第21話 あなたの傍にいつまでも File 3
「どうして……」
雄太さんがちょっと遠慮気味に
「ごめん余計なことだったかもしれないけど、俺が知らせたんだ」
「知らせたって……、どうやって? 住所も連絡先も教えていないのに」
香さんが続けて言う。
「あら簡単なことよ。野木崎重工本社はうちの会社のお隣のビル。それに社長宛てに野木崎美愛の件で至急連絡したいことがあるって言ったら、すぐに出てくれたわよ。なんてね本当はちょっとお父さんのコネつかちゃったんだけどね」
「ああ、まさか蓬田さんのお嬢さんと関りを持っていたなんて、思いもしなかったよ美愛」
叔父さんは驚いたように言った。
「そうね意外と世間って狭かったりしてね」ニコッと香さんがほほ笑んだ。
その顔を見つめながら。
どうして、違うよ。そう言う事じゃなくて。
叔父さんたちが私が、美愛が存在しているって言う事を認識しちゃっているの? 普通に私が生きているという事になっているという事なの?
「叔父さん。私が見えてるの?」
「何言ってんだよ。幽霊でもあるまいし」
少しあきれたような顔をしながらも叔父さんは
「すまんなぁ美愛。お前がこんなにも寂しい思いをしていて、追い詰められていたなんて。お前が家を出てから俺たちは気づいたんだ。本当に美愛に向き合っていたのかって。これじゃ死んだ兄さんに顔向けが出来ない。本当にすまなかった」
「私も美愛ちゃんの事を本当の娘の様に思っていたんだけど、それはただ、私が押し付けていた物だったのね。それに、亡くなったあなたのご両親に対して、恥ない様に……そのことが先に出てしまっていた。でもねもう美愛ちゃんは立派な大人になったていたのよね。私にはまだ幼くてあどけない美愛ちゃんしか見えていなかったの。ごめんなさいあなたを苦しめていたのは私かもしれない」
「……叔母さん」
涙がポタリと落ちた。そんな私の肩に叔父さんはそっと手を添えて
「もういいんだよ美愛。お前の人生。自分の好きなようにこれからは生きていけばいい」
「でも、私はいずれ会社を引き継ぐ
「もういいんだそんなことは。本当は、兄さんがいつも俺に言っていたんだよ。会社の為に美愛の人生を自分たちが奪ってもいいのかって。兄さんは、お前が望む人生に向って幸せになってもらいたかった。それが本当の願いだったんだ」
「嘘、お父さんがそんな事」
「嘘じゃないわよ。
……分かっていたお父さんとお母さんの本当の気持ちを。私は二人に愛されていたことを。仕方がなかったんだ。会社を、お父さんは社長として、会社を存続することの為に私に将来決まった人と結婚させなければいけなかったんだ。それは私も承知していたことだったのに……。でもでも。何もかもが決められた道を走るだけの人生、鳥かごの中で一生を過ごす人生がとても空しかった。
その想いがどんどん募っていたのは事実。
一度でいい。一度でいいから本当の恋がしてみたかった。
実らなくたっていい。私の一方的な想いでもいい。どんなにつらくてもいいから、私は籠から出て、ただ”自由”になりたかった。
そしてその”自由”という本当の意味を教えてくれたのは雄太さんだった。
”従うだけの人生に本当の自由は得られない。”
自由を得るためには、立ち向かいその責任を果たさなければ得られないことを。
「叔父さん叔母さん……ごめんなさい」
ボロボロと涙が出て来た。多分物凄く酷い顔していると思う。こんな顔雄太さんには見せられないけど……でも彼に一番見てもらいたかった。
本当の私の素顔を。
これが本当の野木崎美愛なんだって言うのを……。
「ヒックヒック、そ、そうだ叔父さん今日街町中で出会った時、嘘ついてごめんなさい」
私はあの時叔父さんと出会い、人違いだと嘘をついたことを誤った。
だが……。
「何なんだよ一体。こうしてお前と顔を合わせるのは久しぶりなんだ。夢でも見ていたのか美愛」
「えっ!」そんなはずはない。
あの時いきなり後ろから腕を掴まれて、私は叔父さんと出会っていた。その証拠にちゃんとあの時受け渡された名刺もまだあるはずだ。
病依に着替えさせられていた私は、着ていた服を探そうとした。でも点滴とまだ体が自由に動かすことが難しかった。
「香さんごめんなさい。私が着ていた服、出してもらえますか」
「服いいわよ」そう言って香さんはユニット収納庫の扉を開き、私が着ていた服を取り出して手渡してくれた。
確かスカートのポケットに受け取った名刺を入れたのを覚えている。
スカートを広げポケットに手を入れてみた。
無い! 確かにこのポケットに入れたはずなのに。
「どうしたの美愛ちゃん」香さんが不思議そうに私を見つめる。
「あのぉこのポケットに名刺を入れておいたんですけど、ないんです」
「私達何も服からは取ってはいないわよ」
雄太さんも「ああ、お前が倒れていた所には買い物用のマイバックだけだった」そう言った。
おかしい。私の記憶が混乱しているのか? もうすでにあの時具合が悪かったんだろうか。それで幻覚でも見て感じていたのか?
でも……。確かにあの時私は今、目の前にいる叔父さんと出会っていたはずだ。
「また具合が悪くなってきたのか? あんまり無理するな。顔色が悪くなってきたぞ」
雄太さんがじっと私の顔を見つめて言う。
「う、うん」
「俺たちはいったん帰るから、明日また来るよ」
「う、うん」
「何よぉ! そんなに心配しないで、寂しいのは分かるけど、ここ、私んとこの病院だから大丈夫よ。24時間完全看護だから心配しないで」
「ほへっ? 香さんとこの病院って?」
「ええッとね。ここの病院長、私のお父さんなの」
「へぇー、ええええええええええええ! こんな大きな病院の?」
「ああ、俺のこの前初めて香の実家に言った時に知ったんだ。ホント腰抜かしてしまったぜ。あはははは」
浩太さん。お顔が引きつってるよ!
「まぁ、蓬田さんとこの病院はうちの会社の指定病院として契約してあるからな。ここなら大丈夫だ美愛」
「はぁ、そうなんだ。―――――っていう事は香さんもお嬢様って呼ばれていたりして」
恥ずかしそうに香さんは「そ、そうね、実家に帰るとそうとも呼ばれているのかしら……」と、はにかみながら言う。
「あら、そう言う美愛ちゃんだって、れっきとしたお嬢様じゃないの?」
「そんなもう私はそんなんじゃないよ」
「何を言う美愛は私たちの娘なんだ。俺たちはそう思っているよ」
にこやかに叔父さんはそう言ってくれた。
嬉しかった。その言葉が。
「それじゃ明日また来るね。今日はゆっくりと休んでね」
「うん。ありがとう」
みんなが帰った後。静まりかえった病室の中に私一人が残った。
何だろう。
何かが変わったような変な感じがしていた。
夢が、夢の世界が変わってしまった。
そんな気がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます