6.初戦闘からの

「敵の気配!? 三匹ってどれくらいの速さでくるの!?」


「あと10秒もあれば戦闘開始だ。急いで戦闘準備を!」


「わかりました! 先ほどの説明どおり私とアヤネさんが前に出ますので、フートさんは後方から魔法で援護を!」


「わかった! とりあえず支援魔法を、オフェンスアップ、ガードアップ!」


「サンキュー!」


 できた援護はここまでだった。

 森から飛び出してきたのは木のツタに覆われた狼のようなものが三匹。

 知能はそんなに高くないのか、まっすぐアヤネに突撃していく。


「なんなの、この寄生された狼みたいな化け物!」


「アヤネさん! そんなことよりしっかり受け止めないと!」


「それもそうね! でぇい!」


 見た目よりはるかに頑丈なその盾で狼の突進をしっかり受け止めるアヤネ。

 そして、狼の側面に回ったミキが狼たちに打撃を加えていく。


「ッ!? 見た目よりも重い!!」


「アヤネ、ミキ、下がれ! 魔法の準備ができた!」


 俺の指示で二人が狼たちから距離を取る。

 そしてそこに俺が魔法を撃ち込む。


「ファイアーボム!」


 赤色の球体がまっすぐに飛んでいき、狼たちの中央で大きくはじける!

 直撃を受けた狼は体がバラバラに吹き飛び沈黙した。

 しかし、残り二匹は体が燃え上がりながらもまだ殺意をみなぎらせたままだ。

 そして、いまの攻撃で完全に俺の事を脅威だと見なしたらしい。

 燃え上がる身体を無視して、俺に突っ込んで来た!


「そうは問屋がおろさないっと!」


 まるで計算どおりとでも言うかのように間に割り込んできたアヤネ。

 盾をうまく使って二匹の狼をはじき返した!


「フート、とどめを刺すならいま!」


「了解! ライトニングボルト!」


 今度は雷系統の魔法を使う。

 さっきの様子からして火系統が弱点のようだが、いまはアヤネが射線を塞いでしまっているので使えない。

 その点、雷系統なら直線軌道が使えなくても大丈夫な魔法がいくつも存在しているので便利である。


「GRYOOO!!」


 雷撃を食らった狼は小さなうなり声を上げて倒れた。

 どうやらこれで戦闘終了のようだ。


「……やった。勝てたんですね、私たち」


 ぺたんと座り込みそんな言葉を漏らすのはミキである。

 最初は緊張状態だったから気にしてなかったが、緊張が解けたことで腰が抜けた……まではいかなくても気が抜けたんだろう。


「……本当に死んだの? フート?」


 疑いの声をかけてくるのはアヤネ。

 一匹目は魔法で爆発四散したので疑いようもないのだが、残り二匹は五体満足なので怪しいのだろう。


「ああ、死んでいるはずだ。気配察知にも引っかからないしな」


「ふーん。あ、気配察知ってどんな風にわかるの?」


「どんな風と言われてもな……近くに生物が近づいてくればわかるとしか。それが敵対的なのか、友好的なのか、中立なのかもわかるぞ」


「なるほど。ゲームのミニマップみたいなのが感覚的にわかるのね」


 なにやら小声でつぶやいているが……とりあえずステータスを確認するか。

 MPをどれくらいしたのかを確認しないとな。

 なお、さすがに俺でもHPとMPの意味くらいはわかる。


「……あれ?」


「どうしたんですか、フートさん?」


「MPがもうほとんど回復してる?」


 さっきのファイアーボムはそれなりに威力のある魔法だったはず。

 それなのにもうMPが回復しているとは……。

 この初期装備、かなり性能がいいのでは?


「それはいいことね。ちなみに、私はMPを4割くらい消費してまだ半分も回復していないわ」


「私も同じくらいです。フートさん、どうやったらそんなに回復するんですか?」


「このローブに魔力回復速度増加がついているんだよ。これなら、もっと魔法を連発しても大丈夫そうだな」


「……でも、フートさんが魔法を連発してしまうと私たちが危険ですよね」


「そうね。フレンドリーファイアが恐いわ」


 フレンドリーファイアって……同士討ちか。

 確かに、俺の魔法じゃ味方を巻き込みそうだし、今のままだと射線が通ってなくて攻撃できないとかもある。

 これは練習が必要だな。


「とりあえずケガをしていないか? 回復魔法で回復するぞ」


「あ、お願いできる? ちょっと腕の調子がおかしいのよ」


「私は大丈夫です。ステータスも見てみましたが、HPは減っていませんでした」


 ミキは回復の必要がないそうなのでアヤネに回復魔法をかける。

 今回は一気に回復する魔法をかけてみたが、アヤネ曰く「いきなり手首や腕の調子がよくなって気持ち悪い」とのこと。

 連戦の危険がないときはゆっくりじわじわと回復する魔法をかけた方がいいのだろうか?


「……さて、魔物を倒した以上、お約束のアレよね」


「……アレですよね」


「アレってなんだ?」


 女子二人があからさまに警戒しているがなにをするつもりなのだろう?


「決まっているでしょう"解体"よ!」


「魔物を倒したら解体しないといけないんですよね……」


「……まあ、生き物を倒したらそうなるか」


 解体か……そんな経験はないな。


「でも、どうやってやるんだ? 俺たち、ナイフの一本も持ってないぞ?」


「あ……」


「どうすればいいんでしょうね……」


「……とりあえず、獲物を見てみましょう……ってあれ?」


 アヤネがなにかに驚いている……って?


「確かここに倒した狼が二匹いましたよね?」


「そのはずだが……消えてなくなってるな?」

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