第6話 交わりは一直線 ACT 1

「あチ!」。ふうふう、ハフハフ。

「あははは、そんなに慌てなくても、誰も取りはしないよ。ちょっと熱すぎたか?」


彼女は首を横に振り、スプーンでオムライスをすくい、息をまたふうふうとかけ十分に冷ましてから口に入れる。

「もしかして猫舌か」

うんうんと首を縦に振った。もう目の前にあるオムライスを食べることに夢中のようだ。


コンビニ弁当なのに、そんなにガツかなくても……。


「お前そんなに腹減ってたのか?」

「今日何も食べていなかった」


「そ、そうなのか。そりゃ、腹減ってるよな」なんて言う事を言っているうちにもう彼女はオムライスを平らげ、グラスのジュースをごくごくと飲み干した。

よっぽど腹減っていたんだな。やせ我慢しやがって。


「足りたか?」

「う―――――ん」

おいおい、悩むなよ。あの様子じゃまだ足りてねぇんだろうな。


冷凍庫から非常食で取ってあったライスバーガーを取り出して、「こんなもんしかないけど食うか」と訊くと、彼女は大きく首を縦に振った。

やれやれ今日何も食べていなかったて言うのは本当らしいな。

でも何で食べていなかったんだ?


「少し待てよ」ライスバーガーをレンジに入れてスイッチを入れる。

「冷凍だから少しかかるけど待ってな」

「うん」


何か目の輝きが今までとは違うな。


ようやく俺も自分のパスタのパッケージに手をかけることが出来る。

その様子をじっと彼女は見つめていた。

「んっ」もしかしてこっちの方が良かったのか?


「こっちが食いたかったのか?」

ぶるぶると首を横に振っていたが、視線をパスタから外すことはなかった。


やれやれ、俺はさほど腹は減っていないから

「半分やるか」首をまた横に振ろうとしたが、ピタリと止め1,2秒間俺のパスタを見つめる。


「ふぅ」食器棚から皿を取り出し、パスタを半分盛り付け、彼女の前に置くと

「いいの?」と訊いてきた。

「いいよ。ライスバーガーも食うんだろ」

「うん」とにっこりとした笑顔が帰って来た。


しかしまぁ、若いって言うのは食欲あるよなぁ。なんか見ているだけで、こっちは腹一杯になってしまった。


「満足したようだね」

「うん、ご馳走様でした」


食べ終わった後の容器はそのままゴミ箱にポイポイとすていれ、テ―ブルには飲みかけのジュースの入ったグラスだけを残した。


「あ、そうだ風呂今すぐ入るか」

彼女はまだお腹がいっぱいで、その余韻に浸っているようだ。


「もう少し後にしてからにしようか」

「……うん」と小さく頷く。


「そうか、じゃ、少し休んでいな」

「うん、ありがとうございます」床にぺたんと座り、ベランダの窓に映る街の灯をボーと眺めていた。


少しの間が俺たち二人を包み込む。


こんな時、こういう子たちとは、どんな話をすればいいんだろうな。それとも、少しモーションをかけてみてもいいんだろうか。この間が俺の求める行為への入り口でもある様な感じがしてきた。



ジワリと高まる期待感。



ここまで来たら、彼女もこの先の事は理解しているはずだ。

俺はそれを目的として彼女を連れ込んだのだし、彼女もついてきたんだから。

彼女の後姿を遠目で見つめ、白のブラウスから、薄く透けるように見えるピンク色のブラが視線を集中させる。


テーブルのグラスを持ちそっと彼女の横に座り、グラスを彼女の前に置いた。


「何見てるんだい?」

「ん? 何って言うか、綺麗だなぁって」

夜に光る街の灯。彼女はその灯を綺麗だという。

「そうか? 俺には何となく虚しく見えるんだけどな」

「そうなの? どうして」

「さぁな、そんな感じに見えるだけかもしれないし、一人でいることが寂しいのかもしれないな」

「一人かぁ……。それ、私も分かるような気がする」

ちょっと視線を下に落とし彼女は言う。


そんな彼女の肩にすっと俺は手を伸ばした。


ピクンと身体が振るえた。


この時ふと、香だったら俺の顔を見つめ、自然と俺に身体を寄せてきていたことに。でもこの子は違う。肩に手を触れただけで身体をこわばりさせ、ドキドキと胸がなっているような感覚が伝わってくるようだ。


それもまた、初々しさを感じさせ、期待感が高まる。

少し、肩に添えた手に力を入れ、彼女の体を俺に引き寄せた。


ブラウスの上からでも感じる柔らかい体の感触と、水水しさ。少しずつ感じる彼女の体温が俺の体に伝わりは始めていた。


サラサラとした髪が俺の頬をくすぐる。


そのまま、俺は彼女の顔に自分の顔を近づけ、唇を重ねようとした。

その時、「ごめんなさい。やっぱり先にお風呂使わせていただいてもいいですか」と彼女は小さな声で言った。


もう少しだった。でも、焦りは禁物……まぁお互い了解の事なんだから。それに今晩は彼女は泊って行くことになっている。時間は十分にある。


「そうか、じゃぁ準備するか。ちょっと待っててな」

俺は浴室に行き、風呂に湯を入れ始めた。

湯気が浴室を包み込む。換気扇のスイッチを入れ湯気を外に逃がす。


脱衣所に、俺の洗濯ものなんかがないことをちらっと見て

「もう少しでお湯溜まるから、使い方分からなければ入る前に言って」

「あ、ありがとうございます」


来るときに背負っていたキャラ熊のリュックに手をかけ、彼女は浴室へと向かう。

「大丈夫そうか?」

「はい大丈夫です」と声が帰って来た。そうか、ま、特別高機能な設備がある風呂じゃねぇからな。


で、彼女がまた脱衣所のドアを開けこっちにやって来た。

「どうしたの?」

「あのぉ……。お願いがあるんですけど」

「お願いって?」

「洗濯機使わせてもらってもいいですか?」

「別に構わないけど、使い方分かる?」



「大丈夫そうです。下着とか洗いたかったので助かります。ありがとうございます」ペコリと頭を下げ、また脱衣所の方に向かった。



下着ねぇ……。ふぅ―――ん。下着かぁ。

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