27.誓約紙

「誓約紙?」


 また聞き慣れない言葉が出てきたな。

 魔導具の一種かな?


「はいですにゃ。これを使えば誓約で縛った事柄を破ろうとすれば罰則が与えられる優れものですぞ!」


「語尾は統一しなさいな。……で、誓約で縛るってどういうことなの?」


「今回の場合、皆さんには一切の制限がありませんにゃ。吾輩が皆さんのスキルについて許可なくしゃべろうとすると、苦しくなって最後には死んでしまうという誓約内容になっておりますにゃ!」


「死んでしまうって……そんなに重い内容じゃなくても」


「ミキ殿、赤の明星の持つスキルは場合によって国家レベルの軍事力がひっくり返るものですにゃ。それくらいの誓約は当然ですにゃ」


「……どうする、フート。なんなら普通に野営でも私はかまわないけど」


「私もかまわないですよ、フートさん」


「……おふたりとも勘違いしているようですが、この誓約は邦奈良に着けばどちらにせよ交わす誓約ですにゃ。皆さんの指導教官になる以上、スキルは知らなければいけないので当然のことになりますにゃ」


「……わかった。それなら、いま誓約とやらをしてしまおう」


「話が早くて助かりますにゃ。これが誓約内容が書かれた誓約紙になりますにゃ。内容をよく読んでからサインをお願いしますにゃ」


 内容だが三人で確認したところ、本当に俺たちにはなんの制限もないことがわかった。

 これでは平等ではないと思うのだが……。


「なあ、俺たちが自分でスキル内容を話した場合はどうするんだ?」


「それを縛ってしまうといろいろ大変ですにゃ。過去にそれを縛った結果、誓約によって死亡した赤の明星もいましたにゃ」


「……わかった。それじゃあこれでサインしよう。ふたりもいいな?」


「オッケーよ」


「大丈夫です。内容はすべて頭に入っています」


 誓約紙にはアルファとベータという区分があり、今回の場合はベータが誓約によって縛られる側だった。

 ベータの側にはすでにリオンの名前がサインしてあり、アルファの側に俺たち三名のサインを書き足すだけですんだ。


「ふむ、これで終わりのようだが……どうすればいい?」


「こう唱えてくださいにゃ。『誓約よ、発動せよ』」


「わかった。『誓約よ、発動せよ』」


 その言葉を唱えると同時、誓約紙が青い光に包まれて二枚の紙に分かれた。

 どうやら、この二枚の紙をそれぞれが保管すると言うことらしい。


「さて、これで誓約は終わりですにゃ。試してみますかにゃ。フート殿、アヤネ殿、ミキ殿はア……」


 おそらくアイテムボックスと言おうとしたのだろう。

 だが、途中で呼吸困難を起こしたように言葉が止まってしまった。


「リオンさん! 大丈夫ですか!?」


「……はい、大丈夫ですにゃ。ちょっと誓約を甘く見ていましたにゃ。……しかし、アイテムボックスのことを話そうとするだけで誓約が発動するとは……」


「……この誓約内容、失敗なんじゃないか?」


「ですにゃぁ……。邦奈良の都に行ったら誓約内容の精査をしてもらい、再度誓約を結んでもらいますにゃ」


「の方がいいだろうな」


「さて、誓約も問題ありとはいえ結びましたし、早速スキルを見せてもらいたいのにゃ」


「わかった。それじゃあいくぞ、ハウス」


 俺がキーワードを唱えると異空間より家が現れる。

 それを見て、リオンは心底驚いたようだ。


「な、な、な、なんですかな、このスキルは!」


「ハウススキルって言ってな。異空間から安全な家を呼び出すスキルだ」


「安全とはどのレベルでですにゃ?」


「少なくとも死道だっけ? あそこにいるとき、魔物に家の中で襲われたことはなかったなぁ」


「……これは隠しておきたいスキルでありますにゃぁ」


「ま、中身はしょぼいんだがな」


「そうなのですかにゃ」


「入ればわかるって。さ、どうぞ」


 リオンを連れて中に入ると、相変わらずキッチンとトイレ、シャワールームしかない家だった。

 まあ、成長させてないし当然か。


「……確かに、中は殺風景ですにゃぁ」


「だろ? これも成長させれば変わるんだろうけど……」


「成長?」


「ああ、その話はまた今度、昼間にでもな」


「フート、晩ご飯は誰が作るの?」


「あ、私がやりますね」


「じゃあ、お願いねミキ」


「はい、任されました」


 ミキは台所にある冷蔵庫の中身を確かめ、なにを作るか考えたあと、料理を始めた。

 あっちはミキに任せて大丈夫だろう。

 以前に比べて調味料も充実させたし。


「……さて、フート。成長の話だけど、ハウススキルのレベル上げってどうなってるわけ? いままでは生き残ることを優先してたから後回しにしてたけど、この先はその必要もなさそうよ」


「あーちょっと待ってな。……ハウススキルはレベル2でダイニングキッチンと浴槽が追加、レベル3で1LDKに、レベル4で2LDKになるようだ」


「ふーん、できればレベル4にしたいところね。それぞれの必要ソウルは?」


「レベル2で8,000ソウル。レベル3が12,000ソウル。レベル4だと20,000ソウルだ」


「うーん、ひとまずLDK付きにして我慢するか、一気に部屋付きにするか……悩ましい」


「ちなみに、レベル5は3部屋で30,000ソウルな」


「3部屋なんていらないでしょ」


「ごもっとも」


「あのー、話しについていけないのであるが……ソウルとは魔物を倒したときに手に入るソウルであるかにゃ?」


「ああ、それで合ってるぞ」


「なんでソウルで部屋が増えるにゃ?」


「それにはフートが持っている別スキルの説明が必要でねぇ……」


「皆さん、ご飯ができましたよー」


「とりあえず話はまた今度ね。ご飯にしましょ」


「そうですにゃ。また明日以降も時間はありますからにゃ」


 というわけで、部屋の拡張も含めてこの話は終わり。

 あとは寝るだけだったのだが……。


「なあ、ミキ。なにもこっちにくっついて寝る必要はないだろう?」


「だってこっちにいないとテラやゼファーと一緒に寝られないじゃないですか」


「にゃはは。フート殿は好かれていますにゃ」


「ほんとにね。さあ、寝るわよ」


「「ワフン」」


 こうして、この国の首都、邦奈良の都に向かう旅の一日目は無事終了したのだった。

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