29.盗賊の話
「結局、二日目はなにも起こりませんでしたにゃ」
「なにか起こるのを期待するんじゃないわよ」
「たはは……痛いところを」
「それで、邦奈良の都というのはあとどれくらいなのでしょう?」
「うーん、無理をすれば、今日の夜中に到着……といったところですかにゃ。吾輩としては、のんびり行って明日の昼間に到着コースをおすすめいたしますにゃ」
「その方がよさそうだな」
「「ウォフ」」
「フェンリルたちもそっちがよさそうですし、のんびり行くにゃ……それにしても、そのレッサーフェンリル、頭がよすぎでは?」
「こんなものじゃないのか?」
「レッサーフェンリルはもとより頭のいい魔物ではありますが、そこまで賢いとは聞いたことがありませんにゃ。この旅の間もすくすく育ってますし……」
それについては俺も同意だ。
出会った頃には二匹まとめて抱き上げられるサイズだったのに、天陀の頃には一匹抱えるのがやっとになり、いまは一匹抱えるのすらつらい大きさになっていている。
天陀で見かけたグラニエのレッサーフェンリルがもうちょっと大きいサイズだったから、成獣に近づいてきているのだろうが……早すぎないか?
翌日の旅も無事何事もなく進んでいた。
なお、二匹は仲良く後部シートで寝息を立てている。
その後もしばらくは平坦な道のりが続いたが、森に入って道路が若干狭くなったときにそれは起こった。
「……ん? この先に敵性反応……12? 道を取り囲むようにしているけど、なにか魔物か?」
「いや、そんな魔物は聞いたことがないのにゃ。これは……多分盗賊にゃ」
「盗賊……ですか」
「吾輩たちは車両1台で行動しているから狙い目だと思われるでしょうなぁ」
「ずいぶん開き直ってるわね、このネコ」
「悩んだってしょうがないにゃ。12人程度なら吾輩ひとりでも余裕だから見ててくださいにゃ」
「……それって殺してしまうってことですか?」
「まあそうなりますにゃ」
「他に道はないってわけね」
「さすがに情状酌量の道はありませんにゃ。ここで見逃しても、また別の者が襲われるだけですからにゃ」
「さすが異世界、そこら辺は厳しいわ」
「そういうわけですから、皆さんは残っていてくださいにゃ」
「いや、俺も出よう」
「フートさん」
「いいの、フート?」
「俺の場合は魔法でなぎ払うだけだしな。なんとかなるだろう」
「……いまはまだ無理をしなくてもいいと思いますが、そういうことならお任せするにゃ」
「いまはまだ、ってことはそのうちやるってことだろ?」
「ノーコメントですにゃ」
さて、仮称盗賊団はどこで仕掛けてくるのか……。
と思っていたら、道が倒木で塞がれていた。
「どうやらここが終点のようですにゃ」
「遅れて付いてきていた盗賊も追いついてきたようだぞ」
「では、始めますかにゃ」
俺とリオンは車を出て盗賊団が揃うのを待つ。
やがて、あちらも配置についたのか、合計14人が馬に乗って現れた。
「なあ、リオン。盗賊団の持ち物って倒したらどうなるんだ?」
「基本的に倒した者の物になるにゃ。でも、吾輩たちは急ぐから持ち帰っている暇はないにゃ」
「だよなー」
「てめえら、なにをごちゃごちゃしゃべってやがる! 俺たちはジャ……」
なにやら名乗り始めたがわざわざ聞く必要はないのでウィンドカッターを使い首をはね飛ばす。
「てめえら、なにしやがる!」
「戦場でのんびり前口上なんて言っているからだろう?」
「いやいや、前口上は聞いてあげるのが通例にゃ……」
「じゃあ、赤の明星なんで知らなかったということで」
「こんのぉ!! かまうことはねぇ!! ぶっ殺しちまえ!!」
ああ、敵さんがキレた。
そう仕向けたのは俺だけど、早かったなぁ。
まだ遠くにいる敵は、俺が各種魔法でたたき落とし、近くまで寄ってきた敵はリオンが切りつける。
