第5話 自然に帰る
テラノイの支配するこの国――太陽国では、朝、昼、夕、昼、そして朝。そんな風にめぐる。
そしてこの国に気まぐれにも夜がおとずれたら、その時は……。
「イケニエを一人、空に捧げるんだと」
「なんだそれは。それより背中がかゆい」
「おえ、僕は男の背中などかきたくないよ」
手首、足首ともに、見たこともない石によって固定され自由を奪われてしまったミザンは、ホポロの話を話半分に聞いていた。
「んー、イケニエの説明は難しい。簡単に言うと、ネーネキキに囚人を食わせるんだそうだ」
「ネーネキキ?」
「黒い大鳥のことだよ」
「!――」
「どうもオマエは、そいつに食われる運命らしいぞ」
◇
ある日。
太陽国は、暗闇に包まれた。――とうとう夜が来てしまったらしい。つまりは、イケニエの日だ。
「――!――――!」
その日、ミザンは布っきれで顔をおおわれてしまい、目と耳があまり働かなくなってしまった。
しかし、その中でもテラノイの声だけは、かろうじて聴きわけられたようで、ちくいち耳がざわついていた。
「今夜、イケニエに捧げるのは夜の化身と呼ばれる少年だ。彼は、私のつるぎを盗んだ大罪人だ。ゆえに、容赦はしない――」
テラノイのその言葉に鼓舞されたのか、人々は「わ――!」と声をあげはじめた。
かたや、ミザンは眉をひそめていた。
視界を奪われたまま延々と段差をのぼらされ、次もまた段差があるんだろうと思いこんだところで段差がなくなり、つんのめったため、どうやらモヤモヤが晴れなくなってしまったらしい。――ミザンはもう、普段のひょんひょんとしたミザンであった。
そして――……。
「ネーネキキ!」
――テラノイがとうとう黒い大鳥を呼んだ。
ひゅぅうううう、しゅぅうううう――。そんな空を羽ばたく音がきこえると、ミザンは布の奥でにんまりとした。
――黒い大鳥、ネーネキキ、名前などはどうでもよかったが、ミザンはとにかく喜んだ。その知ってる気配に。
「よかった。もう飛べるんだな」
そんなミザンの心と通いあったのか、黒い大鳥はなかなか降りてこなかった。
そして、なぜか場を掌握していたはずのテラノイの方が胸をおさえ、苦しみだした。
続いて響き渡ったのは「ネーネケクーッ!」という、黒い大鳥の大きななき声だった。黒い大鳥は、何かを呼ぶように何度も同じようになき、その度にテラノイの様子がおかしくなっていった。
不思議なことはさらに続いた。
ポツリと、するどい雨が一つ、また一つと、ミザンのもとだけに降りだしたのである。そしてそれはやがて、ミザンの自由を奪っていた何もかもを溶かし、彼をとうとう自由にしたのであった――。
『テラノイ、貴方の負けよ。ネーネキキは、もう貴方の言うことはきかないわ』
テラノイの中から、少女の魂が現れた。
「――!、オマエがホポロの言っていた霧雨の乙女か」
『そうよ。テラノイは心のない鳥、ネーネキキの力で、私の魂を封じていたの。でも、ネーネキキにも心が出来て、それもうまくいかなくなったみたい――。天候はすべて私の力を利用してテラノイが支配していたの。でももう終わりね。やがてここにも自然に夜が来て、自然に雨が降るようになると思うわ』
「――よくわからないが、そうか」
次の瞬間、ミザンは黒い大鳥にさらわれ、森のある方へと帰っていったのだった。
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