34.模擬戦

 ここはどこか知れない闇の一室。

 そこで数人の男たちが話をしていた。


「……ふむ、ハンターギルドに落ち着いた赤の明星のステータスを調べるのは失敗したか」


「あそこはハイエルフがいるからな。魔力の流れを察知されたのやも知れぬ」


「だが王宮側に保護された赤の明星はステータスが知れたぞ」


「ふむ、これといった特徴はなさそうだが……」


「いや、ひとりが【聖剣召喚】のスキルを持っている。これは楽しみになるぞ」


「ああ、あのスキルか……」


「我々まで巻き込まねばよいが……」


「ともかく、これでこの国の赤の明星は調査終了だな」


「次の国に移るとしようか……」


 そして、男たちの気配は消える。

 目的もわからぬまま……。


* * * * * * * * * *


「それでは、本登録証を渡す前に模擬戦をやってもらいますにゃ」


 ステータスチェックの終わった俺たちに、リオンが次の予定を告げてきた。

 模擬戦か……手加減が大変なんだよな、俺の場合。


「模擬戦……ですか?」


「そうにゃ。現時点での強さを把握してランクを決める大事な作業ですにゃ。もっとも、全員Dランク以上は確定なんですがにゃ」


「そうなのか?」


「アイテムボックス持ちというだけでDランク確定なのですにゃ。天陀でも説明しましたがアイテムボックスがあれば、戦えなくても周囲のサポートでアイテムを運べますからにゃぁ」


「そう。でも、今日の模擬戦も本気でやってかまわないのよね?」


「……本気でやるのは勘弁してほしいにゃ。戦闘スキルレベル7がばれると厄介にゃ」


「それもそうね。じゃあ、適度にがんばるわ」


「そうしてほしいにゃ。特にフート殿、レベル6やレベル7魔法は使用禁止にゃ」


「わかってるって。それで、対戦相手は?」


「もう準備ができているはずにゃ。訓練場に行くにゃ」


 リオンに着いていった先は、だだっ広い円形の庭。

 ところどころ燃えたようなあとや、なにかが刺さったようなあとがあるしここが訓練場なのだろう。

 天陀の街に比べてもはるかに広いな。


「お、来たか。待っていたぜ」


 声をかけてきたのはあちらも三人組のチーム。

 というか、あの人たちって……。


「すいません、昨日は寄れなくて」


「なーに気にするな。ギルドマスターとの話が長引いたんだろう? なら仕方ねぇよ」


 昨日、食事に誘ってくれていた先輩ハンターたちだった。

 この人たちが相手ということかな?


「さて、今日の試験は『天光の翼』が務めるのである! 皆も良く見ておくのであるぞ!」


 突如、訓練場に響く歓声。

 気がつかなかっただけで、どうやらかなりの観客が見に来ているらしい。


 どんどん熱量が増していく中、リオンがこちらに戻ってきたので話を聞いてみる。


「リオン、こんなに人がいるなんて聞いてないぞ」


「たはは……吾輩も知らなかったにゃ。どうやら、ギルドマスターあたりが昨日のうちに告知を出していたみたいだにゃぁ」


「告知って……一日でこんなに集まるものなの?」


「今日から狩りに行こうとしたハンターや休養日のハンターは結構いますのにゃ。というわけで、新人の模擬戦なのに大盛況にゃ」


「……これ、俺たちが力を使っても大丈夫なのか?」


「殺さない程度の力なら問題ありませんにゃ。こうなってしまった以上、先ほどの話は撤回、フート殿以外は全力で相手をしても問題ありませんにゃ」


「俺は?」


「レベル5魔法をバンバン繰り出してかまいませんのにゃ。ハイエルフなら楽勝ですにゃ」


「根拠のない説明どうも。それで、こちらの順番は?」


「アヤネ殿、ミキ殿、フート殿の順番ですにゃ。相性的にもっとも楽な相手を選んでおりますのにゃ」


「ふーん、まあ、その辺はリオンを信じてみましょうか。それで、私の番からね」


「はいですにゃ。訓練場中央まで来てくださいにゃ」


 リオンとともに訓練場中央付近まで移動するアヤネ。

 相手は……大剣使いか。

 確かに、俺たち三人の中では相性がよさそうだ。


「そういえば自己紹介がまだだったよな。俺はエーフラム。『天光の翼』のリーダーをしている」


「私はアヤネよ。よろしくね」


「ああ、よろしく頼む」


 エーフラムが大剣を、アヤネが盾と特殊警棒を構えたのが開始の合図となった。


「それではエーフラム対アヤネ殿の模擬戦、スタートである!」

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