第14話 私をここに置いてください ACT 4
御粥はあっという間に平らげてしまった。
「あ―――美味しかった」
「ありがとう」嬉しかったんだろうニコット笑う笑顔が、またも俺の気持ちをそそらせた。
「どうしたの?」俺のその表情を見ながら彼女は不思議そうにしている。
「いやなんでもない」
とっさに出た言葉だ。ときめいている? 俺。待てよ待てよ、確かにさぁ、彼女を連れ込んだ目的はそりゃ、な、否定は出来ねぇけど。この感情はなんだ。
それに彼女はまだ高校生だぞ! おい俺、今年28歳。10歳も歳離れてんだけど……。まだ子供だぞ……体はまぁ、その、お、女だけど。
いかんいかん。断ち切るんだ。彼女はもう時期ここからいなくなる。いつまでもこの雰囲気にのまれていちゃいけないんだ。
「あ、そうだ、ご飯食べたんだから、お薬飲まないとね。それとねつも測ってみようか」
またもにっこりとしながら言う。
そのまま寝室から薬袋と体温計を持ってきて
「はい、まずはおねつ測りましょうね」と、体温計を渡された。
ピッピッ
「う――――ん。39度かぁ。まだ高いねぇ。でもさぁ42度よりは大分ましだよね」
「42度?」
「うんそうだよ」
「マジかぁ、俺そんなにねつ上げていたんだ」
「だから言ったじゃん。死んじゃうかもって、物凄く心配したんだから。はいそれじゃ、お薬飲んで。お水今用意するから」
水をコップに注ぎ、俺の前にことりと置いてから彼女は一言
「さてと……」と、吐き出すように言う。
その声に、ビクッと反応する。
もう行ってしまうか。そうだよな。今さっき決意したんだろ。もう彼女をここに引き留めておくことは出来ない。
「あ、……そうだ。買い物の分清算するよ。それとさ、俺の気持ちも込めてなんだけど」
財布を持ってきて中から諭吉を数枚取り出し、テーブルの上に置いた。
その札をじっと見つめながらも、彼女は手を出そうとはしなかった。
「どうしたの? 俺こういうのって初めてだから、どれくらいか分かんないけど、もしかして足りなかった?」
彼女は大きく頭を横にった。
「そ、そんなんじゃないよ」
「じゃぁどうしたの?」
「あのね。……心配なんだ。あなたの事が」
「心配って、でももう帰らないと。こんなことは言いたくはないんだけど、ご両親も心配するんじゃないかなぁ」
「…………」
彼女は下を俯き、小さな声で言う。
「ねぇ、今晩も泊まってもいい?」
「帰りたくないのか? 俺の事が心配だったら、でももう大丈夫だと思う。ここまでして貰って本当に感謝しているよ」
「感謝だなんて、大したことしてないけど。……泊まるのはダメ?」
「えっ。ダメって言うか。でもさ……」
こういう時なんて返したらいいんだろう。この子をここにもう一晩泊めてしまう事は許されることなんだろうか。今さらだが、そんなことをも考えさせられてしまう。
俺の本音は、居てもらいたい。
もし彼女がここで帰ってしまうと、俺はまた一人っきりになってしまう。それが何となく虚しかった。
「君が良ければいいんだけど。本当に大丈夫なの?」
こくんと彼女は頭を縦に振った。
これが彼女、美愛との
思いもしなかった展開がここから始まろうとしていることに、俺はまだ予想だにもしていなかった。
その夜、美愛はまた俺の所に泊まった。
彼女を誘ったのは、金曜の夜の事。そして今は日曜の夜だ。
これで三夜彼女は俺の所に泊まることになる。
昨夜は、俺の意識がもう途絶えていた状態だったから、彼女が泊まったことについては問う事はできない。いや、むしろ居てくれたことに感謝さえしたいくらいだ。
体調も徐々に良くなっている。「心配だから」彼女はそう言っていたがそれが本心かどうかは分からないけど、俺は嬉しかった。
それはそうと昨夜はどこに寝ていたんだろう。
もしかして居間に……。そうとしか考えられないよな。
「なぁ、昨日の夜はどこで寝ていたんだ」
「ええッとね、あの物凄い沈むソファーで寝ていたよ」
「寒くなかったのか?」
「ううん、全然。あ、出来れば今日はシャワーだけでも使わせてもらえると助かるんだけど」
「それは別に構わねぇけど」
「後さぁ、何か私が着られるものあったら、貸してもらいたんだけど」
「着られるものって、そのスエットくらいだけど。でもさやっぱぶかぶかだよな」
「なはは、勝手に借りちゃってごめんなさい。だって制服しか着るの持っていなかったから。借りちゃった。もう、これも洗濯したいし、シャワー浴びた後着れるものが有ればいいだけだから」
「でもなぁ男の一人暮らしだし……あ、でもそりゃ、マジぃかぁ」
「何か思いついたの?」
「いや、前に……ええッと付き合っていた彼女が良く俺のワイシャツ来てたから」
「あ、それでいいよ。どれ使っていいか教えてくれる?」
「ああ、分かった。とりあえずクローゼットの中に入っているのは会社に着ていく用だから、納戸に入っているのならどれでもいいんだけど」
「ありがとう、バスローブだとなんか変な気分になっちゃうから助かります」
「変な気分って?」
「ンもぉう、あなたはまだ病人なんだから変なことに体力つかわないで、早く良くなってください」
なんだか説得力あるなぁ。
まぁ、確かに彼女の言う通りだよ。今はあっちの事に体力は使えねぇ。それよりも、何とか早く回復させねぇとな。でも明日は会社、こりゃ休まねぇといけねぇだろうな。
ああああ、でも彼女がもう一晩傍に居てくれる。
その思いだけでも俺の体調は、はるかに良くなったような気分になれる。
もう窓の外は暗くなり、街の灯が映りだされていた。
そして俺はこの夜。
彼女、美愛からあることを告白された……。
それは思いもしない結果を招くことになるとも知らずに。
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