第40話 「ふり彼」と「ふり彼女」 ACT 5
「お・み・あ・い」
「ほへっ。お見合い? するの? 香さん」
「親がさぁ、こんな年まで一人でいるなんて、て、騒ぎだしちゃってね。付き合っている人がいないなら強制お見合いさせられちゃうの」
「強制お見合い……マジ!」
「そうなのよ、私はさぁ、まだ結婚とか考えていないんだけどね。このお見合いしちゃうと、うちの親、勝手に話進めちゃいそうな雰囲気なのよ。私の意志なんか関係なくよ」
「ああああ、よくある話だよね。うちのクラスの子も、もう婚約決まっている子もいるしね」
「うっ! それってマジなの? まだ高校生だよね」
「ほら、うちの学校ってそう言う子たちが集まっている学校じゃん。実際、結婚てさ、親が自分たちの都合で勝手に相手決めちゃうんだよね」
「それって政略結婚ていうやつじゃない。実際にあるんだ。マンガとかでしか見ていないんだけど。まさかねぇ」
「そのまさかが、普通になっているのが白百合なんだよねぇ」
「それってお嬢様の宿命って言う事なの?」
「どうだろうある意味そう言ういい方も出来るんだろうけどね。でも、そう言う事はもう幼いころからこうなるんだって、植え付けれれているからそうなるのが当然だと思っているんじゃないの。私は嫌だけど」
「だよね、だよね。そうよ。うんうん。結婚ってさぁ、親がするもんじゃないでしょ。当人たちがするもんじゃない。それがさ、なんか親の自己満足で結婚させれれるのって物凄く嫌なの、私」
「でもさ、香さんは結婚したくないんでしょ」
「う――――ん。そこを刺すか美愛ちゃん」
香さんはちらっと雄太さんの顔色を窺うように視線を向けて。
「結婚絶対にしたくないって言う事じゃないんだけど。今はまだその時期じゃないんだと思っているの。仕事も面白いし、もう少しって言うか何だろう、今のこの生活が心地いいって言うのが正直なところかな」
「ふぅ―ンそうなんだ。それで雄太さんをふったという事か」
そう言って雄太さんに視線を向けると、私とは目を合わせない様にしながら
「俺、煙草吸ってくる」と言って、席を立ちベランダの方へ向かった。
まったく逃げちゃ駄目でしょ。「ふぅ―」とため息を軽くつくと香さんが小声で「でもさ、結婚いずれはすると思うよ」と言った。
そうか、でもその相手が雄太さんなのかどうかは、今のこの状態だとまだ分かんないよね。
「で、香さん。なんかあるんでしょう、そのお見合いの件で雄太さんと」
「実はね、その強制お見合いを回避すべく、明後日雄太に私の親に会ってもらおうて言う事になってるの」
「はぇぇっ? 香さんの親に?」
「うん、この人が今付き合っている人です。ちゃんと付き合っている人がいるから、お見合いは出来ませんって、拒否権を発動させようと雄太に『ふり彼』の役を頼んだのよ」
「元カレに?」
「だってこんな事頼めるの、雄太しかいないんだもん」
「それで雄太さんは承諾したんだぁ」
「ま、まぁね」
スッと視線を外す香さん。あ、これは香さんが雄太さんにある意味強制させているんだなぁって思った。
案の定雄太さんは、私たちのこの会話に関わりたくない雰囲気? オーラがベランダからむんむんと発しているのが分かる。
こりゃ、どうしたもんかなぁ。
あんまり私は首突っ込んじゃじゃいけない様な気がするけど、もしかしてこれがきっかけで、この二人、より戻したりして……なんてね。
でもさ、私はいいんじゃないのかなぁって、思う……思う事にした方がいいんだよね。
だってさ、こうして別れても、こんなに仲がいいんだもん。
多分この二人はさ、もう切ることの出来ない赤い糸で結ばれているんだよ。
そうだよ。
ベランダで煙草を吸っている雄太さんに「珈琲出来たよ」と、声をかけた。
「ああ」と軽い返事をして、ちらっと私の顔を見た。
何だろう。その時「ごめん」って聞こえた感じがしたのは、私の気のせいだろうか……。
結局今日も香さんはこの家に泊まっていった。
そして午前中、早い時間に自分のマンションに帰った。
「洗濯もの溜まってんだぁ。今日中に何とかしないといけないから帰るね」
にっこりとほほ笑みながら、そのほほ笑みを雄太さんに向けて
「雄太、明日よろしくお願いします」と、頭を下げた。
「お。おう」顔を少し赤くして、どことなく照れながら返す雄太さん。少し緊張しているんだろうか。
「あ、美愛ちゃん。ちょっと」
私を玄関の三和土の方に呼び出し、耳元で
「雄太借りちゃうけど許してね」と言い、ほっぺにチュッとキスされた。
「美愛ちゃんのほっぺ柔らかい。それじゃぁね」
ぱたんとドアが閉まった。
「はぁ―」とまたため息をする雄太さん。
そんなに乗り気じゃないんだったら、はっきりと断ればいいもの……でもさ、それが出来ないんだよね雄太さんは。
あなたはまだ、香さんの事を愛している。
別れたって言ったって、それはあなたがただそう思っているだけかもしれないでしょ。現に香さんはあなたの事をこうして頼りにしているじゃない。
もし、また二人がよりを戻してこの家で生活すというのなら、私はここを出て行かないといけないね。
元々、私はあなたとは何の関係もないんだから。そんな私をここまで面倒見てくれているとても優しい人。
そうだよね。私は何時までもここに……いることは許されない。そうなのかもしれない。
「あのさ、雄太さん」
「な、何だよ。いきなり」
私は自分の顔を”ずん”と雄太さんの顔に近づけて
「今日は何か予定ある?」
「べ、別に……ねぇけど」
「それじゃ、今日は私に付き合ってくれる?」
「付き合うって……」
ベランダから見え広がる青い空を目にしながら私は一言言った。
「遊園地。一緒に遊園地に行こ」
「遊園地?」
「うん、遊園地。嫌?」
彼もまたその青い空を目にしながら「そうだな。今までどこにも一緒に行ったことなかったからな。行こうか……遊園地」
「うん、ありがとう」
抱き付いた雄太さんの躰から体温が伝わる。
とても温かくて、気持ちいい。
この安らぎは何だろう……昔お父さんに抱っこされた時の様な。そんな感じがした。
私は雄太さんが好き。
こんな私を拾ってくれた雄太さんが好き。
スッと引き込まれそうになる想いを抑えて「それじゃ準備するね」と言い雄太さんの体から離れた。
今日はとてもいい天気だ。
私たちはこれから二人で遊園地に行く。
もしかしたら……これが、最初で最後の雄太さんとのデートになるかもしれないね。
そんな想いを私は感じていた。
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