第23話 あなたの傍にいつまでも File 5

「なんか気が合うね」

「そうね。二人のお子さんだから?」

「んー、お子さんつて言うのは本当だけど、なんかそう呼ばれるのも変な感じがするんだけど」


「じゃぁ、愛美ちゃん。私の事も美愛でいいよ」

「そんじゃ美愛ちゃんで行こう」


「あはは、いいよぉ。でもさぁこれ声で言うとなんともないけど、文字にしてると物凄く混乱しそうだね。名前の漢字が逆転しているだけだから」

「言えてるね。私も美愛ちゃんから送られた手紙、差出人を見て”えって”思ったもん」

「手紙? 私手紙なんて送っていたの?」

「あ、そうかまだ送っていなかったんだ。ん――――でももしかしたら送らないかもしれないね」


「どう言う事よ」

「いいのいいの。でもね。一つだけ美愛ちゃんに伝えたいことがあるんだ」

「伝えたい事って?」

「ええッとね。中途半端に終わらせちゃだめだよって」

「中途半端って……何なの?」


「んっもう、ホントにブチんなんだから美愛ちゃんは!!」

「にブチんって何よ! 私のどこがにブチンなのよ!」

「あのね、私から言わせたいの? これって私から言ったら物凄く変なことになるんだからね」

愛美ちゃんは顔を真っ赤にさせて言う。


「一度しか言わないからね。いい、私だって大好きなんだからホントにもう!!」


『パパに、久我雄太に、好きですって自分の気持ち伝えなさい』


「はへっ! えっと……ええええええええええ!! い、言えないよそんな事。だ、第一わ、私達そんな関係じゃないんだから……多分(ここは小声になっちゃった)」


「アぁあ。まだそんなこと言ってんだぁ。私全部知ってんだよ美愛ちゃん。だってあなたが手紙に書いてたんだよ。久我雄太の事が好きですって。その想いを伝えることが出来なかったのが一番辛かったって」

「えとえと……それってホントなの?」

「ホントよ! 信じなさい。て言うよりそうなんでしょ」

今度は私の顔が物凄く熱くなちゃった。たぶん真っ赤だと思う。

「ほら、顔真っ赤になってるよ!」


だから言わないでよ! 愛美ちゃん。物凄く恥ずかしいんだから。

「でもねでもね。もしもよ、私が雄太さんに本当の気持ち言って『好きです』なんて言っちゃって、私と雄太さんが結婚なんて事になっちゃったら。……愛美ちゃん生まれて来ないなんて事になるんじゃないの?」


「うわぁ! 美愛ちゃん凄い自信だねぇ。もうすでに結婚すること想定しちゃってるなんて」

「うわうわ。えっとえっと。あ、あのね。結婚。えっ嘘私と雄太さんが結婚するの? ど、どうしようね……愛美ちゃん」


「だ、大丈夫、美愛ちゃん? 相当舞い上がってるみたいだけど」

「だ、大丈夫だと思う。……たぶん」


そりゃぁね。言いたくても言えない事を言うなんてさ、勇気もいるけど、言いたくてうずうずしているのは本当の事だから。


「ちょっと落ちつこうか。なんか変な心配もしているけど、たぶん私は生まれてくるはずだよ。そこは心配しない方がいいと思うんだけどなぁ。ねぇ猫ちゃん」

愛美ちゃんは、ずっと私の横で座っていたリベを抱きかかえて言う。


「あれ、リベ大丈夫なの?」

「そっかぁ、お名前はリベちゃんて言うんだ」


リベを抱けるのは私だけ。リベは他の人から抱かれようとされると、いつもスルリと逃げていたのに愛美ちゃんにはおとなしく抱かれている。

「どうしてリベ、愛美ちゃんは平気なの?」


リベは語り掛ける。

「うん平気だよ。だって、私の想い人の血がこの子には流れている。あの時私が一瞬で好きなった人の血が流れているんだもの」

「そっかぁ、そうだったよね。リベちゃんもパパの事好きだったんだよね。でもさぁホント妬けちゃうなぁ。ママはさぁ、百歩譲って許しちゃうけど! こんなにもパパの事が好きな人がいたなんてさ、ホントさすが私のパパだよ」


「て、さ。愛美ちゃんも雄太さんの事……」

「うん好きだよ。大好きだよ。パパとしてじゃなくて、一人の男性として私はパパの事が大好きなんだよ」

ああ、ここにもいたんだ、麻衣とおんなじ子が……。


「でもさ、それって報われない恋って言うんじゃないの?」

「そうだね。もちろんママの事も好きだし、ママからパパを奪おうなんて思ってもいないよ。そう、これは報われない私のただの想いだから。それでいいんだ。でもね、ここの所パパとママの仲がちょっと険悪なんだ……う――――ん。ちょっとじゃないかもしれないなぁ。非常にやばい状態かもしれないんだよ。それもこれも美愛ちゃんがちゃんと最後まで自分の想いを遂げなかったからだよ」


「ちょっと待ってよ。雄太さんと香さん、またそんなに険悪な状態になちゃったの?」

「そうなんだよ。このまま行ったら別れちゃうかもしれない。そんなの私は嫌だし」


「まったく懲りないねぇ。また香さんが意地張ってるんでしょ」

「う――――ん。どうだろうね。たぶん意地張ってるのはパパの方じゃないかなぁ。仕事仕事って、ママの事遠ざけている感じかなぁ」


「はぁ、今度は雄太さんがねぇ。でさ、どうして私が原因な訳?」

「だからさぁ、ホント美愛ちゃんは、にブチンさんだっていうんだよ。ママだよ! あの蓬田香だよ。ああ見えてほんと嫉妬深いんだよ。分からない一緒に暮らしていて」

「なははは、ごめんねぇ。何にも感じてなかったわ。まさかねぇ香さんが私に嫉妬していたなんて思ってもいないよ今でも」


「ママの特技はねぇ、絶対に自分を表に出さない事なんだよ。でもさ、感づいていると思ってたんだけどなぁ。美愛ちゃんは」

「……ごめん。私雄太さんの事しか頭になかったわ」

「ふぅ、それはとても幸せでしたわね。ねぇリベ」

愛美ちゃんは抱っこしているリベの頭を軽くなでた。


『にゃぁ』とリベが鳴く。

そしてリベは私たちに言う。


「多分ね、それは私の想いが強かったせいかもしれないよ」


「うん、そっかぁ。そうかもしれないね。リベちゃんの想いがあの夢の世界に私たちを誘うくらいなんだもの」



……でもさ、もうあの夢の世界は、現実の世界になるんだよ。


未来は変えられる。

その後に残るのが過去だから……。

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