第15話 あのね。なんでもないけど。 File 7

愛美まなみ、明日は宿題ちゃんとやってくるんだよ」

「なははは、ごめん、今日はホントありがとう。舞奈まいな

学校帰り、親友の舞奈に今日宿題を忘れ、ノートを貸してもらった事で別れ際に釘を刺されてしまった。


家の近くに来ると、郵便屋さんがポストに投函している姿が目に入った。

「んっ!」今の時間に郵便? 小荷物か何かなのかな?

小箱の郵便ポストを開けると、そこには一通の手紙が入っていた。

あて先は『久我愛美くがまなみ』私宛だ。差出人は……『美愛みあ』としか書かれていなかった。


『美愛』誰だろう? クラスの仲には『美愛』と言う子はいない。もし、いるのなら絶対に知っているはずだ。

だって私の名前の字が逆になっているだけなんだもん。なんだか親近感が湧いてきっとお友達になっているはずだ。


他のクラスの子? 思い当たる節はない。……もしかして上のクラスの人からか? あ、なんか聞いたことがある。昔からあるって言うのはそれとなく訊いていたけど、今の時代まさか本当にあるとは思ってもいない。

「不幸の手紙」

なははは、まっさかねぇ――――ええええっでも本当にそうだったらどうしよう。前に不幸のメールて言うのが隣のクラスの子の所に届いたって言うの訊いてたから余計にドキドキしちゃう。


でも何で手紙なの? 今どき。

郵便なんて手紙で来ることなんか、ほんと最近少なくなってきているような気がするけど、でも実際まだ郵便物は定期的にうちにも投函されているし、完全に無くなったという訳じゃない。


わざわざ、はがき1枚でもうちにまで持ってきてくれる郵便屋さんには感謝だが、大変ご苦労なことだとも思う。もう、メールやメッセージSNSで事がほとんど済ませれれるこの時代に。


しかしちょっと意味深と言うか、なんだか開けたくないというのが本音。

開けたら、やっぱり呪われちゃうんだろうか……。送り主が『美愛』としか書かれていないのも気になる。


「ただいま」玄関の戸を開けると

「あ、愛美。ちょうどよかった。ママこれからおじいちゃんの所に行ってくるから、お留守番頼める?」

「またぁ、おじいちゃんの所。今度は何なのよ」

「何だろうね」とにっこりとほほ笑んでいるけど、ママの表情は少し暗かった。


「パパは? 今日は帰ってくるの?」

その問いにママは少し悲しそうに

「どうだろうね。お仕事ほんと忙しいみたいだから」

「そっかぁ……」


今年、2年ぶりにようやくフランスから日本に帰ってくることが出来たパパ。

単身赴任でフランス支社へ転勤してからようやく帰って来たというのに、ほとんどパパはお家に帰ってくることがない。

ずっと私とママとの二人暮らし。まぁ、ママのおじいちゃんのお家がすぐ近くだからよく向こうに二人で行っていたけど、出来るのなら、この家で家族3人笑いあって暮らしていけたら本当に楽しいなぁっていつも思っていた。


でも最近はそんなことはもしかしたら私の一人だけの想いであって、もう出来ないことになるんじゃないのかという不安? そんな予感もしている。

その証拠と言うか、ずっと、ママの笑った顔を私は見ていない。


私がまだ高校に入る前。パパが単身赴任でフランスに行く前までは本当に仲のいい親子だったし、二人も仲が良かった。

そんな二人をみながら私は今まで成長してきたのだ。


それがパパが海外赴任でいなくなってからは、そのあたたかな空気が次第に冷めた冷たい空気に変わってきているのを私は感じていた。

「行ってらっしゃい。おじいちゃんとおばあちゃんによろしく言っておいてね」

「う、うん。分かった。……ごめんね愛美」

そう言ってママは玄関の戸を閉めて出かけて行った。

ガレージから車の音がする。


歩いて行ってもそんなにかかる距離じゃないんだけど、ママはいつも車で行く。

自分の部屋の窓から、ママが運転する車が家から出て行くのを私も何となく冷めた感じで見ていた。


制服から部屋着に着替え、忘れないうちに今日の宿題に取り掛かろうとした。

カバンからタブレットとノートを取り出し、タブレットの電源を入れる。

ノート。ふと思う事があるんだけど、タブレットですべてが完結できる学習スタイルなのに、どうして未だノートという物が存在するんだろうかと。

タブレットにあるのは今日やった授業の内容が、全てリンクされている。それをノートにわざわざ移し替えないといけないのだ。


面倒なことだ。

そのままにしておいても、データーは残っているのに。新たに書かないといけないというのは何の意味があるのだろう。

だが、それが方針という事であれば私たちは従うしかない。


「なんだかなぁ、やる気がしないなぁ」

机の上に無造作に置いた手紙を目にして「気になるよね。開けて読んだ方がいいのかなぁ」

そっと手紙に手が伸びた。


なんの飾り気もない白い洋風便箋。よく見ると切手の上に押された消印の日付に違和感を覚えた。

もしかしてこの数字って17年前に押されたって言う事?

嘘でしょ? 何でそんなにも昔の手紙が送られてくるの? もしかして郵便局のミス?


だとしたらプレミアでも付くんじゃないの。

馬鹿なことを考える自分にちょっと呆れた。


「ふぅ―」と一息入れて、封筒を空けようとしたが、思いのほか糊がしっかりと付いていて、開け口からは開けられなかった。

ハサミで横を切るか。

机の引き出しから、ハサミを取り出し横の端ギリギリの所を切った。

嫌な手紙だったらすぐにシュレッターにかけちゃえばいい。

そ、なかったことにしちゃうんだ。


そっと中のものを引き出すように取り出した。

写真が折りたたまれた手紙の中にあるのが感触で分かった。

その手紙を広げると中から滑り落ちるように一枚の写真が机の上に落ちる。


目にした写真に写っていた人たち。

それは紛れもない若い頃のパパとママ。

そして……もう一人。

私よりちょっと年上の様に見える可愛らしい女の子の姿。



写真の裏に書かれていた。

久我雄太。

蓬田香。



野木崎美愛。


「私の愛すべく二人。そして、まで見ぬあなたへ」と……。

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