第4話 太陽神
ある夜のこと。
森には、無数の松明がゆらゆらとしていた。
あたりが焦げ臭いのかミザンは鼻をおおいつつ、夜の闇にまぎれながらその様子をうかがっていたのだった。
「太陽神――、テラノイ様――!」
テラノイ――その響きに彼、ミザンはハッとしたのだった。
それは、いつぞやかホポロが言っていた、どこかしらの王の名だ。そしてつい先日「呪いのつるぎ」をミザンのところにまで飛ばし大木を枯らした――。
さらに今、ミザンにしか感じないだろう何かがうごめいた。――それを見つけた彼の警戒心はこれまでにないくらいに、はねた。
とっさに、かなりの大声で「ううぅぅぁああっ、うあっうあっ」と、動物の声マネをしてしまうほどに。
ミザンのその声をかわきりに、森中にいた集落の人たちが、彼につかみかかるようにして一斉に襲いかかった。
あたりは異様な雰囲気に包まれていた。
ミザンだけがそれを見抜いている、そんな状況だった。
襲いかかってきた人同士が殺し合うように回避した彼だったが、表情はずっと強張っていた。
ひょんひょんとした彼はどこへやら。ずっと一点だけを見すえて、警戒を解かなかった。
夜の化身――そう普段は恐れられているミザンだったが、それはただたんに彼に人と渡り合っていけるほどの能力がないだけのこと。
わかっているのは、そんな野生児そのものの彼がもっとも警戒する存在こそが、一番危険だということだ。
集落の人たちが、なだれるようにして次々と倒れていった。
――あたりがとても静かになった。
そしてそれを破るようにして、パン、パン、パンと乾いた拍手が響き渡る――。
「なるほど。オマエには私がわかるのか」
そんな声とともに、そこにはいなかったはずの少年が現れた。金色の長髪に睫毛、耳にも金色の輪、そしてこのあたりでは見慣れない、模様の入った長い布をまとっていた……。
ミザンは高い木の上から、それらを険しい表情で眺めた。そして「本当に、――魂が二つあるんだな」と、つぶやいた。
「はははははっ!まぁ、ね。夜の化身か――、面白い逸材だなぁ、しかしいささか退屈だ。そこにつるぎがあるだろう、それで私に歯向かってみてくれないか」
しかしミザンはそれにはこたえず、木から木へ飛び移って逃げだしたのだった。
「――!」
「オマエは愚かだなぁ」
逃げようとするミザンを、太陽神とあがめられていた少年は容易く追ってきた。とてもすばやかった。彼は生物とはかけはなれた能力でミザンのことを、追ってはけり落とし、追ってはぶん殴った。
「動物だな。小動物でたとえられそうだ。次はなんだ。死んだフリか?」
テラノイのその言葉と同時に、血みどろのミザンはぐったりと気を失ってしまったのだった。
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