第33話 あなたの傍にいつまでも File 15
静かに進む時間の流れ。
そして荒々しくアッという間に過ぎ去る時間。
アメリカに来てからの私の時間の流れは瞬く間に過ぎ去る。
一日が足りないと思う日々がほとんどだったと思う。
あれからもう18年。
今私はようやく、自分を振り返ることが出来るようになった。
大学に入学し、あの日々の過ぎ去る早さは今までにない位大変だったけど、私の人生の中では大きく変化をもたらせてくれた時期だった。
最も、私がここまで来れたのは、……。
あの時、久我雄太という、一人の男性と出会えたことにあったと思う。
久我雄太。忘れることの出来ない人。
私の本当の意味での初恋の人。
彼との出会いがあったからこそ、今の私があるんだと思う。
「なぁ美愛。本当にまた飛行機乗るのか?」
「あんたねぇ、いい加減その飛行機嫌い何とかならないの?」
「あ、無理よ! 徹は。この人、何度飛行機に乗っても馴れないんだもん、私もうこれに関しては諦めたわ」
「ああ、レイア。あなたが諦めたというくらいだから私も匙投げないといけないのかしら?」
「あれぇ、美愛はとっくにそうしてるんだと思ってたけど? まだ諦めていなかったの?」
「さぁどうだか……。でもさぁ、もうちょっとしゃんと出来ないの。あんたは」
「うるせいわ、これでもいつもよりは決めてるんだぜ!」
「まったくもうそう言って、ほら、ネクタイ曲がってるし、頭もうちょっと何とかならなかったの?」
「この頭はエミリーとミリアが俺の頭掻きむしったからだ」
「う――――ん、やっぱり連れて来れば良かったかしら。二人とも。寂しいかったのかなぁ」
「はぁ、いいんじゃないのぉ。だってあの子たち、おばあちゃんにべっとりなんだもん。それにうるさいママが居なくてせいせいしてるんじゃないの。あのにっこりとした笑顔しちゃって見送りするくらいなんだもん」
「レイア、あなた妬いてる?」
「もう、これが妬かづにいられる訳ないでしょ!!」
エミリーとミリア。私にとっては可愛い双子の女の子。あ言っとくけど、私の子じゃないからね。
あの子たちは、徹とレイアの愛しい娘たちなんだもん。
レイアはあんなこと言っているけど、本当は子供たちと離れるのがとても寂しんだよ。
そうなんだ。あれからレイアと徹は結婚した。
あのレイアと徹がねぇ……。今考えても不思議だわ。こっちに来た時は英語なんて話せなかった徹も、今ではいっちょ前に悠長な英語を口にしている。
で、気が付けば二人はなんと恋人同士になっちゃってたんだよぇ。
徹と私のルームシェアは大学時代続いたかなぁ。その間ま、いろんなことあったけど、一番驚いたのがレイアが私たちの所に住み込んじゃった事かなぁ。
そ、私たち3人はあのマンションでルームシェア? していたんだよ。
ま、私は徹の事なんかあんまり気にはしていなかったんだけど。え、それ嘘だって? 本当だよ。だってさぁ、あの人以上の人との出会いなんてなかったんだもん。
そう、私の初恋の人。久我雄太。
あれから何度か日本に帰国したけど、雄太さんと会う事はなかった。
ううん、あえて私は会わなかった。
アメリカでの住所も教えていない。
ただ、一度だけ私の元にエアメールで送られてきた封筒があった。
叔父さんが送ってくれたものだった。
その中に、二人の結婚式の写真が同封してあった。
桜が咲き乱れるチャペルの中庭で白いタキシードを着た雄太さんと、純白のウエディングドレスに包まれた香さんの姿が写された写真。
無事に二人は結婚したんだ。
その写真を見て……。
私は泣いた。
思いっきり泣いた。
だから、あの時思いっきり泣けたから、今の私がここにあるんだ。
今も私はそう思っている。
大学を無事卒業した私たちは、それぞれの道に進んだ。
それでも私たち3人は離れることはなかった。
最も徹は先行する理工学分野が野木崎重工と関り、今ではアメリカ支社の開発部のメンバーとして忙しい毎日を送っている。
レイアは、アンディさんの事業を引き継ぎ、私もその共同経営者として事業をこのアメリカで展開している。それともう一つ、いや二つかな?
ま、一つは私に付いてくるものだから仕方がないんだけど、会社、叔父さんが社長を務めていた野木崎重工の役員という事になっている。
今は叔父さんももう、社長職を退任して、自由気ままな老後生活を送っているようだ。
そしてもう一つは……。それは今は内緒にしておこう。
まだ形にもなっていない夢の世界の様なものだから。
ただ一つ、私の願いは……。
どんなに小さくても、些細なことかもしれないけど。
辛い想いに、一本の線を付け加えられたらと、辛いは必ず幸せになるんだという事を伝えたい。
「ああ、疲れたぁ!」
11時間のフライトだった。直行便とはいえ、さすがに躰がバキバキだよ。
もう何年も日本には帰っていない。
「久し振りの日本かぁ。なんだか懐かしい空気の匂いがするよ」
「ううううっ、俺もう飛行機なんか乗りたくねぇ! 帰りは船で行く!」
「あんたねぇ船でなんてそんな優雅な事言ってられないんでしょ。さ、行くわよ!」
レイアに尻を叩かれながら、徹は野木崎重工東京本社に出向する。
「それじゃ、美愛、あなたは自分の約束を果たしてきてね」
「うん、そうするよ」
「ああ、お前の為にもな」
「何よぉ徹! あんたはこういう時にだけいつもカッコつけるんだから」
「うっせいわ! 応戦してやってんのになんだよ!」
「まったくまた喧嘩してる。ホントあんたたちはよくケンカするねぇ。喧嘩するほど仲がいいって言うけど、ほんとみたいだね」
レイアがあきれて言う。
「違うは!」
二人声をそろえて言うと、レイアがバシッと徹の頭を叩いた。
「あんたねぇ、美愛はいいとして、私にそんな事言える立場なの? さ、行くよ!」と襟元を攫まれ「それじゃ美愛。またあとでねぇ」と徹を引きずるようにして歩き出した。
「ふぅ―、仲がいいのはあんたたちの方だよ。レイア、徹。さ、私も行こうか」
私の友人との約束を果たしに……。
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