第24話 あなたの傍にいつまでも File 6
未来は変えられる。
愛美ちゃんはそう言った。
そして私たちが見ていた夢の世界は現実の世界へとすり替わっていく。
私たちのそれぞれの想いが交差した世界が広がっていく。
もう後戻りは出来ないんだね。
そっかぁ、私はこの新しい世界で生きていくんだ。
生かされたんだ。
ならばこのまま、雄太さんといつまでも……。
ううん、それはやっぱり出来ないんだね。
この想いは叶わない想い。だから私は生かされたんだ。
「ねぇ美愛ちゃん。これからあなたがしなければいけない事、少しは気が付いてくれたかなぁ」
「なははは、何となくね。愛美ちゃん」
「そっかぁ。美愛ちゃんにとっては辛いけど、頑張ってね」
「うん、私は自分のこの想いをちゃんと雄太さんに届けるよ。――――そして、ちゃんと『フラれるから』」
そうなんだ、私は雄太さんからフラれなきゃいけないんだよ。
分かり切った結末。でも、最後まで私のこの想いを完結させるためにも私は雄太さんに自分のこの想いをぶつけないといけない。
私はにっこりと笑って愛美ちゃんに言った。
「ちゃんとフラれてくるよ。これは、リベの為じゃない、そして愛美ちゃんの為でもない。これから私が生きていくために必要なことなんだよきっと」
愛美ちゃんの腕の中でリベが『にゃぁ』と鳴き。
「強くなったね美愛ちゃん」と言った。その言葉がなんだかとても嬉しかった。
「これで私が描いたあの世界は無くなってしまう。でもこうして新しい世界が流れ始めている。私が想い望む世界がこれから動き出す」
『ありがとう。美愛ちゃん。そして愛美ちゃん』
それがリベと通じ合えた最後の言葉だったんだろう。
愛おしく見つめるリベの瞳を私は見つめ「ありがとう」と言った。
リベはその言葉を感じ取ったかのように『にゃぁ』と鳴いた。それから、何か一つの魂が私から抜けたような感じがした。
「さてと、ようやく私の任務もこれで終わりかなぁ。まずは美愛ちゃん、ちゃんと目覚めてね。そして私を起こしに来てください。これは約束だよ」
「うん、約束だね。必ず愛美ちゃんを起こしに行くから」
「楽しみだなぁ。その時に出会う美愛ちゃんはどんな姿になっているんだろうね」
「うううううっ、そんな期待しないでよ。私だってこれからどうなるのか、まったく分かんないんだから」
「大丈夫だよ美愛ちゃんなら。――――それじゃ指きりしよ。必ず約束を守るって」
うん、ハイ。「指きりげんまん。指切った!」
「それじゃぁね……美愛ちゃん。また会うその日まで」
―――――うん。さようなら。愛美ちゃん。
ゆっくりと瞼を開けると、病室の窓から朝陽が差し込んでいた。
とても長い間眠っていたような感じがする。
本当に長い夢から覚めた感覚がする。
「そっかぁ、ここは病院だった」物思いに呟き、躰を起き上がらせる。
まだ少しめまいがする。
戻って来たんだ――――私。
窓辺に映る空を見つめ。「空、青いなぁ」と呟いた。
あの白い空。その空はたぶんこれから自分で色を塗るために白く見えていたんだと思う。
黒い空はいらない。私は……この青空に。
新たな自分の願いを込めたいと思った。
その時、病室のドアをノックする音が聞こえた。
まだ、朝早い時間。看護師さんが見回りに来たのか。スーとスライドドアが動き開かれると、そこには雄太さんの姿があった。
「よ! 起きていたか。おはよう」
「お、おはよう。……物凄く早いんじゃない? どうしたの、今日は土曜なんだから会社休みでしょ、ゆっくりといつもの様に寝ていたらいいのに」
「朝早いと涼しくて気持ちいな外」
「ふぅ―ん。そうなんだ。だから早く来たの?」
「えっと、まぁな」
ああ、なんか素直じゃないなぁ私。決まってるじゃない、雄太さん私の事が心配でこんなにも朝早くに来たんだよ。本当はさ、まだ眠いんだよね。頭、ぼさぼさだよ。でもさ、そのぼさぼさ頭、意外と気に入っているんだ。
「いつまでそこに突っ立てんの? こっち来て座ったら」
「お、おう」ちょっと恥ずかしそうにしながら雄太さんはベッドの横にある椅子に腰かけた。
「調子はどうだ?」
「……うん、おかげさまで大分いいみたいだよ」
「そうか、良かったな」
「うん、大変ご迷惑とご心配をおかけいたしました」
ペコリと頭を下げると
「な、なんだよ。ずいぶんとしおらしいじゃねぇか。ま、大事に至らなくてよかったよ」
「ほんとにね……」そう言いながら私の視線は、雄太さんの姿をすり抜け空を見つめていた。
静かだ。陽の光が徐々に強くなっていくのが分かる。だけど、今私たち二人がいるこの部屋の中はとても静かだ。
「あのね……雄太さん……」
「うん、なんだ美愛」
「私ね、……雄太さんの事が”好き”です。私あなたに『恋』しているんだ」
意外と普通に言えたね。
もっと心臓がドキドキしちゃうのかと思ったけど、そんなのもないし、ホント普通に会話しているような感じで言えちゃった。
そっと視線を雄太さんに向けると、彼は私の手を取った。
温かい手だ。優しさが雄太さんの手から私の手に伝わってくる感じがする。
その温かさを感じながら、彼が返す言葉を私は訊いていた。
「……そうか。…………ありがとう。美愛」
手を放し、その手は私の躰を抱きしめた。
強く、私の躰を抱きしめ、そっと彼の唇が私の唇と重ね合った。
ちょっとびっくりしちゃったけど、次第に躰の力が抜けていくのを感じていた。
たぶん、最初で最後の……雄太さんとの『キス』
それが雄太さんからの答えだという事は、言葉でなくとも通じていた。
そっと彼の唇が私から離れた時、その『恋』が終わりを告げたことを知る。
「……ごめん」耳元で呟くように雄太さんの声が聞こえていた。
これでいいんだ。
……これで。
そのまま雄太さんは病室を出て行った。
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