28.ソウルパーチャスとスキルの話

 一夜明けて周囲の様子をうかがってからハウスをしまい、車で再出発だ。

 猫騎士リオンのもっぱらの話題はハウススキルである。

 やはり、野宿だと虫刺されがあるそうだ。


「いやー虫刺されの心配がいらないというのは便利でありますなぁ!」


「靴が汚れていても土を持ち込まないしな」


「ああ、それのために玄関で靴を脱いでいたんだにゃ」


「邦奈良にはそういう風習はないんですか?」


「一部地域にはあるらしいですにゃ。ですが、都としては少数派ですにゃ」


「ドロが床に落ちなくて便利なのにね」


「だなぁ」


「吾輩もそう思うのにゃ。ただ、ホテル暮らしの身としてはどちらでも大差ないというのが本音にゃ」


「リオンってホテル暮らしなんだ」


「正確にはホテルと少し違うのにゃが。ハンターが集まって共同生活をしているにゃ」


「へー。そんな施設もあるのか」


「ありますにゃ。もっとも、皆さんには不要だと思いますが」


「あーハウスの便利さになれるとどうもねぇ」


「男の人と同じ部屋、とかもう意識しませんもんね」


「それはそれで男として悲しいが……俺も同じ感じかもしれないな」


「仲がいいことはいいですにゃ。さて、そうなると、邦奈良の都に着いたときにどこに住んでもらうかが問題になりますにゃ」


「だよなあ」


「まあ、それはギルマスにぶん投げるとして。フート殿、スキルが成長するというのはどういうことなのですかな?」


 ちっ、忘れていなかったか。


「……スキルの成長だがな、俺の持ってるふたつ目の固有スキルに由来するものなんだ」


「固有スキルですかニャ。やっぱり赤の明星さんですにゃ」


「茶化すな。で、そのスキルだが【ソウルパーチャス】と言って、いままで魔物を倒して入手したソウルポイントを使い、新しいスキルの取得やスキルの成長、強化ができるものなんだ」


「……なんて化け物スキルなんだにゃ。それを使って死道でも生き残ってきたのですかにゃ?」


「そう言うことになりますね。むしろそのスキルがないと三日生きるのがつらかったと思います」


「飲み水もフートの生活魔法頼みだったし、本当にフートに依存していたわよね」


「……ちなみに、その【ソウルパーチャス】というスキルはフート殿ひとりにしか使えないのかにゃ?」


「スキルの大本になれるのは俺だけだ。ただ、俺が【ソウルシステム共有化】をした相手は【ソウルパーチャス】が使えるようになるようだな」


「……それは革命的な話ですにゃ。無敵の軍隊が作れてしまいますにゃ……」


「試しに共有化してみるか?」


「試しにならやってみたいにゃ」


「それじゃあ、共有化……うん?」


「どうしたのよ、フート?」


「エラーが出て、ソウルパーチャスの権限が渡せなかった」


「ソウルパーチャスの権限とはそのスキルを購入する権限ですかにゃ?」


「ああ、そうだ。同じパーティに組み込んで経験値共有設定をすることはできたんだが……ソウルパーチャスだけができないな」


「フートさん、理由はわからないんですか?」


 理由、理由か……多分これかな。


「警告:ソウルパーチャス機能を共有化するには絆レベルが足りません、ってヤツかな」


「絆レベル、ですか?」


「吾輩、なんとなくわかりましたにゃ。お三方は苦難をともにしてきた戦友だからこそすぐに絆レベルも上がり、問題なくソウルパーチャス機能も使えたんだと思いますにゃ。他方、吾輩はぽっと出のケットシーである故、そこまで絆が深くありませんにゃ。その結果だと思いますにゃ」


「リオンさん……」


 ミキがなにか言いたげだが、こればっかりはリオンの言うことの方が正しい気がするのでなにも言えない。

 たった一日であろうと限界環境で苦楽をともにした仲間と、いきなり出会ったばかりのケットシーを同列になんて扱えないからな。


「まあ、とりあえず、希望は見えましたにゃ。邦奈良の都に着くまでにフート殿から信頼してもらえればいいだけだにゃ! あ、経験値共有機能とやらからは外しておいてほしいにゃ!」


「了解、そして、ソウルパーチャスはまあ、そう言うことだけど!?」


「そうと決まれば、少し森林地帯よりで走って行くにゃ! 魔物コイコイにゃ!!」


 整備されたわけではない悪路を車はどんどん走り抜けていく。

 乗り心地はすこぶる悪い。


「お、敵さん発見! オークの群れですにゃ。皆さんはここで待っててくださいにゃ!」


 オーク5~6頭の群れに向かって駆け出すリオン。

 そこからはコマ送りを見ているかのように早かった。

 リオンが駆け抜けざまに切り裂いていると思うのだが、切った瞬間が見えないのだ。

 切る前の踏み込みと、切った後の残心、これしか見えていない。

 これだけでも、リオンが高スキル剣技を修めているとわかる。


 数分して、オークのドロップ品を集めたリオンが戻ってきて、ドロップアイテムは俺が預かることになった。


「いやー今日はオークが大漁でしたにゃ。これなら、晩ご飯は期待できそうにゃ」


「オーク肉ってやっぱり豚肉系なのか?」


「豚肉よりも油がくどくなくて食べやすいにゃ。ただ、ドロップアイテムにしても腐りやすいから、一般人ではときどき食べられるごちそうってレベルにゃ」


「わかった。今日の夜は俺がとんかつでも作ることにしよう」


「おお、とんかつ!! 久しぶりの響きにゃ!!」


「やっぱりこの世界にもとんかつはあるのね」


「はいですにゃ」


「知識チートや料理チートは難しそうですね」


「そういえば、吾輩の絆レベルは上がりましたかな?」


「えーと、上がってないな」


「そんなあ。それならば、上がるまでモンスター狩りを……」


「気持ちはわかるんだが悪路走行はきついんだけど……」


「えっと……私もちょっと」


「私もダメね。というか、これじゃあ絆レベルっていうのも下がるんじゃないの?」


「くっ……それでは街道に戻って邦奈良の都に向かいますにゃ。途中なにも現れないと思いますが仕方のないことですにゃ」


 リオンよ、それを俺たちの言葉で「フラグ」と言うんだぞ?

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