26.天陀の街出発

「うーん、やっぱり日の出とともに起きるって眠たいですねぇ……」


 翌朝、宣言どおり朝一(午前五時)ごろ起き出して身支度を調えハンターギルド向かう。

 だが、ミキは特別眠たそうだ。


「普段はどういう生活をしてたのであるか?」


「そうだな……午前7時といって通じるか?」


「もちろんであるよ。それならばまだ午前5時なのはつらいであろうなぁ」


「そうなんですよ……」


「それにミキって朝は低血圧気味だからね。最近はよくなってきてるけど」


「そこもハンターとしては致命的な問題であるな。邦奈良の都までついたら体質改善も含めて、基礎トレーニングをするとしますかな」


「それはいい案だ。……っとハンターギルドについたようだな」


 ハンターギルドに入るとまだ閑散としていた。

 それともすでにみんな依頼を受けて出て行ったあとだろうか。


「ハンターギルドの朝にヒトがいないのを不思議がっているのであるな?」


「ああ、こう、依頼を探しているヒトで混み合っているんじゃないかと」


「ハンターは依頼を受けてから実際に出発するまで数日を要することも珍しく無いのである。それだけ過酷な場所に行く仕事というわけであるなぁ」


「なるほど。それじゃあ、仕事は基本斡旋形式と」


「であるよ。まあ、邦奈良の都に行けば初心者ハンター向けの仕事が張り出されたりする場合もあるが……あれは別物であるな」


「了解。それじゃ、行こうか」


 受付で話をすると、すでに俺たちのことは伝わっているらしく、そのままギルドマスターの元へと通された。

 もっとも、ギルドマスターの部屋で話すのではなく、裏手にある倉庫に連れて行かれたのだが。


「さて、君たちに頼みたいのは、邦奈良に運ぶ物資の運搬なのだよ」


「なるほど、アイテムボックス持ちにはもってこいの仕事であるな」


「護衛にリオンもつくからな。頼まれてくれるだろうか」


「かまわないわよ。量にもよるけど」


「ありがたい。運んでほしいのは……この箱すべてだ。もちろん、優先順位はつけてあるので運べるだけで十分だ」


「運べるだけね。……私とミキのアイテムボックスじゃ三個が限界だけど、フートなら全部入るんじゃない?」


「ああ、いけそうだ」


「……これだけの数が入るアイテムボックスのレベルが気になるが、藪をつついて蛇を出すのは好ましくないな。とりあえず運んでもらえるならそれでいい。中身は魔物素材だから特に危険はないぞ」


「わかったのである。それでは運送用の書類を用意するのであるよ」


「うむ。すまないが部屋まで戻ってくれ」


 ギルドマスターの部屋に戻り、今回の依頼の依頼票を発行してもらう。

 まさか全部を運んでもらえるとは思ってもみなかったようだ。


「……さて、それではここのギルドで依頼したいことは以上だな」


「わかったのである。それでは吾輩たちは出発するのであるよ」


「ああ、気をつけてな」


「はい、お元気で」


 四人と二匹で車に乗り込み天陀の街をあとにする。

 そのあとは整備された道に沿って走るだけの単調な作業だった。

 なので、リオンからの質問に答えるというのが主な暇つぶしになっている。


「……それではやはり、向こうの世界の記憶はあいまいなのであるな」


「やはり、っていうことは赤の明星って言うのはそういうものなのね」


「そうである。多少の差こそあれ、前の世界の記憶はあいまいになっているのである。特に個人の記憶は」


「個人の記憶ですか……あの神様が言っていたことは本当なのでしょうか?」


「神様が言っていたこと?」


「ああ、気にしないでくれ。……それより、長時間走るのにラジオも音楽プレイヤーもないのではきつくないか?」


「ラジオ、ラジオ……確か赤の明星が提唱した無線方式の通信システムであるな。あれは軍事機密などが漏れる恐れがあるということで禁止になったのである」


「ふーん、ところ変わればってやつね」


「それで、音楽プレイヤーとはどんなやつであるか?」


「音楽プレイヤーはあらかじめ録音……記録していた音楽を流す装置だな。この世界にもオルゴールや蓄音機くらいはあるだろう? それを車に搭載できるようにした感じだ」


「にゃにゃにゃ! それは本当ですかにゃ!?」


「あ、ああ。俺たちの世界……少なくとも俺たちの国では当たり前のように搭載されていたが……」


「それは大発明の予感ですにゃ! うまくいけばがっぽり儲かりますにゃぞ!」


「あ、ああ、そうか」


 リオンの勢いが止まらない。

 っていうか、しゃべり方……。


「ねえ、リオン。しゃべり方がいつもと違うけど、それが素なの?」


「はっ……まあ、素が出てしまったのなら仕方がないですにゃ。吾輩、ケットシーの里ではこのようなしゃべり方をしておりましたにゃ。それで、ヒト族の里に出てきたときにあのしゃべり方に変えたのですにゃ」


「なるほどです。でも、そっちの方がしゃべりやすそうですよ」


「まあ、長年親しんできたしゃべり方ですからにゃ。まあ、不都合がないときはこの話し方でいかせてもらうのですにゃ」


「ああ、そうしてくれ」


 その後も会話を楽しみながら車は進み、暗くなってきたため、本日の野営地にたどり着いた。

 野営地、といってもなにもない場所だけど。


「いやー、生活魔法持ちがいると水と火の心配をしなくていいから楽ですにゃ」


「まあ、それはそうだろうな」


「それで、今日の野営はここにするのですが……なにか含みがありそうですにゃ」


「含みがあるというか、スキルを使えば快適に休めるのよねぇ」


「そうなんですよ。でも、あまり人に知られたくないし……」


「そこが悩みどころなんだよな」


 さて、リオンを信じるかどうかなんだが……。

 どうしたものか。


「そういうことでしたら心配いらないにゃ! ジャジャーン、誓約紙にゃ!」

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