16.その夜に

「さて、そろそろあたりが真っ暗になってきたし、もう寝ましょう。明かりの魔導具だって魔石を消耗するんだからね」


「わかった」


「はーい」


 寝る支度といっても、ぞうきんで一回床を拭いてから、その上に毛布や毛皮を出して寝るタイプだ。

 個室ができればまた変わるんだろうけど……二部屋できるまでは一緒かな。


もぞもぞもぞもぞ


 そんなことを考えていると、遠くの方で寝ていたはずのミキが近くまですり寄ってきていた。

 なにをしているんだコイツは。


「……なにか用か、ミキ」


「あ、あのですね、昼間のお礼を言いたくて」


 それならもぞもぞはいだしてくる必要もないだろうに。


「それからできればフェンリルの子供たちも見たいなーと」


「メインはそっちか」


「あ、お礼もちゃんと言いにきたんですよ。本当にありがとうございました。腕のほうも痕すら残らずに直していただいて……」


「まあ、そういうのはいいや。それで、フェンリルたちだが……」


 俺の後ろに回って完全に警戒モードだな。

 こうなるとどうにもならないか。


「あーそっちは諦めてくれ」


「……わかりました。でも、そばで寝るくらいならかまわないですよね?」


「は?」


 俺が疑問を挟む暇もなく、ミキは俺の隣に簡易寝所を整えてしまった。


「別にいいですよね? 今日からここで寝ても」


「かまわないが……アヤネはいいのか?」


「私もかまわないわよ。それじゃミキをよろしくねー」


 俺の意見は軽く無視されて、俺とミキはすぐ隣で寝ることになってしまった。

 まったくなにがあったのやら。


「……フートさん、私、昼間の戦いでまったく役に立ちませんでしたよね」


「ん? あー、まあ。そうだろうな」


 実際、ミキの突撃がなかったとしても熊の討伐には特に問題はなかった。

 むしろ……。


「瀕死のけが人なんて背負わせてしまって、短時間で対処しなくちゃいけなくなり、本当に大変でしたよね」


「否定はしないよ」


「なのに、アヤネさんって私のこと一言も責めないんですよ。役に立たなかったのは自分も一緒だからって」


「確かに、すぐに引いたかどうかの差だったからなぁ」


「……私、いなくてもいい存在なんですかね?」


「そんなことはないぞ? というかどうしてそういう思考になる」


「だって、これだけ迷惑をかけているのに、アヤネさんもフートさんも私のことちっとも責めないんですもん。いなくても同じなのかなって」


 むぅ、これは根が深いぞ。

 というか、これを知っていて渡してきたのかアヤネは。


「とりあえず、俺がミキを責めない理由は、二度と同じ間違いはしないと思っているからだ」


「……そうなんですか?」


「人は間違いを冒す生き物だからな。どんなに注意していたって間違いはあるさ、こんな異世界だしな」


「……でも、私はひょっとしたらアヤネさんやフートさんが死にそうになっていたかもしれなくて……」


「それこそあり得ないさ。アヤネも俺も自分の命に関しては慎重派だ。仲間を助けるからといって不可能なことを行おうとする愚はしないよ」


「でも……」


「……ふぅ。それじゃあ、俺から一言だけ。今度からは目先の欲にとらわれるな。お前の強さはなんだ?」


「私の強さは……高い素早さによる一撃離脱の戦闘方法ですか?」


「そうだな。いままではスキルが強かったから無理ができた。でも、これからはそういうわけにはいかない。今度からは何発か当てたら、すぐに離脱するんだ。できるな?」


「はい! がんばります!」


「よし。ミキが動きを止めてくれれば、俺も魔法を撃ち込みやすい。よろしくな」


「はい!」


 よし、元気が出たようだな。

 これで大丈夫だろう。

 あとは……。


「ミキ、これで悩みは解決したよな」


「はい、バッチリです」


「だったらアヤネのほうに戻って寝ないか?」


「……? 私はここでも大丈夫ですよ?」


 俺が気にするんだがな……。

 それを口に出すと意識しているみたいで恥ずかしい。


 どうしようかと思っていると、そこに救世主が現れた!


「わ、テラ、ゼファー」


「ああ、二匹ともここで寝るのか?」


 二匹が俺とミキの間に入り込み、寝る姿勢に入った。

 ミキのほうは……ここに来た理由のひとつがこの子たちとのふれあいだから目が輝いているな。

 ただ、なでようと手を伸ばしたら、尻尾ではたき落とされているけど。


「ミキ、子供たちがかわいいのはわかるが、ほどほどにな。それじゃ、おやすみ」


「あ、おやすみなさい。……ありがとうございます」






「ふわぁ……よく寝た」


 朝日が昇った様子なので目を覚ます。

 最近はこの生活にも慣れ始めてきた。


「……じー……」


「……なんだ、ミキ。そんなに見つめて」


「なんでもありません。おはようございます、フートさん」


「ああ、おはよう」


「それじゃあ、私、朝ご飯の準備をしてきますね。アヤネさんがまだ眠っているので起こしてあげてください」


「ああ、わかった。朝食は、よろしく頼む」


「はい。それでは、おはようございます。……また言わせてくれてありがとうございます」


 また言わせてくれて……か。

 悪くはないな。


 さて、アヤネを起こすとするか。

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