25.宿の一夜
「それでは今日のうちにやらなければいけないことはすべてであるな」
「そうなるな」
「それでは宿まで案内してほしいのである」
「わかった。こっちだ、ついてこい」
ギルドマスターのシーブさんが直接案内してくれるのは申し訳ないと思うが、案内してくれるならついていくしかないだろう。
案内された宿は、リオンによると一般的なハンターが泊まるような宿らしい。
防犯設備にはしっかりしているため、そっちの心配はないのだとか。
あと、俺の従魔であるレッサーフェンリルたちもこの程度の大きさならばまったく問題ないとのこと。
さすがはハンター御用達というところか。
「……ほれ、これがお前たちの部屋の鍵だ。続き部屋だからな。奥側の部屋が女子部屋だ。まあ、部屋の中身は一緒だからどっちがどっちでも一緒だがな」
「……そういうものなのか?」
「本来はダメであるな」
やっぱりダメなんじゃないか。
とりあえず、今日はいろいろあったしゆっくり休みたいな。
……そういえば、ベッドで寝るのって二週間近くぶりか?
「さて、私はこれで行くぞ。また明日の朝寄っていってくれ」
「わかったのである。それではまたである」
「ああ、また明日な」
「さて、それでは宿の部屋に行って旅装をといてから夕食であるよ。まだ大丈夫であるな?」
「はい。もうすぐ終了の時間ですので、お早めにお越しください」
「というわけなので、急ぐのである」
リオンに急かされて向かう俺たちの部屋は、三階の角部屋とその隣だ。
角部屋の方が女子部屋なので、俺とリオンは隣の部屋に入り……おもむろに生活魔法のクリーンを使った。
「にゃ!? どうしたのであるか?」
「なんとなく部屋の中が汚れている気がして……」
「これでもきれいにしている部屋であるが……それにしてもクリーン一発でずいぶんきれいになったのである。一体魔力はどれくらいあるのであろうな」
「クリーンできれいになるのって魔力が関係あるのか?」
「基本はイメージと魔力だと言われているのであるよ。そのどちらもすごければとてもきれいになるのである」
「そっか。まあ、悪いことじゃないし、いいんじゃないか?」
「……そうであるな」
そうして旅装をとく(といってもローブを脱いで杖と一緒にアイテムボックスにしまう)と、ドアがたたかれた。
「フートいる? アヤネよ」
どうやらアヤネが来たようだ。
ドアの鍵を開けようとすると、無音のままリオンが手で制す。
(こういうときは知り合いであってものぞき窓から本人であることを確認するのが基本である)
(なんでまた)
(捕まって無理矢理言わされている可能性もあるのでなぁ)
なるほどねぇ。
こんなときでもハンターの授業か。
早速のぞき窓から確認するとアヤネとミキが立っていた。
装備を外さないままで。
首をかしげながらも鍵を開けてふたりを招き入れる。
「あの、フートさん、宿についたばかりで申し訳ありませんが……」
「私たちの部屋にクリーンをかけてもらえるかしら」
「……やっぱりそれか」
「……赤の明星はきれい好きなのであるなあ」
「なんというか、ほこりっぽいのよ全体的に」
「トイレも備え付けられてますが、あまりきれいじゃないんですよね……」
「これなら私たちも【生活魔法】を学ぶべきかしら?」
「やめておいた方がいいと思うのである。【生活魔法】にも魔力が関係しているのである。魔力の低い獣人族では願っているほどの効果は難しいであるよ」
「ふう……一緒に行動している限りはお願いね、フート」
「了解。っていうか、俺と離れて行動できるのか?」
「私は無理だと思いますので、今後もパーティを組みましょうね」
「あ、ミキ抜け駆けを!」
「……とりあえず、装備を外して晩ご飯に行くのであるよ。クリーンは帰ってきてからでも問題ないのである」
というわけでふたりも俺たちの部屋で革鎧を外してアイテムボックスにしまい、一階の食堂に移動。
ラストオーダーギリギリになってしまったが、しっかりいただくことができた。
メニューは黒パンにブラウンシチュー、サラダにスープがついてきた。
ボリューム感もあり、お値段を考えればリーズナブルと思う。
あと、ミキは全部食べるのが苦しそうだったのでアヤネが黒パンを一個食べていた。
リオン曰くこの程度の量は軽く食べられるようにならないと、体が作れないのでがんばるようにと指導が入った。
さて、部屋に戻ったら女子部屋にクリーンをかけておく。
確かに、不快な匂いが立ちこめていたから、クリーンがほしくなるだろうな。
そして、ついでと言うことで、このまま女子部屋の方で明日以降の予定を打ち合わせとなった。
「まず明日の朝であるが、この天陀の街を出発してこの国の首都
「朝一から出発か?」
「その予定ではあるが……ハンターギルド次第では少し遅れるかもしれないであるなぁ」
「そっか。邦奈良の都ってどれくらいの距離があるんだ?」
「吾輩の魔導車で3~4日と言ったところである。途中で野宿は必要であるよ」
「あー、野宿か……」
「うん? 死道で十日以上生きてきたのであれば、野宿くらいなれたものであろう?」
「んー、そこについてはまた話し合おう。俺たちのスキルについてもあるから」
「わかったのである。ともかく、それくらいかかることは覚悟してほしいのである。なお、途中に宿場町はあるのであるが、急ぎの旅故、無視して野宿の旅であるよ」
「わかったよ。ふたりもいいな」
「反対しても仕方がないしね。承知したわ」
「フートさんが反対でないなら」
「よし、それじゃ、この話は終了ですな」
「他に確認することは?」
「特にないのである。明日は早いので早めに休むのであるよ」
それだけ言い残すと、リオンはスタスタ部屋を出て行った。
さて、俺も残った用事を済ませて戻るか。
「テラ、ゼファー、今日は女子の部屋に泊まれ」
「「ワウ」」
「念のための警備だ。任せたぞ」
「まったく過保護ね」
「ありがとうございます」
「それじゃ、おやすみ」
俺もふたりの部屋を出て男部屋に戻り鍵をかける。
リオンは本人の言うとおりもう寝たのかな?
俺も早く寝なくちゃ。
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