44.ハント開始!
この小説、なにかと冒険者が悪し様に描かれますが、ハンターギルドとの対立(特に若いメンバーは中堅メンバーからのいびりも含めて)があるためです。
本来的にはどっちがどうこうという話ではないのです。
お互い手を出さないという不文律もありますし。
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「それで具体的にはどっちの方角に進めばいいんだ?」
「ゴブリンどもの根城があるのは森の中ですにゃ。基本的にそちらに近づくほどエンカウント率は高くなりますにゃ」
「じゃあ、森を目指せばいいのね?」
「いや、今日のところはあっちの丘を目指しますにゃ。あの上からならゴブリンの様子見て取れますからにゃぁ」
「そんなことをしてどうするんだ?」
「上位種が出現していそうなら本当のゴブリンハントの時間ですにゃ。出現していなさそうなら、適度に間引きということで」
「まるで上位種がいてほしいような口ぶりだな……」
「大丈夫ですにゃ。数が多いことと統率がとれていることを除けば灰色の森のモンスターより弱いにゃ」
「……そう聞くと微妙な気持ちになりますね」
「ゴブリンの氾濫ってあれでしょ? 畑や街に甚大な被害をもたらすってヤツ」
「はいですにゃ。だからこそ、冒険者ギルドなりハンターギルドなりが定期的に見て回っているのですが……冒険者の連中め、あっちの警戒時期だったというのにサボってたにゃ」
「ってことは上位種がいそうな感じか」
「ですにゃ。ほら、あそこにホブゴブリンがいますにゃ。あれはゴブリンの中でも大きく力強く育った個体にゃ」
「ってことは強いのか」
「皆さんにとっては五十歩百歩ですにゃぁ。ともかく、こんな麓にまでホブゴブリンがきていること自体問題ですにゃ。さっさと始末しますにゃ!」
「了解、陣形は!」
「今回は無視でいいにゃ! テラとゼファーが後ろから食いついて混乱させたところを、アヤネ殿とミキ殿、フート殿で一気に成敗ですにゃ!」
「だってさ。ゴー、テラ、ゼファー!!」
「「ウガウ!!」」
相手もこっちの様子に気がついたようだが気にしない。
左右へと大きく離れた位置から強襲を仕掛けるテラとゼファーは、完全に警戒されていなかった。
「ウガフ!」
「ガフ!!」
一気に二体沈めたところで俺たちも追いつき行動に移る。
右手側のゴブリンはミキが一発で、左手側のゴブリンはアヤネが一撃で仕留めた。
さて、残るは俺だが、この至近距離では仲間を魔法に巻き込んでしまう。
なので、とった方法は。
「ストーンブロウ!」
岩つぶてで距離を開けて次の魔法でとどめを刺す。
その予定だったのだが。
「戦闘終了ご苦労なのにゃ」
ストーンブロウの時点でホブゴブリンが死んでしまったのだ。
「総評として、奇襲戦としては問題なかったにゃ。もっと足が速ければよかったのにゃが……それは今後レベル上げをしてからの課題とするにゃ。あと、フート殿。最後の魔法の選択もよかったですにゃ」
「あー、ありがとう」
「ショットやブラストでは至近距離の仲間を傷つける可能性がある、そして、岩系のストーンブロウならやけどやかまいたちによる切り傷の恐れもないですのでにゃー」
「本当はストーンブロウではじき飛ばして距離を開けたあとにもう一発魔法を打ち込む予定だったんだが……」
「まあ、ホブゴブリンといえど、我々からすれば多少頑丈になったゴブリンですからにゃ。そんなものですにゃ」
「ゴブリン狩りで連携の練習になるのか不安になってきた」
「……吾輩も少し不安になってきたところにゃ。まさかこれほどまで簡単に倒せてしまうとは」
「まあまあ、ドロップアイテムを集めて次に向かいましょう。丘の上から監視すれば何かわかるかも知れませんし」
「だといいけどね。さすがにゴブリン程度の魔石じゃ神器強化にも使えないか」
「……さて、拾い終わったぞ。ここからは丘を登っていくんだったな」
「はいですにゃ。それでは出発……」
「おい、お前ら! こっちに来るんじゃねーよ!」
出発しようとしたところ、俺たちにけんか腰の声をかけてくる連中がいた。
そちらを見れば、年頃は俺たちとほぼ一緒の五人組が偉そうに立っている。
「こっから先は俺たちの縄張りだ! よそ者は入ってくるんじゃねぇ!」
「縄張りを主張されても困るのであるな。貴族様が定めた禁猟区であるならまだしも、ここは野生のモンスターが生息する地。誰のものでもないのであるよ」
「うっせぇ! その腕輪、お前らハンターギルドの連中だろ!! ハンターギルドの連中は俺たちのところに入ってくるんじゃねぇよ!」
「そーだ! 新人研修でも、ハンターギルドとは仲良くする必要はないと聞いたぞ!!」
「お前らに獲物を横取りされてたまるかよ! 俺たちはこのクエストを成功させて正式な冒険者になるんだからな!」
「あー、話は見えてきたのである。君らはゴブリン退治のクエストをクリアして冒険者ギルドに登録したいと、そう言うわけであるな」
「さっきっからそう言ってるだろうが、このネコ!」
「それならば、この丘を上がっていった方がいいであるよ。ゴブリンの数は少ないであろうが、諸君に対処できる数のはずである」
「なんだと……」
「諸君らの装備、どう考えてもゴブリン退治にはギリギリの装備である。手入れもちゃんと行き届いてないのか、見た目だけでボロボロなのがわかるのであるよ。その武器で大量のゴブリンを相手にするのは無謀というもの。ゴブリン退治クエストの達成数は同日に5匹のはず。故に無理はしない方がいいである」
「……それなら。その崖下の道はどうだっていうんだよ」
「吾輩たちでも未知数であるな。さっきそこらでホブゴブリンに出くわしたあたり、上位種のゴブリンがうろついている可能性が高いのである。どう考えてもお勧めできないのであるよ」
「くそっ、なめやがって! 俺たちが崖下の道を行く! 文句はないな!」
「おう!」
「ちょっと待ってよ、アルドー。ここはおとなしく崖上に行くべきだよ」
「お前は臆病だな。俺たちに付いてくれば間違いないんだよ!」
「よし、いくぞ!」
見習い冒険者一行は崖下の道へと進んで行ってしまった。
ひとり、女の子が不安そうにしていたが、他のメンバーを切り捨てることができなかったのだろう。
「バカな連中ですにゃあ。崖下は危険と教えたのにそちらに行くとは……」
「あの、これからどうするんですか?」
「ハンターと冒険者間の不文律、お互いの狩り場に手を出さない。吾輩たちは崖の上を調査するにゃ」
「それってあの人たちを見殺しにすることになるんじゃ……」
「運がよければ助けてやるにゃ。ミキ殿もこの仕事が命がけだということに早く慣れた方がいいですにゃ。もちろん、人死に慣れろとはいいませんがにゃ」
「……なんとなく気は重いが崖上の調査に行くか。早めに終わればあっちの様子もうかがえるだろう」
「はいそうですよね! 急いで終わらせましょう!」
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