第31話 あなたの傍にいつまでも File 13
ああ、なんかセンチメンタルになっていたのが一気に吹っ飛んだ。
離陸してから、湯崎君はずっと私の手を握り
「お、落ちねぇよな。……こんなんデカいのが空飛んでるなんて信じられねぇ」
顔を青くして騒いでた。
たぶんそんな湯崎君を見かねたんだろうアテンドさんが、シートベルトサインが消えてから、すぐにやってきて
「ご気分大丈夫ですか?」と訊いてきた。
「えと、えと……」
「あ、大丈夫です。飛行機初めてみたいなんで、ちょっと緊張しているだけですんで」
にっこりと微笑みアテンドさんが「大丈夫ですよ」と言ったおかげかどうかは分からないけど、落ち着いたみたい。
隣で見ていて恥ずかしいやら、面白いやら。
気が付けば日本からもうすでに遠ざかっていた。
「ところで湯崎君」
「ん、な、なんだよ野木崎」
「いつまで私の手、握ってるの?」
「へっ! あ、ご、ごめん」
今度はなんか顔が一気に赤くなってる。
「面白いね、湯崎君。君そんな人だったの?」
「な、なんだよ」
「だって青くなったり赤くなったり。今度は黄色になるのかなぁ」
「――――あのなぁ、俺は信号機じゃねぇ……たぶん」
自覚はあるんだ。でも偶然と言うのは怖いもんだなぁ。まさか中学の時のクラスメイトが同じ飛行機に乗り合わせて、しかも席も隣同士だなんて。
何かの悪戯かな?
て、おい! 湯崎君。君寝てんのか? しかもいびきかきながら。
それもすんごい、いびきだよね。ちらっと前の席の人の視線を感じた。
んッと、私も知らないふりしよ。
映画でも見てよっかな。まだ旅は始まったばかりだけど。
結局湯崎君は飛行機の中では、ほとんど寝ていた。
特別会話が弾むわけもなく、ただ隣にいる人だと言う感じ。
ようやくロスについて飛行機から降りた時
「俺、もう二度と飛行機なんか乗らねぇ」て、言っていたのがなんか笑えた。
入国審査も難なくパス。
「んッと。さすがに体痛いなぁ」ようやく座席から解放されて躰がバキバキに痛い。
「それじゃぁな野木崎。俺こっちだから。また機会があったら会おうぜ」
にカッと笑う顔は何となく見覚えがある顔だった。
「あ、うん。湯崎君も頑張ってね。何しにロスまで来たのかは分かんないけど」
「ああ、お前もな。それじゃ」
私たちは空港で別れ……。
ええッと、こっちか。
「ん?」
ああ、こっちの方に行くんだ
「あれ?」
初めての街……。て言う訳でもないんだけどね。中学の時にホームステイしてたのはこのロスだったから、なんかちょっと懐かしい感じが漂う。
これから私が住むところは、そのホームステイでお世話になったアンディさんの所だ。
連絡をした時、アンディさんは私の事をはっきりと覚えていてくれた。
私がロスの大学に行くことになり、場所的にもアンディさんの所は便利がいい。
それに知らない人でもない訳で、安心も出来るという折り紙付き。
しかもだ、アンディさんはマンション経営者だ。私の為に一室を提供してくれると言う。本当にありがたい。
これから新たな場所で、新たな生活が始まる。そう、何もかも私は新たな……。
「んショッと」
で、……何で湯崎君が、今私の隣にいるんだ?
「あっ!」
あっ、じゃないんだけど。
「な、なんだ。野木崎後ついてきちゃったのかよ。お前大丈夫かぁ! ロス初めて何だろ。ま、そう言う俺も初めてなんだけど。でもさ、いくらなんでも先に言えよ、分かんねぇだったら。何も俺の後ついてこなくたっていいのに」
「……あのぉ、別についてきたわけじゃないんだけど」
「あ、そうか野木崎、お前英語駄目なんだ。まったくしょうがねぇなぁ、俺もそんなに話せるわけじゃねぇけど、ま、お前よりは話せるから安心していろや」
「え――――っと」
「だからさ、野木崎、お前の行先教えてくれれば俺が連れってやってもいいんだって言ってんだ。まったく、何年たってもお嬢様なのは変わらねぇな」
その時一台の車が私たちの前に止まった。
車の後部座席から降りて来た、ガタイのいいというか、いやいや、大きいんだよ、作りそのものが。て、言う感じのおばさん。
おばさんって言ってたら怒るよね。一目で分ったよ。
アンディさん。
アンディさんもすぐに私の事が分かったんだろう。
『How were you. MIA!(元気だった美愛)』とあの大きな体で私を抱きしめてくれた。
ぎゅっと抱きしめられながら、『Long time no see. Andy(お久しぶりアンディさん)』と答えると。
<ここからは英語なんだけど>
「相変わらず綺麗だよ。いやもっと綺麗になったね美愛」
「ンもぉ! アンディさんも何も変わらない。またこうしてあえて嬉しいよぉ!」
さらにぎゅっと私を抱きしめる力を強くするアンディさん。
「嬉しいこと言ってくれるよ。私のもう一人の娘、美愛」
「もう苦しい! 苦しいよぉ!」
その時車の中からもう一人の声がした。
「ちょっとぉ! ママ。美愛苦しがってるじゃん」
「えっ!」
そして車から降り立つ若き女性。
「ハァ―ィ、美愛。元気そうだね」
赤茶けたロングヘア―をシュシュでツインテールにして、見た目ちょっとツンツンとした感じに見える女の子。と言っても私と同い年。
本当は見外見とは違って物凄く泣き虫で、物凄く弱虫な女の子。あ、後、凄い人見知りで恥ずかり屋さん。
「もしかして……レイア?」
「んっもぉ! ママいつまで美愛と抱き合ってるの、私も美愛とハグしたいんだから!!」
「ごめんねレイア。それじゃ」
私の躰からそっとアンディさんは離れ、にっこりと笑った。
「やつたぁ! 美愛ぁ―。久し振りぃ!!」
今度はレイアが私の躰に抱きつく。
「うん、久し振りだねレイア。背、大分伸びたんだぁ」
「うんうん、伸びたよぉ。もうちびっこなんて言わせないんだから!」
「なははは、もう言えないね」
「そうだよ美愛。……でもさぁ、美愛も成長したね……ここが」
と、言いながらレイアの人差し指が私の胸に押し込まれていく。
「あはは、凄いく柔らかぁい!」
「もう、レイアってば、いきなりなにすんのよ!」
「いいじゃん、減るもんでもないしさ」
「まったくもぉ!」
「えへへへ」て、はにかむレイアも変わっていない。
久し振りにこの親子に対面できて私は本当に嬉しかった。
「ところでさ”あれ”何なの?」と、ポケッと突っ立ている湯崎君に指をさし、レイアは。
ニタぁ―とした顔になる。
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