうかがえるだろう」


「はいそうですよね! 急いで終わらせましょう!」


 などという軽い気持ちで始めた調査だったが、これまたゴブリンがうじゃうじゃいた。


「シールドバッシュ! フート、倒れたわよ!」


「ライトニングボルト! 崖上のゴブリンって少ないんじゃなかったのか?」


「虎砲! 全然少なくありませんね!」


「まさかここまでゴブリンが戦力を蓄えているとは、非常にマズいですにゃ!」


「非常にってどの程度?」


「大急ぎでここの連中を始末して崖下を調査したい程度ですにゃ!」


「ってことは大魔法解禁OK?」


「OKですにゃ。バンバンぶちかましてくださいですにゃ!」


「おっけー! まずはサンダーレイン!」


 俺は水を得た魚のごとくバンバン魔法を繰り出していく。

 ただゴブリンも一カ所に固まっていればいいものを、ちりぢりになっていくので効率はさほどよろしくない。

 それでも逃げたゴブリンたちは他のみんなが確実に仕留めてくれるから、こっちは安心して大魔法を繰り出せるんだけどさ。


 そんなこんなで大掃除をすること一時間ほど、ようやく崖の上がきれいになった。

 ゴブリンどもは崖の上にもバリケードなどを作っていて、それを崩すのに魔法を一発多く使ったりしたため、思いのほか時間がかかったのだ。


「マズいですにゃ、マズいですにゃ! ゴブリンどもがここまで統率のとれた行動をとれているとは! この数カ月は冒険者ギルドが間引き担当だったはずなのに全然仕事をしてないのにゃ!」


「ほらほら、リオン。絶望していないで崖下の様子を見るんだろ?」


「……怖くて見たくないのですが、見るしかありませんのにゃ……」


 リオンが言っていたとおり、崖下はまるで簡易城塞のようになっていた。

 木でできた壁に門が付いており、監視台まである。

 ゴブリンたちも大量に詰めていて、本当に前線基地といった様相だ。


「バッカじゃないのかにゃ! あんな立派な基地まで作らせるとは! これでは攻めるのがめんどくさいのですにゃ!」


「いやー、白光の翼だったらいい感じに燃え落ちてくれると思うぞ」


「それは吾輩たちが攻める場合の話にゃ! 普通の冒険者やハンターでは……」


「いや、俺たちが攻め落とせばよくないか? 威力偵察も兼ねて」


「……まあそうですにゃ。ここで吾輩たちがうっかり敵の出城を破壊したところで誰にも責められませんのにゃ。ついでだから、明日あたりに本丸を落としても問題なしですにゃ」


「取らぬ狸の皮算用って知ってるか?」


「皆さんならゴブリンの根城を強襲して首魁の首を取ることなんて簡単ですにゃ」


「首魁ねぇ……やっぱりゴブリンキングとかか?」


「この規模ですとゴブリンキング以上がいそうですにゃ。それこそモンスタークラスが」


「それって私たちでもいけるの?」


「所詮はゴブリンですからにゃ。気をつければどうってことないにゃ」


「そうですか……でも、今夜の準備は万端にですね」


「そうだにゃぁ。せめてレベルだけでも上げておくといいにゃ」


「……あれだけゴブリンを倒しても、雀の涙ほどの経験値しか入ってないな」


「いわないでよ、悲しくなるから」


 ゴブリンから得られるソウルポイントは非常に少ない。

 あれって全員分合計しても5000くらいしか入ってないんじゃないか?


 とりあえずの行動予定が決まって帰ろうかとしているとき、ミキがあるものを発見した。


「皆さん! あれってさっきの冒険者さんたちじゃありませんか!?」


 ミキが指さす先には、森の入り口付近で戦っている5人組の姿が見えた。

 冒険者5人に対し、ゴブリンは10匹以上いて、かなり旗色が悪そうだ。


「ふむ、あの様子ですと対多数戦のいろはも学んできていないようですにゃぁ」


「リオンさん! 落ち着いていないで助けないと!」


「まあ、待つにゃ、ミキ殿。ここで彼らを助けるのは容易ですにゃ。究極的にはフート殿に魔法を一発ドーンとやってもらえばいいだけですからにゃ」


「まあ、確かに。あまり気乗りはしないけど」


「ですが、ここで彼らを助けることは後々のギルドの関係にまで影響を与えますにゃ。さすがに新人を拾ったぐらいではそんなに悪化はしないと思いますが、冒険者ギルドから見たハンターギルドの評価は最悪ですにゃ。それでも助けますかにゃ? 見捨てたら見捨てたで言いがかりはつけられそうですがにゃ」


「……なんだってそこまで嫌われているんだ?」


「高額のモンスターハント依頼がこちらに回ってくるせいですにゃ。成功率も高く、信頼も置けるハンターギルドに任せた方が冒険者ギルドに任せるよりマシということですにゃ。あと、微妙に事務手数料も安いとか」


「へぇ……」


 俺たちが関係ない話で場を持たせている間に、ミキの決心は決まったようだ。


「リオンさん、お手数をおかけしますが、彼らを助けましょう」


「まあ、そうくると思ってましたにゃ」


「で、どう攻めるんだ? 崖下まで回り込んでたら多分間に合わないぞ」


「そうね。多分あの調子じゃもって3分よ」


「いまからフォーリンコントロールという魔法を皆さんにかけますにゃ。それがかかっていれば、崖から飛び降りてもゆっくりと着地できますにゃ」


「了解、信じてるぞリオン」


「任されましたにゃ。……フォーリンコントロール!」


 俺たち四人の足元が緑色に光る。

 これがフォーリンコントロールという魔法のかかった合図なのだろう。


「ではいきますにゃ!」


「おう!」


「ええ!」


「はい!」

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