っていうか、魔法が着弾すれば爆発したり穴が空くし、切り裂けば一刀両断される。
逃げようとした盗賊もいたが、俺がそんなことを許すはずもなく、しっかりと倒させてもらった。
「……ふむ、戦利品は合わせて馬12頭にゃ」
「2頭は逃げたか」
「まあ、十分にゃ。問題は連れて行く手段がないだけで。……なんかこう、都合のいいスキルはないのかにゃ?」
「……ないな。というか、俺の記憶に間違いがなければソウルが増えていないぞ」
「それは当然にゃ。人殺しをしてソウルが増えるなら、この世界はもっと殺伐としているにゃ」
「そんなものだよなあ。で、この馬どうしよう」
「どうしようにゃあ」
馬の処理に悩んでいると、道を塞いでいた大木の方から声が聞こえてきた。
どうやら、近くの街から人が来ているらしい。
「ここに来ているということは衛兵ではなく地方兵かにゃ?」
「どっちにしろこの大木をどけてほしいんだろ。……レベル4の魔法って珍しく無いよな?」
「フート殿の年齢では珍しいけど、一般的にはそれなりに使用者がいるにゃ」
「ならいいか。すみませーん、これからこの木を燃やすので離れていてもらえますかー?」
声は向こうにも聞こえたらしく、少したった後、待避完了しました、と告げられたので早速始めてみる。
「じゃあ始めようか。フレアジャベリン!」
「あれ? フレアジャベリンって貫通力特化じゃなかったのかにゃ?」
「そんなことないぞ。刺さった対象を焼き払う恐ろしい魔法だ。……まあ、焼き払える範囲は限られているけど」
「……ふむ、いつの間にか魔法の形式も変わってしまっていたのかにゃぁ」
「まあ、いいじゃん。行くぞー」
フレアジャベリンを投げつけると、刺さった場所から木の中に潜り込み、木が燃え始める。
ただ、刺さった周囲しかやはり燃えないので、その後もフレアジャベリンを何本も打ち続けた。
そして、おおよそ灰になったところで、ファイアボムを使い吹き飛ばせば完了だ。
「おお、あの積まれていた木がこんなに早く……」
「それにしても、あの少年とケットシーは一体?」
「あー、吾輩、リオンというケットシーである。現在、都のハンターギルドから特命を受けて都に帰る途中なのだよ。これ、その命令書である」
リオンが取り出した命令書を年配の騎士? 衛兵? よくわからないがその人が読むと、とりあえず事情は把握してもらえたようだ。
「状況は把握しました。盗賊退治にご協力感謝いたします」
「盗賊退治は飛んできた火の粉を払っただけなので気にすることでもない。それで、盗賊は全滅させてしまったのだが、その馬を12頭ほど捕まえてあるのだが」
「わかりました、それはこちらで買い取りましょう。町まで運んでいただければ、もっと高く買い取れると思うのですが」
「吾輩たちは急ぎの旅である。二束三文でも足止めになるものが減った方が嬉しいのであるよ」
というわけで、馬はこの人たちに売れたらしい。
騎士さんたちは盗賊の残党狩りをして行くそうだ。
……ひとりかふたり、生き残すべきだったかな。
ともかく、旅立つ問題になっていたことは解決したので再出発。
今日中に邦奈良の都へ着くのはやはり不可能であるということだった。
「フートさん、人を殺すときってどんな感じでしたか?」
「うん? 俺に聞くか……俺の場合、魔法だったのもあるが、普通に魔物を倒しているのと変わらなかったな」
「魔物と、ですか」
「そ、魔物と、だ。殺さなければ殺される。殺しておかなければどうなるかわからない。全部魔物と一緒だからな」
「……なるほど。確かに、同じ人間と思わなければそうなりますよね」
「……難しい考えは捨てた方がいいぞ。この先、確実に盗賊を倒す必要があるんだから」
「はい、ありがとうございます」
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