第14話 あのね。なんでもないけど。 File 6
「なんだなんだ美愛泣いているの?」
「な、泣いてなんかいないよ!」
「そう、でもその涙何? それって泣いているって言うんじゃないの?」
「う、うるさいなぁもう。あ、それより……麻衣、あなた私寝ている間に何かしたでしょ?」
「うっ! な、何かって?」
「どうして私、裸だったのよ。脱がしたのあなたなんでしょ」
「あれぇ、覚えてないんだ。何だよう! 悪いのは私なの?」
どう言う事よ! そんな事やるの麻衣しかいないんってあなたしかいないんだから。
「だからさぁ、美愛自分から服脱いだんだよ」
「へっ? 私から?」
「そう、あなたから」
「でもでも、どうして私服脱いじゃったの? 記憶にないんだけど」
「さぁ、どうしてでしょ」
麻衣はもう一本煙草を銜えて火を点けた。
《麻衣は高校生です。高校生の喫煙は法律で禁止されています》
「で、私に何かした?」
「何かって?」
「……だ、だから悪戯とか……その、気持ちいい事とか……その、その」
「何顔赤くしてんのよ」
ニタぁ―と麻衣の顔が緩んでいる。
「だからさ、セックスしちゃったの私達」
「あはははははは、しちゃ駄目だった?」
マジかぁ! ついに私もそっちの世界に踏み出したんだ。あああああ、そりゃ、さ、ずっとしていないよ。別に欲しい訳じゃないんだけど。でもそれちょっぴり嘘になるかなぁ。でもでも、寝ている間にしちゃうんなんて――――なんてもったいない! あ、そうじゃなくて。あああんっもう。顔が熱いよう。
「な、なによう!」
私をじっと見つめながら麻衣は一言。
「いやぁ、美愛って面白いなぁって。こんなだっけ美愛って、大分キャラ変わったよね。”昔からすると”」
「昔からってほんの3年くらい前の事でしょ」
そうだね、今のあなたにとってはそうなんだよね。でも、私はずっとあなたの事を知っているんだから。あなたの前の姿も。
あの美しい毛並みも……。
ちょっとすねた感じで言う私の顔を麻衣は見つめ、そっと私の唇に自分のを重ね合わせた。
「あっ!」
「ご馳走様」と耳元で呟く麻衣。
「ええッと……。はい」
顔がさらに熱くなっちゃったよ。
そんな私に麻衣が「ところでさ、美愛。お腹空かない?」と、自分のお腹を指さして言う。
「えっ、て今何時なの?」
「午後3時過ぎたところかなぁ」
「げっ! 嘘、私どんだけ寝ていたのよ。起こしてよ」
「だってあんまりにも可愛い寝顔だったんでつい」
「……つい?」
「一緒に寝てた」
「あれっ!」
結局私は麻衣に愛されたわけじゃないみたいだけど。でもとても懐かしくて、暖かな気持ちになれたのは確かだった。
遠い昔、私と彼女は一緒にいたような感じがする。
そんな気がした。
「軽くサンドイッチでも作ろっか」
「そうだね。どうせお祭りに行ったら屋台が待っているんだから。たこ焼きに、焼きそば、クレープ。ええッとあとはね」
「麻衣よっぽどお腹空いているの? 食べ物ばかりだね。出てくるの」
「あはは。そうだね」
だからさ、楽しもうよ。一緒に……美愛。
こんなことくらいしか私にはしてやれないんだよ。
陽が沈み、辺りが暗くなるにつれて街の灯が輝きだす。
夜の街は華やかだ。
昼間の装いとは違う。まるで別世界にいる様な感覚になる。
その街のはずれにある神社。
大きな鳥居から拝殿までの参道。淡いオレンジ色の光の中、軒を連ねて立ち並ぶ屋台。
香ばしく甘い香りが立ちこめ、自ずと胸のドキドキが高鳴るこの雰囲気。
お祭りと言うのは、久しく味わう事のない雰囲気にさせてくれるんだと改めて思う。だから楽しいんだと。
「ねぇ、美愛はお祭りなんて来るの久しぶりなんじゃないの?」
「うんそうだね。もう何年もこんな雰囲気に浸ってないよ」
「そうかぁ、じゃぁ誘って正解だったね」
「ありがとう。……でもさ、私で良かったの? おとう、ううん、麻衣の彼誘わなかったんだ」
「無理だよう、今はまだ無理。誰かにそんなところ見つかってごらん。せっかく今まで絶えて来たものが全て崩れちゃうんだよ。だったらその時が来てからの方が絶対いい。うん、そうだよ」
なんだか麻衣は自分に言い聞かせているような気がしたけど、多分本当は一緒に来たかったんだよね。込み合う人の中、ふと私の隣に雄太さんがいる様な想像をしてしまっている自分に、なんだか少し恥ずかしいくなってしまった。
今日の夕飯は雄太さんも香さんも外で済ませてくるって、メッセージが来ていた。
夏休みもあって、雄太さんが気を使ってくれたんだろう。少しだけど、自由に使えるお金も今月はある。
特別何か買わなくても私は、この雰囲気を味わえているだけで十分だ。
でも麻衣は……違うよね。
「あ、まずはアメリカンドッグから行ってみよう! で、次はお隣のチョコバナナ。そんでもってやっぱりお祭りと言えば、たこ焼きと焼きそばは外せないな」
「あははは、そんなに食べたら一気に太っやうよ」
「へへん、それが大丈夫なのだ! 私は太らないのだよ美愛君」
「何で? 私なんかすぐに太っちゃうんだけど。……特にこの胸に行くんだよねぇ」
「あのね美愛さん……それって私に喧嘩でも売ってる?」
「えっ! そんな事ないよ。麻衣だってちゃんとあるじゃん。それにあんな綺麗な躰なんだもん。羨ましいくらいだよ」
「う――――ん。でもさ、やっぱ女の価値っておっぱいの大きさで第一印象判断されちゃうとこあるでしょ」
ええええッと、なんだか前にもこんな話したような気がするんだけど、でも、おっぱい大きいと大きいなりに大変なんだよ。
なんて言う事を言うと、かえって逆効果になりそうだからここは黙っていよう。
て、そんな事を思っている隙にもう麻衣の姿は屋台へと動いていた。
なはは、さすが行動力はあるわな。
「おじさん、一本ちょうだい」
「あいよ! ありがとね」
「それじゃ私にも一本くださいな」
ちょっと前かがみになって、シャツの襟元ボタンもう一個外しておいて、ちらっとブラがみえるのかって言う感じで言うと
「おっと、可愛いねぇ。叔父さんかわいい子にはサービスしちゃう悪い癖があるんだ。もう一本おまけだよ」
「あ、ずるぅ――――い! 美愛」
「いいもん見せてもらったご褒美だ」屋台のおじさんがにこやかに言う。
「まったくもう、やっぱり武器にしてんじゃん」
「えへへ、ごめんね」
―――――えへへ、楽しいなぁ。
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