第3話 つるぎ

 ある日の夕暮れ時。

 ミザンは自分の乗っている大木を大げさに揺らし、遊んでいたのだった。どうやら葉がハラハラと沢山落ちる様子、そして地面にうつしだされる自分自身の影の様子を見て楽しんでいるらしかった。

 しかし日が落ちていくにつれ眠気におそわれた彼は、そのまま体にアリがはっても起きられないほどに眠りこけてしまったのだった。


 その夜。

 眠っている間のいずこかで木の上から落ちてしまっていたミザンは、ハッと目を覚ました。

 そして唐突に飛んできたソレを横に飛んで避けたのだった。


 トンッ。――そんな音がしたかと思えば、夕暮れ時にミザンが乗って遊んでいた大木が、しゅぅうっと、しおれていってしまったのだった……。


 その様を目の当たりにした彼は、あたりの気配を必死に探った。夜の森でも彼の目は、どこに何があるのかくっきりとわかる。ミザンはすこしどころでなく、焦れた。それも当然だろう。こんな危険なものに、彼はこれまで遭遇したことなどなかった。


 まるで気配を感じなかったのに、おかしなものが飛んできた。


 人のいる集落の方角からではなかった。そう。どちらかというと、森の向こうにある誰も登れそうにない、崖と海がある――方角。

 人の気配はなさそうだ。あれば、彼はとっくにうなっていたことだろう。


「海を越えて飛んできたのか――」


 彼は振り返って、自分を殺しかけたソレを慎重すぎるくらいにジッと見た。

 ソレは誰がどこからどう見ても、つるぎだった。

 ミザンは次に、つるぎの刺さった大木の様子を見つめた。木はなおも蒸発し、音をたててしおれ続けている……。


 そうして眺めているうちに、彼はふと、あることを思い出したのだった。


 ◇


 この世界には、「呪い」というものがある。

 そして、大体の呪いは火から生まれるため――火が燃えない工程をふめば、食いとめられる。


 ◇


「ホポロがそう言うんだ。これが呪いかはわからんが、やってみるか」


 ミザンはさっそく木から木へと飛び移り、洞窟のそばに降りたのだった。

 彼は集落からくすねた大きめの桶で洞窟の水をくみ、そいつを重そうにゆらゆらしながら運んでいくと、その中の水をつるぎにぶっかけたのだった。

 その都度、桶いっぱいいっぱいにくむため、動く度にあぶれた水が地面にバシャバシャと音をたてて落ちたが、彼はおかまいなしだった。


 試しに、小枝でつるぎをつつく。すると、小枝はつるぎのせいであっという間にしおれ、灰になった。水をぶっかけては、またつついて小枝を灰にし、――以降はこの繰り返しであった。

 ミザンは水をくむ往復によりヘトヘトになりながらも、小枝でつるぎをつついた。小枝の様子は――今度は、変わらなかった。


 これは……呪いがなくなった、ということだろうか。


 彼はパタンとうつ伏せに倒れこみ、にんまりした。このつるぎは――ようやく「たんなるつるぎ」となったのだ。そのことが単純に嬉しかったようだ。


 蒸発もやがておさまった。しかし、大木のしおれた形だけはどうにもならなかった。


 ミザンは真剣な表情に戻ると、木からつるぎを引き抜いた。軽く振ると、つるぎに文字が刻まれていることに気づき、彼はそれをたどたどしく読みあげたのだった。



 ――……『太陽神』。

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