24.従魔登録とレッサーフェンリルの偏食傾向

「シーブさんがです?」


「いや、こちらの彼だ」


「そっちの彼……おお! レッサーフェンリル持ちじゃないですか!! この辺境で同好の士に巡り会えるとは!!」


「……シーブさん、彼女どんな人なんだ?」


「悪い人ではないんだ。ただ、レッサーフェンリルの研究と繁殖に力を入れすぎているというか……」


「私の名前はグラニエ、ヒト族、26歳、独身、現在の研究テーマはレッサーフェンリルからフェンリルへの進化条件の解明です!」


「へぇ。興味あるな。それで成功した回数は?」


「いまだ0であります……。でも、繁殖は成功していますので、ブリーダー仲間に譲り合って研究資金の確保はできているのでありますよ!」


 この世界にもペットショップみたいなものはあるのだろうか。

 後ろをチラ見すれば、ミキが目をキラキラさせてるしあとで聞いてみよう。


「それで、従魔登録でありますが、いくつかの項目にクリアしてもらえれば問題ないのです」


 教えてもらった内容はどれも簡単なことだったのでサクッとクリアできてしまった。

 ただ、問題になったのが最終試験の内容で……。


「うーん、テラもゼファーももう食べていいと言っているのに魔獣肉を食べませんねぇ」


「まあ、いつもの事なんだけどな。水類以外のものを摂取しないのは」


「どういうことでありますか?」


「レッサーフェンリルって魔法を食べて育つだろ? それだけでおなかいっぱいになるらしいんだよ」


「え? レッサーフェンリルはヒトの魔力をもらって成長するのでありますよ?」


 おや、意見の食い違いが出たな。

 これは実践した方がいいか?


「シーブさん、どこか魔法を使えそうな場所って借りれますか?」


「ギルドの練習場なら空いているぞ」


「じゃあそこで実際の様子をご覧に入れましょう」


「じゃあ、私は出張所の閉館処理をしてから行きますね。あ、テラとゼファーは問題なく合格ですよ。これからはこのアイテムを身体の目立つところに身につけておいてくださいね!!」


 渡されたのは、チョーカーサイズの不思議なわっか。

 シーブさんによると、魔導具になっていて、身体のどこにでもつけられるらしい。

 犬系の従魔の場合は前脚につけるのが一般的なのだそうで、前脚に装着しておいた。

 ちなみに、この魔導具、一回なら誤射を防ぎ、二回目からは自動で反撃する機能が備わっているそうな。

 ファンタジー万歳とアヤネやミキは喜んでいた。


 さて、そんなこんなで、夜の帳も落ち暗くなったギルドの練習場へとやってきた。

 このままでは暗いということで、シーブさんが明かりの魔術であたりを照らしてくれた。


「さて、ここまで来たんだ。面白いものを見せてもらえるんだろうな?」


「面白いもの、というか、俺たちにとっては普通の食事風景なんですけどね……まずはテラから」


「オウン!!」


「大地の爆鎖よ……ランドマイン!」


「ほう、レベル3精霊魔法をほぼ無詠唱か。それにきれいな魔力の流れだったな」


「あ、そんなことよりテラちゃんが魔法に向かっていって……食べた!?」


「確かに。魔法を食べたな」


「次、ゼファーな。……そんな興奮した目で見るな」


「うおぅ……」


「風の爆弾よ……ウィンドボム」


「うおぅ!」


「レベル3魔法に躊躇なく飛びついていきましたね。そして、魔法を構成する魔力陣共々魔法を食べてしまいしました」


「とまあ、こんな感じで食事はすませているんですよ」


「あいわかった。なかなかいいものを見せてもらったぞ。なあ?」


「……フートさん。これって他のレッサーフェンリルにも当てはまるんですか!? レッサーフェンリルごとの好みは!?」


「……ええい、少し落ち着け」


「あーええと、まず、他のレッサーフェンリルが食べるかは試したことがないのでわかりません。レッサーフェンリルごとの好みは『主人が使う同属性の魔法』だと思います」


「なるほどなるほど……よし、早速実験です! フレン!!」


 前に進み出てきたのは成体になったとみられるレッサーフェンリル。

 色合いから見て火のレッサーフェンリルかな。


「あなたにはいままで火の魔力を与えてきました。ですが、今日は火の魔法ですよ!」


 グラニエが火の魔法と言った瞬間、フレンの目が見開かれた気がする。

 やっぱり火の魔法が好きなのか?


「行きますよ……火の三元素……フレイムランス!」


 元素って言ってるし彼女の魔法は元素魔法系統なんだろう。

 それでもかまわず、フレンは射出された槍に追いつきそのすべてを食べ尽くした。

 そして、もっとないのかとおねだりしてきてる。


「えーと、フートさん、これは……」


「ああ、レッサーフェンリルって成長段階に応じたレベルの魔法だったら一回で満足するんですけど、そうじゃない場合何回もおねだりするんですよね。おそらく、レベル3の魔法じゃ満足できないのかと」


「そんなぁ。私、最高でもレベル4までしか使えませんよぉ」


「じゃあ、次の実験。フレンが私の出した火を食べるかどうかね」


 言うが否やシーブさんが拳に火をともす。

 確かレベル1火魔法だったかな。


 それをフレンは見ているが、あまり興味は示さない。

 シーブさんが寄っていって拳をフレンの前に突き出すと、一応食べたのだが、すぐに吐き出してしまった。

 結果的に言えば魔法をかき消しただけだった。


「ふむ、やはり契約者以外の魔法は受け付けないようだな。これから勉強がんばれよ、グラニエ」


「うぅ……これもかわいいレッサーフェンリルちゃんたちのためです。がんばって見せます……」


 ちなみにフレンだが、レベル4の魔法をもう一発食べさせると満足したようだった。

 グラニエいわく「餌代は下がりますが、MPがきついです」とのことだ。


 そして最後にグラニエに聞かれたことがあった。

 この研究内容を信頼できる仲間内で共有して、いずれは論文として発表したいとのことだった。

 小難しいことはよくわからないのでみんなの意見を聞くと、仲間内で研究内容の共有はOK。

 ただ、論文を出すときは首都ハンターギルドとテイマーギルドそれぞれのマスターによる決裁を取ることと条件がつけられた。

 なお、その論文はギルドマスターが決裁の前時点で俺たちにも確認、指摘権限が与えられるそうだ。


 そして、最後に仲間内で情報共有するときに赤の明星である俺の名前が出ることはよろしくないことらしい。

 なので、別のペンネームを考えてほしいといわれて思いついたのが『二狼使い』だったが、それではバレバレなので却下された。

 結局は女子勢がつけた『黒ペンさん』という名前に落ち着いたのだが……げせぬ。

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